閑話:弟
評価どブックマークいただいたようです。
ありがとうございます。
「ヒナねえが婚約者を連れてきただって!!」
「うん、うちのおじいが教えてくれた。」
ヒナねえが冒険者になると言ってこの里を出てからもう3年以上になる。帰って来たってことは約束の迷宮をクリアしたんだと思うけど婚約者を連れてくるなんて聞いてないぞ。
「どんな奴なんだ?」
「うーんと同じくらいの年の人族らしいよ。」
猫人族じゃないのか。もしかしてヒナねえはその人族に騙されるか脅されて婚約者と言ってるんじゃないのか?
「よし、俺が確かめてやるぜ。」
決意を固め、俺はこっそりと家路につくのだった。
彼の名前はレインス。ヒナの弟であり、若干のシスコンであった。
「父さん、母さん。ヒナねえの婚約者ってどんな奴だ?」
ひそかに婚約者を調査するのに身内と知られるのはまずい。夕食の誘いも断ってお手伝いさんから情報収集したがあまり情報は無かった。
「いきなり、どうしたニャ?」
「あらあら、そんなに知りたいのなら一緒にご飯を食べれば良かったじゃない。」
「そう言う訳にはいかないんだよ。そいつがヒナねえにふさわしい男かどうか俺が確かめてやるんだ。」
手を振り上げながら答える。特に意味は無いが気合いだ!
「うーん、ヒナに完全に尻に敷かれているニャ。」
「でもでも、いい子よね。」
「優しいというか、のんきというかニャ。」
「そうねえ、でも実力はありそうだったわよ。」
「ヒナも太鼓判を押していたしニャ。」
話をまとめると実力はあるが、優しくてのんびりしている。いい人だがヒナねえに尻に敷かれているってことか?ますます意味がわからない。
「直接会ってみるしかないな。」
「まあほどほどにしておくニャ。」
「遊んでもいいけどちゃんと夕飯までには戻るんですよ。」
「わかってる!!」
よし、明日、さりげなく接触するぞ。
「兄ちゃん、タイチって言うんだよな。俺のことはレーって呼んでくれ。よろしくな。」
そいつは朝から父さんたちの依頼で森の調査に行くって話だったから、門から屋敷までの道の近くの小川で遊ぶことにした。そしてちゃんと会うことが出来た。やっぱり俺は頭がいいな。
そいつは墨のように黒い目と黒い髪をしたヒナねえと同じくらいの年の男だった。なんとなく人畜無害そうな顔をしている。いや、こういうやつに限って悪い奴だったりするんだ。
馬車の車輪を2つくっつけたような変な乗り物に乗っている。なんか前にコザがバイがどうのこうの言っていた気がするがそれなのかもしれない。
そいつはいきなり話しかけた俺にちょっと面食らった顔をしていた。もうちょっとさりげないほうが良かったか?
「ああ、よろしくね。レー君でいいのかな。」
「おう。」
危ない、危ない。ステップ1は成功したから次はステップ2だ。
「タイチ兄ちゃん、暇か?一緒に遊ぼうぜ。」
「うーん、そうだね。どんな遊びをしているのか興味もあるし、それじゃあ遊ぼうか。」
よし、ステップ2も成功。あとは遊んで仲良くしていってどんなことを企んでいるのか暴いてやる。
「よし、それじゃあゴブリンごっごな。」
「ゴブリンごっこって何?」
ゴブリンごっこ自体がわかっていないような雰囲気だ。里の外ではないのか?
「1人がゴブリンになって他の皆が逃げるんだよ。捕まったら次はそいつがゴブリンになるんだ。」
「ああ、鬼ごっこみたいなものか。」
なんか納得してくれたみたいだ。それにしても鬼ってなんだ?
「じゃあやるぜ。とりあえずタイチ兄ちゃんがゴブリンな。皆逃げるぞー!!」
一緒に遊んでいた仲間たちが蜘蛛の子を散らすように四方八方に逃げていく。
「タイチ兄ちゃん、10秒なー。」
もちろん俺も捕まるわけには行かないから遠くへ逃げるために走る。仲間の中で一番俺が走るのが早い。ゴブリンごっこなら負けなしだ。
「・・・9、10。じゃあ行くよ。」
そいつが律儀に10秒数えて、こちらに向かって走ってくる。って速!!怒った時の母さんぐらい速いぞ。
「捕まえちゃうぞー!!」
「「キャー!!」」
そのままのスピードで来るかと思ったがこっちに近づいて来たら逃げられるくらいのスピードに落としてくれた。みんなが楽しそうに逃げ回っている。でも頭の上に指を一本立てたまま追いかけてくるが何かのおまじないか?
「レー君、捕まえた。」
「うおっ、まじかよ。」
しまった。奇妙な行動を見ていたらいつの間にか後ろに立たれていた。そういう意味があったのか意外と策士だな。
「よし、じゃあ行くぜ。1、2・・・」
「レー君がゴブリンだぞ。皆、逃げろー!!」
「「「わー!!」」」
待ってろ。すぐに捕まえてやるぜ!
「レー君、ちょっと休憩しよー。」
「おー、そうだな。」
ゴブリンごっこは白熱した。タイチ兄ちゃんがなかなか捕まらないので最後の方はタイチ兄ちゃんVS俺たち全員で戦った。長時間の戦いの末、われらゴブリン軍がタイチ兄ちゃんを捕えることに成功した。連携の勝利だ。
「あっ、そうだ。レー君たちこれ食べる?」
タイチ兄ちゃんが取り出したのは森になっているアケビの実だ。ぱっくりと割れておいしそうな白い実の部分が見えている。
「「「わーい、いただきまーす。」」」
「タイチ兄ちゃん、ありがとな。ほらっ、お前らもお礼を言え。」
「「「ありがとー。」」」
「どういたしまして。」
皆でアケビをかじり種を飛ばす。アケビは美味しいんだけど種が多いんだよな。でもそれを飛ばして遊べるからそれもいいか。
「そういえば、タイチ兄ちゃんはヒナね・・、ヒナ様の婚約者なのか?」
あぶねー、危うくヒナねえって言うところだった。タイチ兄ちゃんは特に気にした様子も無く、ちょっと困ったような顔をしている。
「あー、やっぱりそんな話になってるんだ。うーん、冒険者仲間だけど婚約者じゃないね。この里に入るときにヒナにいたずらされて婚約者扱いされただけなんだ。」
「へー。」
ふむふむ、と言うことは噂は間違いってことか。まあヒナねえは時々とんでもないいたずらをするから本当かもしれない。
「まあでもそのおかげでこの里に入れたからね。しかも刀や米や味噌とかも見つけられたし。」
「タイチ兄ちゃんは刀や米とか味噌が好きなんだ。」
「そうだね。出来れば味噌蔵とかに見学に行きたいくらい好きだね。刀は冒険者として個人的に打っているところを見てみたいし。」
うーん、それくらいならいいかな。今日遊んで悪い人じゃなさそうってわかったし。今はいないけど後であいつらに頼めばいいか。
「見学なら俺が頼んでやろうか。」
「えっ、いいの?」
タイチ兄ちゃんの顔がめちゃくちゃ嬉しそうだ。そんなに行きたかったのか?
「うん。鍛冶師と味噌蔵の子なら俺の友達だから大丈夫だぞ。」
「ありがとう。それじゃあ頼むよ。」
「おう、任せとけ。」
その後、タイチ兄ちゃんと遊んだり、森のお土産をもらったりしたが結局最後までヒナねえの弟とはばらさなかった。なんとなくだがそれがいいような気がしたのだ。
一緒に過ごしてみて、最初に思ったような悪い人ではないことはわかった。それどころか俺はタイチ兄ちゃんが好きだ。今度は本当にヒナねえの婚約者として里を訪れてほしい。
その時に俺の正体をあかしてやるんだ。待ってるからなタイチ兄ちゃん!
おそらく予想されてたであろうレー君、弟設定。
レー君は若干のシスコンでそこまでではないはずです。
読んでくださってありがとうございました。




