元仲間の歓迎
昨日は3話投稿しました。
ご注意ください。
なんだこの黄色い点は?しかもその場で止まっておらず移動している。もしかして・・・。
黄色の点を目指し進んでいく。大通りから一本中に入った路地の小さな宿屋の中に黄色い点はある。宿の名前は二匹の兎亭。確認してみるか。
「すみません。」
「はーい、ちょっと待ってくださいね。」
ちょっと足を引きずりながらとたとたと兎人族の女性がこちらに走ってくる。髪の毛は灰色でちょっとぼんやりとした目をしている。もちろんバニースーツではなく普通の服装だ。
「えっと、もしかしてここに・・・。」
「その声は、やっぱりタイチニャ。良くここがわかったニャ。」
奥の方から兎人族の男性と一緒に出てきたのはやはりヒナだった。マップのLvアップの追加機能がわかったな。探している人を見つけられる機能か。もしかしたら人だけじゃないのかもしれないが。
「この坊主がヒナの新しい相棒のタイチか?」
兎人族の男性がヒナに聞いている。男性は茶髪で適度に筋肉がついており肩や足に傷跡が残っているのが見える。
「そうニャ。」
「初めまして。7級の冒険者でシーフのタイチです。昔ヒナと迷宮に潜っていらっしゃった方ですよね。」
「ああ、俺はラグス、でこっちの美人が女房のプロラだ。」
「やめてよラグス。恥ずかしいじゃない。」
「俺は事実を言っただけだ。」
「ラグス・・・。」
ラグスさんとプロラさんが見つめあう。そして手を取り合いそのまま唇を・・・。
「あー、やめるニャ。」
おお、あまりの突然の桃色空間にびっくりして固まってしまった。ヒナが止めてくれて良かった。
「とりあえず、客の前でイチャイチャするなニャ。」
「なんだヒナ、やきもちか?」
「ヒナには新しいパートナーがいるんだから後でしてもらえばいいじゃない。」
そこは正気に戻って恥ずかしがるとかの場面じゃないのか。むしろ見せつけるためにやっているのか。
「タイチとは相棒ニャ。そういう関係では無いニャ。」
「「へー。」」
「棒読みとその目をやめるニャ。」
ふたり揃ってヒナを疑いの目で見ている。
「ヒナの里では婚約者でした。」
「なっ!!」
「あら、本当にヒナのパートナーなのね。」
「おお、今夜は特別なディナー用意するな。いくぞプロラ。」
「ええ。」
2人が急いで奥の方へ入っていく。ヒナは絶句したまま私の方を見たままだ。はっはっは、仇は取ってやったぜ。まあ後で冗談だとは伝えておこう。
「やったニャ、タイチ。」
「ナンノコトダカ、ワーカリマセン。」
「ふーん、そういう態度ならこっちもこっちで考えがあるニャ。」
ヒナはなぜか余裕綽々だ。嫌な予感がひしひしとしてくるんだが何をするつもりだ?
他の泊まっているお客さんが食事を終えた午後8時半からおめでとうパーティは始まった。港湾都市らしく魚のフライから煮つけ、カルパッチョや串焼きなど種類が豊富だ。一番豪勢なのはタイの尾頭つきだ。どの料理も美味しいようでヒナも喜んで食べているのだが・・・。
「ほらっ、タイチ。あーんニャ。」
「うわー、さすが婚約者。アツアツね。」
「それなら俺たちもやるか。ほら、あーん。」
「あーん。」
なんだ、このハートが乱れ飛ぶ空間。
食事か始まってすぐにヒナの座る場所が私にすごく近くなり、そのうち腕を組むようになった。しかも明らかにわざとあれを当てている。柔らかいものが二の腕に当たる感触に本能が暴走しそうになるのを理性でなんとか抑えていると、右手を組まれて食べられない私にヒナがあーんをし始めたのだ。
流れで食べてしまったが、だめだ。たぶん美味しいんだろうが、全く味がしない。
「あの、ヒナさん。」
「なんニャ。ダーリン。」
「ぶふぉ。けほっけほっ。」
「うわっ、タイ・・、ダーリン。大丈夫ニャ?」
突然のダーリン発言に驚いて咽が詰まった。なんとか吐き出さずに済んだので被害は無い。
「私が悪かったので、そろそろ許してください。」
「ナンノコトカ、ワーカリマセンニャ。」
ヒナが笑いながら腕をもっとギュッとからませてくる。谷間に挟まれて両側から当たってすごく気持ちいい。いっそ、このままでも・・・、じゃないよ。というか、ヒナがものすごく酒臭い。いつの間にか空になったジョッキがいくつもあるし。
至福と苦悩と変なハートに囲まれたパーティは、結局ヒナとラグスさんが酔いつぶれるまで続いた。私は食べた気は全くしないのにお腹がいっぱいという今までにない体験をすることになった。
やっぱりヒナにいたずらなんてするもんじゃない。ヒナの方が1枚も2枚も上手だ。
酔っ払いたちをそれぞれの部屋にお姫様抱っこで運んでいく。ヒナを降ろす時にちょっと放り投げ気味だったのは許してほしい。その次に男性をお姫様抱っこでベッドに連れて行くと言う、ある特殊な層の漫画にありそうなシチュエーションになったが、あれは美形同士だから見られるのであって実際には見られたもんじゃないと思う。ないよね?
食堂に戻るとプロラさんが1人で後片付けをしていたので手伝いを申し出た。さすがに足の悪いプロラさんにこの惨状を片づけさせるのは気が引ける。最初は断られたがなんとか許可してくれた。
「ありがとうね。」
「はい。」
そのありがとうには別の意味も込められていた気がした。
「ヒナのあんな顔がまた見られるとは思ってなかったわ。」
「それは・・・。」
言いよどむ。一瞬目が足にいってしまったのだが、気づかれたようだ。
「そうね、このせいね。あの子は私に後遺症が残ったことをすごく気にしていたかち。必死にそれを隠そうとしていたけれどやっばりわかっちゃうのよ。あの子のせいじゃないし、私はこの怪我のおかげでラグスが告白してくれて結婚できたから別にいいのにね。」
「・・・。」
後遺症によって不便が無いと言うわけではないだろう。でもプロラさんのその笑顔を見ればその言葉は本心だとわかる。というかそうじゃないとあのラブラブ空間は出来ないだろう。
「あなたが一緒にいてくれるおかげでヒナはとても楽しそうよ。これからもヒナをよろしくね。」
「はい。」
ヒナは笑っている顔が一番似合うからな。私のこんな無茶に付き合ってくれる仲間を大切にしたい。
「あっ、でもヒナと婚約者という話は違いますから。」
「それなら、私もラグスもとっくに気づいているわよ。」
えっ、どういうこと?
「あの子は嘘をつくときする癖があるからね。」
「それなら助けてくださいよ。」
「嫌よ、だって助けたらラグスといちゃつけなくなるじゃない。」
だめだ、この人。確信犯だ。というか完全にバカップルだ。
この後、片づけをしている最中、ずっとラグスさんのかっこいいところとか駄目なところをのろけながら話された。
リア充は足の小指をタンスにぶつければいいんだ。
電車とかでイチャイチャしている人を見ると心が強いなとある意味感心します。
真似は出来そうにないですが。
読んでくださりありがとうございます。




