再会
ヒナを待つ間、どうやって会いに行ったら一番穏便に会うことができるのか考えていた。ジンさんたちはこの逃亡生活を1年以上してきたはずだ。警戒心は強いだろう。下手をすると私がつけていたことも知っている可能性さえある。そんななかで近づいていったら追跡者と間違えられて逃げられてしまうんじゃないか?遠方から声をかけるとかか?しかし他の冒険者がいたら呼び寄せてしまうことにもなりかねないし。本当にどうしよう。
「タイチ、見つかったって本当かニャ。」
クロスバイクに乗ったヒナがこちらに向かって走ってきてブレーキをかけて止まる。小石が跳ねて私の頭に当たった。地味に痛い。
「ああ、あそこのオアシスにいるみたいだ。」
頭をさすりながら答える。
「それじゃあ行くニャ。」
「でもどうやって近づいたら一番いいか悩んでいてね。警戒しているだろうし。」
「そんなもの悩んでいても仕方がないニャ。あの冒険者たちが問答無用で攻撃してくるとは思えないしタイチが声をかければなんとかなるニャ。」
(そうだね。行こうよ、タイチ。)
「・・・わかった。行こう。」
ここまできてうだうだ考えていても仕方がない。今はヒナの直感が正しいことを信じて会いに行ってみよう。
オアシスまであと500メートル。人がいることはここからもう見えている。マップに反応はあるのだが見えているのは1人だけだ。
あと200メートル、姿かたちが段々とはっきり見えてくるのだが髪の毛が黄色だ。金髪ではない光沢のない黄色だ。ジンさん達で黄色の髪の毛の人はいなかったはずだが、ユーリさんか?いや、肖像画では髪の毛は黄色ではなかったはずだ。染めたのか?
あと50メートル。その男性がこちらに向かって手を振ってきた。顔に見覚えがあるのだが脳が名前を思い出すのを拒否しているかのように思い出せない。
ついにオアシスに到着した。するとその男性が話しかけてきた。
「あんたらもオアシスで休憩かい?って坊主じゃねえか。」
「えっと、誰ですか?」
「オレだよ、ジンだよ。」
顔を見ると確かにジンさんだ。でも頭に黄色の毛が生えている。
「確かに私はジンさんを追ってここにきましたが、ジンさんはハゲのはずです。」
「ハゲじゃねえ、ファッションハゲだ。」
その答えに笑みがこぼれる。髪の毛は生えているがジンさんに間違いない。
「冗談です。お久しぶりです、ジンさん。探しましたよ。」
「探すなって書いただろ、ばかやろうが。」
ちょっと頬がこけ、痩せてしまったジンさんだったが乱暴な言葉とは裏腹にとてもいい笑顔を私に見せてくれた。
「そういえばニールさんとリイナさんとユーリ様は隠れているんですか?その辺にいそうなのはわかるんですが。」
「ああ、そういえばタイチはマップ持っていたんだったな。今までの追跡者にそのスキルを持っている奴がいなくって助かったぜ。ついて来な。」
ジンさんはそう言うとその場所まで歩いて行き50センチほど砂を払った。そこには木の蓋があり、その蓋を3回、2回、4回とノックしたあとで扉を開いた。そこにあった階段を下ると10メートル四方くらいの空間の部屋があり、そこに3人の男女が座っていた。ジンさんと同じく多少痩せていて疲れているようにも見えるが見間違えようがなかった。
「お久しぶりです。ニールさん、リイナさん。」
「ああ。」
「ニール、もうちょっと何か言ったらどうなの?それはそうと久しぶりね、タイチ。」
「おい、なんか俺の時と対応が違わねえか?」
「えっと、まあジンさんなので。」
「どういう意味だ!!」
3人のやり取りに昔を思い出して嬉しくなる。本当に再会出来たんだ。
そんな和やかなムードの中、奥で本を読んでいた青年がこちらを向く。
「初めまして、ユーリ・トンプソン様ですね。私は7級の冒険者でジンさんたちに以前命を救われたタイチといいます。」
「同じく3人に命を救われた5級冒険者のヒナニャ。」
「あれっ、俺そっちのヒナは知らねえぞ。」
「えっと、後で説明します。」
まあ初級迷宮で逃げる時に手助けしたくらいしか接触がなかったから覚えていないのも仕方がない。
「初めまして、知っているらしいけど一応自己紹介するよ。ユーリ・トンプソンだ。」
ユーリさんがこちらに向かって手を差し出してくる。握手をするという意味か?おずおずと差し出すとがっしりと握手をされた。その手は貴族とは思えないくらいゴツゴツしていた。
「それでなんでタイチ達はここに来たんだ?」
どこから話そうかと思ったが結局、旅に出てからのことを簡単に話し、テンタクルで領主の依頼を受けユーリさんを連れてくるように言われたこと、ジンさんたちを殺すような依頼であったことを伝える。4人の顔は次第に厳しくなっていった。
「どおりで最近変な冒険者が増えてきたと思ったぜ。」
予想通りジンさんが斥候のような役目をしていたらしい。知り合いの信頼できる冒険者にここで狩った魔物の魔石などを渡して食料品や武器防具などを買ってきてもらっていたそうだ。その冒険者もこの隠れ家は知らず、毎回場所を変えて会うようにしていたらしい。
「依頼とは別件ですがキリク・トンプソン伯爵から手紙を預かっています。」
「父さんから!?」
ユーリさんに手紙を渡す。紋章を懐かしげに眺めたあとナイフで封を切り手紙を読んでいく。本当ならジンさんたちにどうしてこんなことになったのか、どうやって過ごしていたのかをもっと詳しく聞いてみたい。しかしその場所が踏み込んでいい場所なのか判断ができず沈黙を守るしかなかった。
ユーリさんの視線が文字を追い左右に動く。3ページの手紙を読み終え、ユーリさんは何かを決意した表情でこちらを見た。
「タイチ君。ありがとう。」
「いえ、ジンさんたちに恩がありましたので。」
ユーリさんが3人を見る。
「ああ、私は彼らに会えて本当に運が良かったよ。そして・・・ジンさん、リイナさん、ニールさん。私は王都で会わねばならない人が出来た。おそらく刺客もいるだろう。それでもついて来てくれるか?」
「ええ、もちろん。」
「ああ。」
「弟子を見殺しには出来ねえからな。」
この1年間の間に固い絆が出来たみたいだな。あれだけ貴族を嫌っていたジンさんが文句も言っていない。やはりユーリさんはいい人のようだ。
「私たちに出来ることはありますか?」
「君たちを巻き込む訳にはいかないよ。これは私の使命だ。ジンさんたちを巻き込んでしまったがこれ以上増やしたくはない。」
「そうですか。」
そう言われてしまってはどうすることも出来ない。本当ならジンさんたちをもっと助けたいという思いがあるが相手が拒否しているのに無理やり手伝うのは迷惑にしかならない。もっと自分に力があれば違ったのかもしれないと思うと無性に悔しかった。
握り締めた拳をヒナがそっと握ってくれた。
そんな私たちの様子を見てユーリさんは紙にサラサラと何かを書くと封筒にしまいこちらに差し出してきた。
「もし出来るならこの手紙を父に届けて欲しい。そして手助けしてくれるのなら父に指示を仰いで欲しい。それが巡り巡って私たちの助けになるはずだ。」
「はい、必ず。」
必ず届けよう。私がしたことはまだジンさんたちを見つけただけだ。全然恩返しは出来ていない。自分たちの出来る精一杯で恩返しをしよう。ヒナと目と目で通じ合う。ヒナも同じ気持ちだ。
「さて、それではまずこの迷宮を脱出しよう。」
ターミ〇ーターなどで出てきた地下倉庫、ロマンですよね。
いつか地下つきの家でも建てたいものです。
読んでくださってありがとうございます。




