閑話:隷属の刃
しばらく停滞気味だったのですがブックマークしてくれた方々ありがとうございます。
これからも頑張ります。
目が覚める。壁に掛けてある時計を見る。朝6時ちょうど。いつも通りの朝だ。
はぁ、今日も何も起こらなかった。ついてない。
顔を洗い、食事をとる。化粧もするが最低限リップを塗るくらいだ。全くしないのも不自然だし。
家を出て森の方面を見る。合図は無い。今日1日も普通の日になるだろう。
馬車に乗り家から町に向かう。今の職業は行商人。女の行商人は珍しいがいないわけではない。女の単独となるとかなり珍しいが。最近は3日に1度のペースで街を訪れている。もう顔なじみになった門番ににっこりと笑顔であいさつする。門番も顔を覚えているからかチェックさえされない。まあ街道沿いの小さな町にそんなものを求めるのも酷な話か。むしろ顔を覚えているだけ勤勉と言えるのかもしれない。
通い慣れた通りを馬車で進み、なじみの雑貨屋の前で止まる。
「こーんにーちはー。」
店に誰もいなかったので奥に向かって呼びかける。間延びした感じでのはほんとした声で呼びかけるのがポイントだ。
「ああ、ごめん。よく来てくれた。」
生真面目そうな若い男性が小走りでやってくる。この雑貨店の店主だ。数年前に王都から帰ってきて先代が隠居したのを契機に代替わりした。現在は独身。顔はまあまあなので町の若い女の子の人気はなかなか高い。
「それじゃあ、いつも通り置いていきますねー。」
「てっ、手伝います。」
「いつも、ありがとうございますー。」
ぱぁっと嬉しそうな顔をして深々と頭を下げる。胸元の緩い服を着ているので店主がそこを凝視しているのがわかる。それに気が付かないふりをしながらゆっくりと頭を上げ、馬車へ向かう。ちょっと店主は残念そうだった。
馬車からメルリスで仲間が仕入れてきた武器や防具、生活用品などを降ろしていく。特に大変ではないのだが重い荷物は店主が代わりに降ろしてくれる。そのたびに頭を下げるのが若干面倒だ。自分一人でやった方が確実に早く終わるだろうから。しかし店主は私の谷間が気になるのかいつもたくさんの荷物を降ろそうとする。まあ別に減るものでもないのでいくら見てもらっても構わないのだが。
「そういえば、なにか変わったことはありましたー?」
「最近は特にないですね。相変わらず盗賊は出ているようですし。気を付けてくださいよ。」
「そうですかー、ありがとうございますー。」
収穫は無しか。まあこの町で有益な情報が手に入ったのは過去に両手の指で足りるくらいしかないから期待はしていない。通常の買取価格よりも少しイロのついた金額を受け取り店を去る。
その後、酒場で昼食をとるついでに何か目新しい情報が無いか聞いてみたが何もなかった。酔っ払いが私に絡んできたがマスターか慌てて助けに来てくれたので大事にはならなかった。ここのマスターは元冒険者なだけあって、そこいらのチンピラよりよほど強い。見た目から絡まれることが比較的多い私にとっては情報収集のしやすい貴重な場所だ。
3日分の食料品を買い、町を出る。食料に困っているわけではないが何も買わないのは不自然すぎる。いつもの農家でいつもの野菜を買い、いつも通りの金額を払って笑顔で別れる。農夫は朴訥とした人物で私に何も聞かない。ある意味ここがこの町で1番好きな場所かもしれない。
家に帰る途中で3匹のフィールドウルフが襲い掛かってきた。群れの斥候役だろう。こちらが馬と女1人だと思ってそのまま襲うことにしたのだろう。ハァハァと口をだらしなく開け、よだれをダラダラと流している。
周囲に人がいないことを確認し、ナイフを逆手に持ちながら馬車を降りる。
無造作に近づいていき、首を狙ってかみつこうとするフィールドウルフをかわし、ナイフで頸動脈を裂くように突き刺していく。突き刺す場所はちゃんと考えているので返り血が付くこともない。
「はぁ、誰か私を殺してくれないかしら。」
3匹のフィールドウルフが血だまりに沈む中、私のその声だけが平原に響いた。
家に帰り、鍛練を終え、水浴びをする。女性のシンボルを象徴するかのように大きくなった胸、客観的に見ても平均以上の顔、普通に暮らせていればどんな生活をしていたんだろうか。腕輪をじっと見ながら意味のない夢想をする。
私の主の好みは40代から50代の女性。私にとっては20年後の話だ。たぶん私の初めてはその頃に主に捧げられるのだろう。自分の想像に自分で吐き気がした。
午後11時、ベッドに入り、眠りにつく。どうか明日が訪れませんように少し祈りながら。
目が覚める。壁に掛けてある時計を見る。朝6時ちょうど。いつも通りの朝だ。
はぁ、今日も何も起こらなかった。ついてない。
顔を洗い、食事をとる。化粧もするが最低限リップを塗るくらいだ。全くしないのも不自然だし。
家を出て森の方面を見る。合図があった。森へ行かなければいけない。面倒だ。
全身を覆うローブと仮面を身に着け正体を隠しながら森へと馬車を進ませる。夜には着くだろう。今回の獲物が私と同じような子でないことを祈る。そうであったとしてもやることに変わりはないのだが。
適度に休憩をはさみながら馬車を進める。他の馬車や旅人とすれ違うが私を気にした様子はない。街道を走る馬車の御者であれば魔物に襲われ、ひどい傷を負っている者も少なからずいる。他人に見せないようにローブで隠している者も多いのだ。
盗賊のアジトへ着くと見張りの盗賊が壁にもたれかかって眠っていた。酒の匂いがした。
ちっ、これだから盗賊は。
通路を歩きいつもの部屋に向かう。普段ならこの時間でも数人の盗賊とすれ違うのだが今日は見かけない。警戒のレベルを上げる。単に狩りに行っているだけかもしれないがこの用心深さで生き残ってこられた。いや生き残ってしまったと言うべきか。気配を探りながら慎重に歩を進める。
部屋に着くと盗賊の頭が椅子に座っていた。奥に箱とバイシクルが置いてあるのが見える。周囲に頭以外の人の気配はない。若干警戒を解く。
「おい、合図を確認したから来たぞ。今日はどんなものだ?」
返事はない。こいつも寝ているのか?
「おい!!」
頭の体が傾き地面に倒れていく。それと共に今までは感じなかった気配が突然現れる。天井が崩れ、少年が落ちてくるのことを一瞬で判断し後方へ飛びのこうとしたが足を固められている。まずい!!
少年から何かが放たれる。私でも視認が難しいその何かを、勘に従って上半身をねじりながら避ける。状況は悪い。今までの行動から考えて土魔法、投榔スキルを所持していそうだ。
「これをかわすか。ちょっと自信があったんだけどな。」
少年が残念そうに見えない顔でつぶやく。意識を向けつつ逃走方法を探すが後ろから少年の仲間もやってきたようだ。これは年貢の納め時だな。
情報漏えいは一番の禁忌だ。だからこそ、この場合のみ自分を殺すことを許されている。ああ、これでやっとこの意味のない生を終わらせられる・・・。
しかしナイフは弾き飛ばされその衝撃で顎がずれ奥歯の毒も使えなくなった。何とか舌を噛み切り溢れ出る血にむせそうになりながら少年を見る。少年は私の様子を見て焦っているようだ。素直そうな子だ。私の死がこの子の傷にならないといいが。
そう考えていると太ももにちくっとした痛みを感じ、意識がもうろうとしてくる。その眠気に抵抗していたが柔らかな温かい光に包まれ私は意識を手放した。これは癒しの魔法だ。本当に私はついていないな。ふふっ。
次に目を覚ましたのは馬車の中でガチガチに固められて身動きが出来ない状態だった。状況を把握した途端、隷属の腕輪が私を殺そうと動き出す。全身をねじ切るような、しびれるような苦痛が襲う。誰か助けて欲しい。これは嫌なんだ。誰か、誰か!!
「しばらくお休み。」
優しい声が聞こえた。ちくっとした痛みと共にあの温かい光に包まれる。感謝を伝えたかった。ただありがとうと。
その後も私が目覚めそうになるたびに少しの痛みとそれを癒す温かい光に包まれた。この光は本当に気持ちがいい。優しさにあふれているのだ。私には縁がなかったものだ。
次に意識がはっきりした時、私は驚いた。隷属の腕輪が外れていたのだ。今まで私を苦しめ縛ってきたものが今、無造作に目の前に置かれている。少年に感謝するとともに、これからあの温かい光に包まれることが無くなってしまったのがとても残念でならなかった。
その後私はメルリスの領主に引き渡された。兵士に囲まれ領主の館へ運ばれていく途中ずっと考えていた。
タイチ、私を救ってくれた私の英雄。とても優しい人。でもだからこそ危ない人。あの優しさはいつか自分自身を殺す毒になる。それを防ぐ毒を食らうものが必要だ。そしてその役目は・・・。
名前が閑話でも出てこないあの人でした。
再登場させたいなーとは思っていますがスルーするかもです。
読んでくださってありがとうございます。




