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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第四章:テンタクルの街より
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お宅潜入

(こちらアルファ、館に潜入を開始する。)

(了解。アルファ、健闘を祈る。)


 マップで塀の向こうに人がいないことを確認し、少し離れた路地の片隅から地面を土魔法で掘り、掘った場所を埋めてわからないようにしつつ地下5メートルを進んでいく。

 空気は大丈夫かちょっと心配だったのだが実験の結果、短時間なら特に問題が無いことはわかっているので安心だ。

 たたっ、たったーったたった、たたーたたーらーたたたた・・・。

 頭の中で往年の名作映画の音楽が流れる。地下を掘り進むならこの曲のはずだ。とりあえず野球のボールでも投げようか。あっ、でもそうすると最後捕まるからな。無しだ。

 館の地下まで進みマップを確認しつつ慎重に庭に出る。ターゲットは館の三階にいるようだ。あの灯りの漏れている部屋がターゲットの部屋のようだ。


(こちらアルファ、庭への潜入成功。)

(了解。アルファ。引き続き慎重に行け。)

(ねえ、ルージュ。この乗りはいつまでやるの?)

(・・・。)

(おーい、ルージュ?)

(・・・。)

(・・・ガンマ。)

(なんだ、アルファ。)

(・・・なんでもない。)


 面倒くさいわ!


 窓の隙間から薄い金属板を差し込み、鍵を外して館に侵入する。入ったのは来客用の部屋のようだ。必要最低限の物が置かれているだけのシンプルな部屋だ。あまり使われているような印象が無いのに掃除は行き届いているため使用人の質がいいのだろう。

 アンさんの指導を思い出して窓枠をそっと拭って確かめてしまった。やばい、どっかのお姑さんのようだ。


 マップで人を確認し、警報装置のようなものが無いか調べながら慎重に進んでいく。時間が時間だけあって起きている人は定期的に巡回している警備担当者くらいしかいない。使用人は使用人用の館の方で眠っているだろうし。

 気配を消して警備をやり過ごしながら階段を上り3階へ向かう。ここまで来るまでにあったのはその場所を踏むと警報音が鳴る罠くらいだ。まああんまり罠だらけの屋敷なんて住みにくくて仕方ないし、あたりまえか。


(さすがに無理だよな。)


 3階の自室と思われる部屋の前には使用人の格好をした人物が立っている。ただ立っているだけにも見えるが全く動いていないし、隙も無いように見える。睡眠薬付きダートを投擲してもいいが防がれる可能性もありそうだ。騒ぎを起こさずに正面突被するのは厳しそうだ。


(こちらアルファ。ターゲットの部屋の前に障害発見。速やかな制圧は困難と判断。窓からの侵入を試みる。)

(了解。アルファ。あっ、ベータ、僕にも頂戴。)

(ごめん、全部食べちゃったニャ。)

(えー、ひどいよ。)

(ちょっと買ってくるから待っているニャ。)

(りょーかーい。なるべく早くね。)

(わかってるニャ。)


 おい、そこのもぐもぐコンビ。こっちが慎重に潜入しているのに普通に夜食か!

 言ってもたぶん変わらないからまた今度野営の時に食事の量を減らしてやろう。料理当番の強権発動だ。あまりの量の少なさに驚愕するがいいわ!!

 はあ、なんか疲れたな。さっさと終わらそ。


 近くの部屋から窓の外へ出て、土魔法で壁に足場を作りながら歩く。こんなことなら最初から外の壁を登ってくれば良かったんじゃないかと思わないでもなかったが、まあ館の外を巡回している人に見つかる可能性もあるから。月明りがほとんどないから真っ暗で私の姿なんてほとんど見えないけど意味はあるはずだし。無駄じゃないし。


 駄目だな。なんか思考がまずい方向に向かっている気がする。気を取り直そう。

 部屋の窓に寄り、先ほどと同様に窓の鍵を外す。主人の部屋ならもっと難しい鍵かと思っていたがそんなことはないんだな。罠がある様子もないし。

 音が鳴らないようにスッと窓から入り、部屋を見渡す。魔道具の灯りに照らされて部屋の中は顔の識別が出来る程度の薄暗さになっている。意匠のすばらしい本棚がある以外は取り立てて高そうなもののない部屋だ。貴族もやっぱりいろいろなんだな。寝ているベッドも天蓋付きじゃないし。


(こちらアルファ。ターゲットの部屋に侵入成功。)

(良くやった。速やかに任務を遂行せよ。)

(ルージュ、おまたせニャ。)

(あっ、ありがとうヒナ。)


 もういい。絶対に突っ込まないからな。

 部屋には無事潜入できたがこれからどうしようかな。ターゲットは寝ているからそれを起こしつつ騒がれないようにするって難易度高くないか?うーん、とりあえずしびれ薬を飲ませて、意識を回復させて説明した後、治すしかないか?それだけで処刑されそうだが。というか不法侵入した時点で駄目か。必要だと思ったからやったこととは言えあまりに軽率だったか?


「だれだね君は。」


 突然の声に心臓が跳ねる。思わず窓から飛び出そうかと思ったが意味が無いと思いとどまる。落ち着け。寝起きに私を見て叫ばれなかったのは運がいい。夜闇にまぎれるため全身黒づくめで顔も隠している不審者を見てここまで冷静でいられるのは恐れ入る。私なら絶対に叫んでいるな。


「夜分に突然の訪問、失礼いたします、キリク・トンプソン伯爵。普通であれば先触れを出したうえで約束をさせていただくべきところですが、公式に会うべきではないと判断しこのように訪問させていただきました。大変申し訳ありません。」

「・・・何が聞きたい?」


 頭の回転が速い人と話すのはスムーズでいい。


「ユーリ様を本当にここに連れてきて良いのかを。」

「・・・」


 キリクさんが息をのむ。


「ディエゴ様とキリク様のお考えは違うのではないかと考えております。私はキリク様のお考えを優先すべきと判断しました。」

「報酬はないぞ。」

「元より承知しております。」

「・・・」

 キリクさんがしかめていた顔を和らげ、ふうっと息を吐く。


「心遣い感謝する。しかしこちらの事情を軽々しく話すわけにはいかない。少し待っていてくれ。」


 そう言うとキリクさんは机に向かい紙に何かを書き始めた。カリカリという音だけが部屋に響く。しばらくしてその紙を封筒に入れると蝋を垂らし、そこに指輪を押し付けた。


「この手紙をユーリに渡してほしい。その後の判断はユーリ自身に任せる。」

「うけたまわりました。」


 トンプソン家の紋章が押された手紙を受け取る。


「1つ聞いてもいいだろうか?」

「答えられる範囲なら。」

「なぜ、このようなまねを?普通に依頼を受ければ大金を手に入れるチャンスではないのかね。」


 その疑問は当然だ。一般的な冒険者は自分の利益を優先する。自分の命を懸けて仕事をしているのだから当たり前だが。

 その問いに私は笑顔で答える。


「ちょっとした縁がありましてね。」


 目と口元しか見えていないはずだが雰囲気で伝わっただろう。


「そうか、縁か。」

「では私はそろそろお暇します。」

「ああ、息子をよろしく頼む。」


 今までのような事務的な感情の乗っていない口調ではなく、1人の父親としての言葉だった。


「はい、必ず。今夜のことは・・・」

「私は今夜、自室にこもっていて誰にも会っていない。そして誰も尋ねてきてはいない。」

「すみません、余計な言葉でした。」


 窓から出てそのまま庭に降り立ち、地面を掘ってトンプソン邸を脱出する。まずはもぐもぐ部隊の折檻だな。





 訪問者がいなくなり、独りになった部屋で彼が出て行った窓を見つめる。


「縁か・・・。」


 私があの男に仕えているのも縁、そして息子が脅かされたのも縁。

 あの男の動きを阻止しようと今まで努力してきたがそろそろ限界であったのも事実だ。何の縁かはわからないがこの館に誰にも気づかれず侵入した手際といい優秀な男のようだ。息子の助けにはなるだろう。


「ユーリ・・・」


 お前は真実を知ったとき、どう決断するだろう。願わくば私よりも長く生きる選択をして欲しいものだ。

あの映画はだいぶ昔に見たのですが面白かったです。

ただ記憶違いがあるかもしれません。その時は生暖かく見守ってください。

読んでくださってありがとうございます。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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