怪しい依頼の背後事情
(ルージュ、小径車モードお願い。)
(りょーかーい。)
人化して隠れてついてきているルージュに念話する。見えないがステータスで確認するとちゃんと変形したようだ。
「マイアーさん。特にシーサイドベアーの素材についてはいらないんですよね。」
「あっ、ああ。そうだよ。あくまで討伐までが依頼だからね。」
「それじゃあ素材はもらいますね。」
ヒナが首を切り飛ばしたシーサイドベアーの首に手をそえ水魔法を発動する。
「バキューム。」
シーサイドベアーの体内から血液を吸いだして血の玉を作る。一応血も飲むことが出来るらしいけどギルドで買い取りもないし、そんな物好きを探す気力も無いので吸い出した血は砂浜へぽいっと捨てる。海に捨てたら鮫の魔物が来そうだしな。
ダートで倒したほうも腕をナイフで刺し、そこから同様に血抜きしていく。
小径車を取って水魔法を覚えたのだが、血抜きが簡単にしかも早くできるようになったのが一番嬉しいかもしれない。普通の水はアイテムボックスで足りるし。
「ヒナ、ラグスさんって熊鍋できるかな?」
「少なくとも私は見たこと無いニャ。」
知識さんのせいで、熊鍋を食べてみたくなってしまった。前に狩った時はそのままギルドに売ってしまったから食べなかった。もちろん前の世界でも食べたことは無い。
「とりあえず宿で聞いてみようか。」
「そうだニャ。」
魔物の肉はなぜか美味しいから期待が持てる。あと食べてみたいのは牛っぽい魔物と豚っぽい魔物か。楽しみだ。
「依頼はこれで完了ですか?」
「ああ、2体も狩ってくれれば十分です。ありがとう。」
「じゃあ帰るニャ。」
シーサイドベアーをマジックバッグに入れると見せかけてアイテムボックスに入れ、時間経過がゆっくりになるようにする。たぶん新鮮なほうが美味しいような気がするし。
依頼も終わったので3人で戻っていく。
「それにしてもお二人とも強いですね。シーサイドベアーを一撃ですか。」
「まあ、あのくらいなら大丈夫ニャ。」
ヒナが鼻の頭をかきながらちょっと得意そうにしている。まあ私の場合、本当は2撃だけど言う必要は無いだろう。
「やはり迷宮を探索されると強くなりますか?」
「そうですね。初級迷宮までしか踏破はしていませんが、Lvを上げるにはいい環境だと思いますよ。」
「魔物にすぐ会えるしニャ。」
街によっては騎士や兵士の鍛錬用に迷宮を管理しているところもあるらしいし。てっとり早くLvを上げるにはいいだろう。技術を修める努力も別途必要だが。
(ねえ、タイチ。)
(なに?)
(例の人、戦闘準備を始めたよ。)
(あー、やっぱりか。ヒナも準備いい?)
(いつでもいいニャ。)
目標まであと20メートル。殺気や気配を感じないので実力者が腕試しってところか。うーん、まあ最初に潰しちゃえばいいか。
「ヒナ、私がけん制。うまく当たってそこで止まればいいけどそうじゃなかったら対応を。」
「了解ニャ。」
わざとひそひそ声で話し、マイアーさんにもこれからの行動がわかるようにする。アイテムボックスから痺れ薬ダートを取り出し、目立たないように山なりに放り投げる。
そういえば山なり投げを実践で使うのは久しぶりだ。さすがに迷宮では使えなかったからな。
続いて隠れている茂みの前方にダートを数本投げていく。
ガッガッガッとダートが地面に突き刺さる。
「そこに隠れている人、出てきてください。5秒以内に出てこない場合は敵とみなしますよ。」
「っ・・・。」
動揺したのか茂みが少し揺れる。どうするんだろうな。気づいた時点で大丈夫のような気もするんだけど。
しばらくして冒険者風の格好をした緑の髪の眠そうな男がナイフを両手に持ったまま立ち上がった。
「降参だ。敵対する意思は・・・」
プスッ。
男が信じられないという顔をして自分の肩に刺さったダートを見る。あっ、ごめん。言うのを忘れてた。
男は震え始め、なんとか手に持ったナイフを捨てるとそのまま前に崩れ落ちていった。
「マイアーさん、どうします?」
「どうするとは?」
「お仲間でしょ。」
しばらく沈黙した後、マイアーさんは笑い始めた。
「はっはっはっ、いいね。君たち。こんなに早く気づいたのは君たちが初めてだよ。タイチ君がジェフを攻撃しているときも、ヒナ君が私を警戒していたしね。いつ気づいた?」
「ジェフさんにという意味では依頼を受けた翌日からですね。今日という意味では街からしばらく歩いて林の中でといったところです。」
こういうこともあるだろうと思ったのでルージュに監視を頼んだのだ。ちなみに報酬はしっかりしたメンテナンスとチーズケーキを作ることだ。うん安定である。
「ほぼ最初からだな。ということはこの依頼の意味もわかっているな。」
「何かの試験ニャ。」
「ふふっ、そうだな。まあこの結果なら受かるだろう。また後日ギルドで指名依頼をさせてもらうと思う。待っていてくれ。」
「わかりました。それよりあの、ジェフさんでしたっけ。あのままでいいんですか?」
ダートを食らったジェフさんは地面でぴくぴくしている。心なしかこちらを恨めしげににらんでいるような気がする。私じゃないよな。
「ああ、すまんジェフ。忘れていたわけじゃないんだ。」
「・・・。」
「・・・直しましょうか?」
「頼んだ。」
麻痺消し薬を取り出しジェフさんに飲ませる。薬が口の端からツツツーっとあごから鎖骨にかけて一筋流れる。うん、女性だったら色気のある光景かもしれない。
「マイアー、てめぇ。自分ばっかりいい思いしやがって。」
ジェフさんが眠そうな目のまま怒っている。怒っているんだよな?
「悪い悪い。というかお前が初日からばれているのがまずいんだろ。こっちも動きようがない。」
「しかし・・・いや、そうだな。隠密行動には結構自信があったんだけどな。」
ジェフさんが眠そうな目のまま落ち込んだ様子だ。落ち込んでいるんだよな。駄目だ。この人、常に眠そうで表情が読みづらい。
「俺の名前はジェフ。一応騎士だ。」
「一応なのかニャ?」
「こちらにもいろいろと事情があってね。」
なんだろう、忍者部隊とかの隠密集団とかがあるとかか?まあ忍者は言い過ぎにしても諜報関係なのかもしれない。動きが一般の騎士とは違う気がするし。
「それじゃあタイチ君、ヒナ君。われわれはこれで失礼する。私はともかくジェフはあまり他の人と一緒に居る場面を見られてはまずくてね。」
「じゃあな。」
依頼の完了証をこちらに渡し、二人は去っていった。
「ルージュ、もういいよ。」
「お疲れー。」
「ルージュもお疲れニャ。」
ジェフさんがいた茂みのもっと奥のほうからルージュが出てくる。なぜか頭に木の枝をはちまきで挿しているのだがなんだ、突っ込み待ちなのか?
「マイアーさんが言っていたとおり試験は合格らしい。」
「そうだニャ。」
「後は次に何が来るのかだね。」
ルージュがぐいぐいと私に体を押し付けてくる。
「まあ後日指名依頼が来るらしいからそれまで待ちかニャ。」
「そうだね。お金も困ってないし依頼もそう大した物は無かったからヒナはこれからどうする?」
「食べ歩きか釣りニャ。」
「ヒナらしいねー。」
ルージュがぐいぐいと以下略。
「私は水魔法と火魔法の訓練かな。最近覚えたばっかりで使う機会が無かったからLvが上がってないんだよね。あとは図書室通いかな。あっ、釣りするならそばで訓練するからその時は教えて。釣ったらすぐに調理しよう。」
「それはいいニャ。魚は新鮮なのが一番ニャ。」
「えいっ!!」
いきなり頭上に現れた水球が落ちてくるのを間一髪で避ける。直撃は避けたが地面で跳ねた水が少し靴にかかる。ヒナは余裕で2メートルは離れた位置に退避済みだ。
ルージュが頬を膨らませちょっと怒っている。
「むー!!何で避けるの!?」
「いや、避けなきゃ濡れるでしょ。」
「だったらせっかくボケたんだから突っ込んでよ。ボケをスルーされるほど悲しいことは無いんだよ。」
うん、それはわかってる。でもあまりに露骨なボケってスルーしたくなる性分なのです。まあでも頑張ってくれたルージュに悪いことをしたな。仕方が無い。
「ルージュ、枝に引っ掛けて服に穴が開いているぞ。」
「そこじゃなーい!」
ルージュがMP全てを使って作り出した巨大すぎる水球を、MP枯渇によりふらふらになった私には避けることなどできなかった。
諜報系の人の話を書いていて全く違う話が浮かんできたのでしばらくしたら全く別の話を投稿するかもしれません。
予定は未定です。
読んでくださりありがとうございます。




