方針決定
「どんな方法で脱出するつもりですか?」
「そりゃあ、見つからないように隠れるんだよ。」
「えっと、どうやって?」
「気合いだよ、気合。」
ジンさんが力こぶしを作り、自信満々に答える。
「駄目だな。」
「駄目ね。」
「さすがに無理だと思います。」
「ジンはちょっと残念な人ニャ。」
「おい、さすがにその評価は傷つくぞ。」
「ジンさん、弟子の私が言うのもなんですが、さすがにフォロー出来ません。」
「ユーリまでかよ!」
全員に否定されたジンさんはショックを受けたようで地面に座り込んで地面に鳥の絵を描き始めてしまった。思ったよりうまいな、ジンさん。意外な才能発見だ。
「それで外の状況はどんな感じなんだ?」
ジンさんを無視してニールさんが聞いてくる。
「おそらく私たちと同じ依頼を受けているのは他に3組。このうち2組はあまり注意しなくても大丈夫だと思います。共に5級のパーティで中級迷宮を攻略するついでにこの依頼を受けたような印象です。実際何回かすれ違いましたが積極的に探しているような印象は受けませんでした。編成は共に前衛2人、斥候1人、魔法使いかヒーラー1人でした。」
「ふむ、それで。」
「問題は残り1つの4級冒険者のパーティです。この冒険者パーティは他の冒険者たちを恩と報酬で従えて大々的に捜索をしています。そして捜索している階層の階段両方ともに見張りが常にいます。探索は7日間続き、2日休みというスパンらしいですが、その休みの時にも迷宮の入り口を監視しているような気配がします。」
「パーティ編成はわかるか?」
ニールさんの表情が厳しい。4級といえば同じランク。いや、厳密に言えばジンさん達は1年間依頼を受けていないから1つ下がって5級か。まあそれはいいとして、相手に何が出来るのか想定しているんだろう。
「なるべく関わらないようにしていたので詳しくはわかりませんが出入り口を見張っている2人の隠密能力が高いのでおそらく斥候系が2人、その他に水魔法を使う魔法使いが1人いることは確実です。それ以外はわかりません。ギルドで調べればわかると思いますが調べますか?」
「いや、それはいい。むしろそこから足がつく可能性もある。」
ヒナが握っている手にちょっと力がこもる。ニールさんの発言はある意味でミアさんが洩らすと言っているようなものだし。ミアさんならそんなことは無いと言いたいところだが、万が一他の職員に聞かれた場合など不確定な要素は残ってしまう。これ以上リスクは背負いたくないのだろう。それをわかっているからヒナも何も言わないのだ。
「休みがあるって言っていたわよね。次の休みの予定はいつ?」
「6日後の予定です。」
ニールさんとリイナさんが作戦を話し合う。私やヒナと比べ冒険者としての経験値が違うので口を挟まず待つ。ヒナも冒険者としての経験はある程度あるが、基本的にメルリスの迷宮ばかり探索していたのでそれ以外の経験はあまりない。2人に任せた方がいいだろう。
ジンさんは・・・水鳥が水面から飛び立とうとしている絵の佳境に入っている。躍動感のある素晴らしい絵だ。
「5日後、そいつらが迷宮から地上に戻るのに合わせて我々も3階層まで戻る。翌朝、街の門が開く時間に合わせて迷宮を脱出、東門から出てしばらく進み、森を抜けて北の街道を目指す。いいな、ジン。」
「おっ、おう。」
ジンさんが慌てながらうなずき、足裏でぐりぐりと描いていた絵を消す。ああっ、もったいない。
「でもニールさん。私は一刻も早く王都に行かなくては!!」
「ユーリ様の思いはわかるが現状ではこれが最善策だ。今日明日というわけではないのでしょう?」
「はい・・・ですがっ!」
「弟子は師匠の言う事を聞いておけ。ニールとリイナが決めたならそれが1番いいんだよ。」
ジンさんがユーリさんの頭をくしゃくしゃっと荒っぽく撫でる。必死な表情だったユーリさんが次第に落ち着いていった。
「はい、ジンさん。」
「よし、いい弟子だ。」
再び撫でようとしたジンさんだったがそれは避けられてしまったようだ。
「それでタイチ達に頼みたいことがある。それは・・・」
「旅の準備だニャ。」
「そうだな。15日分程度の旅の準備をしてほしい。食料、水、ポーション等だな。」
ニールさんがお金の入った袋と魔石をいくつか取り出す。
「馬とかはいりませんか?」
「あればありがたいが金が足らん。ギルドで引き出すわけにもいかないしな。」
ギルドにはお金を預けることが出来る。街を行き来することが多い冒険者の利便性を図るためだ。もちろん引き出すにはそれなりの手続きがいるし、ギルドを除名処分になった場合は没収されてしまう。見つかる危険性が高いギルドに行くことは今のジンさん達には無理だ。
「わかりました。何とかしてみます。あとお金はいりません。」
「しかし・・・」
「道中必要な場面があるかもしれませんし、ジンさんにお金を借りていましたから。」
「えっ、タイチ。ジンに借金があったのかニャ?」
ヒナが信じられないものを見たような表情で私とジンさんを交互に見る。
「ああ、ジンさん達に助けてもらった時は無一文だったからね。あのままだと街にさえ入れなかったよ。」
「おいおい、坊主に貸したのは銀貨5枚くらいだったはずだぞ。足りねえだろ。」
「超えた分は貸しにしておきます。全部終わったらアンさんに報告しがてら宴会でもしましょう。その時の宴会代を出してくれたらチャラにします。必ず返してくださいね。」
「でもいくらなんでも金額が・・・」
「リイナ、それ以上言うな。今は好意に甘えよう。」
「坊主、じゃあねえな。タイチ。信じられねえくらいうまいもんを食わしてやるから楽しみにしておけ。」
「はい、期待しておきます。」
言いたいことは伝わったようだ。これくらいしか恩返しが出来ない自分を歯がゆく思うが、今出来ることをしよう。
「行動を急に変えてもまずいので、探索をしつつ5日後にここに来ます。私たちが先導して3階層まで戻った方が安全だと思いますので。その時に旅の荷物も渡します。」
「頼んだ。」
「タイチ君、すまない。よろしく頼む。」
ユーリさんがこちらに向かってしっかりと頭を下げてきた。今まで見てきた貴族が兵士っぽかったり、駄目豚だったり、鉄仮面だったので思ってしまう。本当にいい意味で普通の人のようだ。
手持ちにあった野菜やチーズなどのここでは手に入りにくい食料と自作のポーション類をとりあえず渡しておいた。出発まで美味い物を食べて体調を万全にしておいてもらえればとの思いからだ。
地下から出て、急に射した暑い日差しに多少くらっとしながら別れを告げた。
「元気で良かったニャ。」
(そうだねー。)
「そうだな。」
「それで明日からはどうするニャ。」
「明日は探索して、明後日と明々後日は予定通り休み。それ以降は普通に探索をしつつ、ちょっと早めに帰って準備を進める感じかな。下の階層に行く理由もないし。」
薬秘草についてはあればあるだけ欲しいし、バナナやマンゴーを食べてみたいとも思うがさすがにそんな余裕はないからな。買うと大銅貨5枚以上はするからわざわざ買ってまで食べる気にならないし。
「私は何をすればいいニャ?」
「とりあえずヒナはマタリさんに食料や水関係の用意をしてもらえないか聞いてその手伝いかな。あくまでヒナが前面に出ないようにね。」
「わかったニャ。タイチはどうするニャ?」
「私はロンソさんのところでポーション類を調薬するよ。あとは魔道具屋でそれらを入れるマジックバッグや必要な道具を買うくらいかな。ノノが買い物をしたいって言っていたからみんなで行こうか。」
(僕は?)
「うーん、応援とかかな。」
(ぶーぶー。)
さて今できることをしっかりやりますか。
計画が得意な人、直感が優れている人いろいろいます。
同じような人しかいないと会議とかで延々と結論が出なかったりしますよね。
読んでくださってありがとうございます。




