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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第四章:テンタクルの街より
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チラシ配り?

 翌日から情報収集を兼ねて、私は街中の依頼をヒナは外の依頼を受けることにした。冒険者が街に来て依頼も受けずに情報収集をしていたら目立つし。

 ということで現在絶賛仕事中。仕事内容は新規開店した食堂の宣伝。看板を背負いながら、近寄ってきた人たちにレストラン特製のクッキーを配りつつ紹介するという簡単な仕事だ。


 パープー


 借りた笛を吹きつつ人の注目を集めるようにゆっくりとルージュで走る。なんとなくラーメン屋台を思い出す音だ。

 細い道を走り、人が集まっているところがあったら積極的に話しに行く。当然止まったり、走ったりの繰り返しになるのだがそこまでストレスにはならない。なぜなら小径車を買ってしまったからだ。買ったことで残りのDPが2000くらいになってしまったが、走っている限りどんどん貯まっていくからそこまで節約しなくてもいいんじゃないかとルージュと話して決めた。最低ラインは2000にしたのでぎりぎりだったが。


 小径車の利点はその名の通りタイヤの大きさが小さいため漕ぎ出しの力が少なくて済むことだ。つまりストップアンドゴーが発生しやすい街中で乗るのに適している。また同様の理由で坂道を上るのにも適している。小さいので持ち運びに便利と言う事もある。車で旅行先に持って行って観光地を巡ったりするときに便利なのだ。

 デメリットとしては普通の自転車に比べ、ペダルを回さないとすぐに減速してしまうことや思ったより進まないということが挙げられる。だから長距離を乗るのには適していない。まあ適していないだけで出来ないわけではないが。


 ちなみに小径車のなかにBMX用の自転車を入れるかどうかは明確に決まってはいなかったはずだ。私はBMXは用途が全く違うので入れない派だが。決してBMX用の自転車を買おうとして同居人に同じようなのがあるでしょ、何台増やすつもりなのと怒られたからではない。全部用途が違うんだ、例えるならプラスドライバーとマイナスドライバーみたいなものだ!

 まあいろいろとあるが、ちっちゃくてかわいくて乗っているとちょっとおしゃれっぼい。そんな自転車だと思う。


 この街近くの透きとおった海のように青い車体の小径車となったルージュを走らせる。


(いやー、目立つね。)

(まあ、バイシクル自体をあんまり見ないしね。)


 バイシクルがこの街に無いわけではない。ただしこの街にあるバイシクルは基本的に他の街に運んで販売する用の物だ。乗っているのを見たのは荷物を運べる3輪のバイシクルを使っている人が2人いただけだ。


 本当に井戸の近くで井戸端会議をしているおばさま方がこちらを興味深そうに見ていたので突撃することにした。


「こんにちは、食堂うみねこ亭、新規開店しました。ただいま開店セール中です。あっ、皆様おひとつずつどうぞ。」


 バスケットに入ったクッキーをマジックバッグから取り出し、おばさま方に渡す。


「うみねこ亭?どこだったかしら。」

「あそこよ、あそこ。西門近くの大通りを1本中に入った前に靴屋があったとこよー。」

「あー、エドさんとこの息子さんが始めるって言っていた食堂ね。」

「そうそう、その息子さんと南門の近くの花屋の2番目の娘さんが付き合っているらしいわよ。」

「あら、あの子肉屋の息子さんと付き合ってなかった?」

「あれは上の娘さんよ。」

「そうだったかしら、最近物忘れが激しくって。」


 おおう、さすが主婦ネットワーク。街の中の事なら下手な情報屋よりも詳しい。


「そういえば、あなた見ない顔ね。」

「ああ、最近この街にやってきましたから。なのでこの街のおすすめスポットとか美味しい店とか珍しい話とかがあったら教えてくれませんか?」

「そうなの。ようこそテンタクルへ。やっぱり美味しいところって言ったら、港近くの(俺の海)よね。」

「あれ、あそこは(儂の海)じゃなかった?」

「いつの話してんのよ。息子さんに代替わりして半年前くらいに名前も変わったじゃない。」

「あら、そうだったかしら。確かにあそこのフライは絶品ね。どうやってるのかしら?」

「覚えなくていいわよ。覚えたら食べに行く楽しみが無くなっちゃうじゃない。」

「それもそうね。」

「へ-、そうなんですね。今度食べに行ってみます。」


 たぶん衣の温度とか混ぜすぎないこと、油の温度とかいろいろ違うと思いますよ。言うと面倒なことになりそうだから言わないけど。


「そういえばあそこのお弟子さんが・・・」


 あれから20分くらいボンボンと話題が飛ぶのを必死で追いながら、おすすめされた店や場所をメモに取ってきた。話を聞いていると言う姿勢を見せるのが大事だが、メモばかりとってもいけないと言う微妙なバランスがモノを言う聞き方だ。あいづちなどを入れてさらに相手にところどころ感謝の言葉を入れるのを忘れない。相手に気持ち良く話させるのがポイントだ。まあ人によって対応は変わるが。


「そういえばユーリ様、早く帰ってこないかしらね。」


 んっ、ユーリ様!?


「ユーリ様とはどなたですか?」

「この街の貴族のご子息様だわよ。とっても聡明なのに私らみたいな庶民にも優しくてねー。貴族がみんなあの子みたいならいいのに。」

「めったなこと言わないの。あの子は特別よ。小さいころからこの街を走り回っていたんだから。」

「良く転んで泣いていたわね。クッキーをあげると泣き止んだっけ。」

「今は王都の学園に留学しているって話よね。」

「そういえば王都の学園って言えば赤茶の家の漁師さんの息子さんが・・・」


 その後しばらく話を聞き、切りのいいところでお礼を言い、お手製のアップルパイを1ホール渡した。外はさくさくだが、中のアップルのコンポートをちょっと失敗してすっぱみが残ってしまったものだが、ヒナには好評だったので大丈夫だろう。貴重な情報をくれたお礼だ。あらあ、悪いわねーと言いつつ美味しそうに食べ始めていたので、もう一度食堂の宣伝だけをしてお別れした。


 ユーリ、聡明、王都の学園に留学、帰ってこない、優しい。


 いくつかの情報は得た。本当ならもっと聞いてみたいところだがあまり深く聞くのもそれはそれで不自然だ。主婦ネットワークは怖い。不審だと思われたら1日かからずこの街中に広がる可能性がある。ルージュに乗っているし黒髪だし私は特徴の宝庫だからな。


 午後3時位まで街のいろいろな所でクッキーを配りつつ、いろいろな話を聞いた。冒険者や職人、子供、おじいさんなどいろいろな人と話したがやはり主婦の話が一番情報量が多い。その分まとめるのも大変だが。おいしい店や、おすすめデートスポットなどには詳しくなったがユーリについての情報はあの井戸端会議の方々以上の話は聞けなかった。その代わりと言ってはなんだがちょうど領主からの依頼を受けたことのある冒険者の話を聞くことが出来た。まあ依頼書に書いてあること以上の情報はあまりなかったのだが。


 ギルドへ報告に行くとちょうどヒナと会ったので夕食は宿ではなく俺の海へ食べに行くことにした。俺の海のフライはフライではなく天ぷらであった。さくさくっとした衣に塩をちょっとつけてかみしめると中の白身魚の身がほろほろっとほどけ、口の中に海が広がった。

 美味かった。ただただ美味かった。

 ヒナだけでなく私もおかわりしたくらいだ。残念なのはここに米が無いことだ。アイテムボックスから取り出そうかと思ったが失礼なのでやめた。お持ち帰りが出来ないか聞いてみたが揚げたてを食べて欲しいとの事でしていないそうだ。残念だ。非常に残念だ。

主婦ネットワークはすごいです。

何でそんなことを知っているのか疑問に思うくらいですよ。

読んでくださりありがとうございます。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 小回りなら小径車ですね。 [一言] 自転車五台の始まりはイギリス製小径折り畳みだからな
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