ヒナへの弁明
おお、あれはチタン製のロードバイクじゃないか。あっちはツール100周年記念の限定モデル。あっ、あっちは欲しかったミニベロ。あの廃版になった名車と言われたマウンテンバイクまである。おお、天国はここにあったのか。
とりあえずどれから乗ってみようか?やっぱりここは最近乗れていない定番のロードからかな?チタン製のロードバイクに手をかけ乗ろうとする。とりあえず向こうの光っているところまで走って戻ってこよう。よし、行くか!
「・・チ、タ・チ、起きて。ねえ、タイチ。」
「はっ!!」
周りを見渡す。そこにあったはずのあの自転車たちはもういない。そこにいたのは心配そうに私を見つめているルージュと困惑顔のヒナだ。ヒナはばっちりタオルで全身をガードしている。
「・・・あともう少し遅ければ憧れのロードに乗れたのに。」
「あー、それは残念だったね。」
ルージュが呆れた顔に変わる。しまった。第一声としてはふさわしくなかったな。
「心配かけてすまん。ルージュ。」
「いいよー、とりあえずヒナも落ち着きなよ。」
「この状況で落ち着けって言われて落ち着くほど肝は太くないニャ。」
ヒナはタオルが落ちないようにか腕を前に組んでいるが胸を強調するだけで意味がないような気がするぞ。というか私が気絶していた時に服を着るか出ればいいのに。
「それでタイチはなんでこんな子を連れ込んだニャ?もしかしてこのくらいの子がタイチの好みなのかニャ?」
ヒナが驚愕の表情をする。まあ、目がいたずらするときのきらきらした目をしているので本気ではないだろう。違うよね?
「ルージュ、説明してないの?」
「うん、一緒に驚かそうと思って。」
「ルージュ・・・?って本当にルージュニャ。」
「あっ、気づいた。」
「まあ、共感があるからね。」
ヒナが遠慮なしにルージュをペタペタと全身を触っていく。ああ、まだ洗っている途中なんだから泡がつくぞ。
「なんで人間になってるニャ!?」
「えっと、人化できるようになりました。」
「そうだよー、あとそろそろやめて。」
だんだんとヒナの触り方が激しくなってきたのでさすがに嫌だったようだ。私でも太ももとか触られるのは嫌だ。ルージュは触っていた自分の手を見つめている。
「私よりきれいな肌ニャ・・・」
ズーンとした空気を醸し出し始めたヒナになんて言っていいのか言葉が見つからない。とりあえず突っ込みどころはそこじゃないだろとは思うが。
「・・・とりあえずわかったニャ。タイチが犯罪者じゃなくて良かったニャ。」
「ああ、納得してくれたようでなによりだ。それよりもヒナはなんで入って来たんだ。使用中の札はかけておいたはずだぞ。」
風呂を使うのは私だけではないから使用するときは必ずチェックするようにしているのだ。かけ忘れはありえない。
「だってこの時間に入っている人なんていないニャ。そんなもの確認しないニャ。」
「じゃあ蹴られ損じゃん。」
「私の裸を見たんだから十分元は取ったはずニャ。」
「・・・。」
反論できない。確かにヒナの裸を見てしまったという事実はある。そしてその価値も十分にあるだろう。自分で言うなよという気はするが。
「とりあえずルージュを洗い終わったら出るからちょっと待ってて。」
「わかったニャ。」
ルージュの体を再度洗い、お湯で流してきれいにしてやる。外にだいぶ出ていたので少しの間、湯船に浸かり体を温めなおして出ることにした。
「じゃあねー。」
「なんというか、すまなかったとは思う。」
「まあいいニャ。私もタイチの裸を見たからお相子だと思っておくニャ。」
ああ、そういえば気絶していた間にタオルがかけられていたからたぶんヒナがかけてくれたんだよな。普段なら恥ずかしくなるんだろうがなんかもうどうでもいいや。
脱衣所で服と着ていた時に気づいた。ルージュはパンツをはいていない。女もののパンツなんて持っていないので当たり前だが、服も私のものでだぶだぶだしどうにかしないといけないな。
「ヒナー。」
「何ニャ。」
扉越しにヒナの声が聞こえる。ちょっと反響してエコーがかかっている。
「明日でいいからルージュ用に服と下着を買ってきてくれない?」
「タイチが自分で行けばいいニャ。」
「女ものの服なんて選んだことが無いよ。ヒナのセンスに任せたいんだ。ルージュを連れて行ってもいいし。」
「タイチはどうするニャ?」
「ラージュさんに頼まれた仕事があるからそれをやるかな。」
「うーん、わかったニャ。その代わり、今度新しい料理を作ってほしいニャ。」
「了解、そのぐらいなら喜んで。」
たこ焼きの鉄板も出来たからちょっとおしゃれにアヒージョでも作ればいいかな。それかタイヤキか。なんとなくタイヤキのほうが受けそうな気がする。
「というわけで明日はルージュは買い物ね。」
「でもクロスバイクの状態ででしょ。試着も出来ないし、そんなに人化するつもりもないからあんまりいらない気がするけど。」
「いつまでも私の服だけ着るのもまずいしね。それに今後、迷宮のボス戦の時みたいにルージュに戦ってもらうことがあるかもしれないからルージュの装備もある程度そろえていこうとは思っていたから。いい機会だし女子同士で買い物に行くといいよ。」
「うん、わかった。そこまで言うなら買ってくるよ。楽しみにしててね。」
翌日、ラージュさんから横幅6メートルの道の開通を依頼されたので私は1人で森に入り、土魔法で地面を持ち上げ木を次々と倒していく。回収は後でもできるのでとりあえずは木々を倒しながら進んでいく。
マップは森を完全に埋めたことで思った通りLvが上がり今では半径1キロメートルまでわかるようになっている。何かしら機能が追加されていると思うのだが今のところ見つけることが出来ていない。まあ今のままでも困っていないからおいおい探っていこう。
途中でMPが尽きたので昨日作っておいた中級MPポーションを飲み干す。中級ポーションを作る方法と普通のMPポーションを作るための方法を組み合わせてみたらすんなりと作ることが出来てしまった。MPを300まで回復することが出来るので非常に便利だ。これでもうお腹がたぼたぼにならない。
朝から始めて午後3時ごろに道中の木を倒し終えた。帰りにアイテムボックスに収納しつつ道の途中のところどころに積んでおけばいいだろう。道をならすのはまた明日だ。
遅いお昼をとるついでにレオノールに里の人に作ってもらったおはぎをあげたのだが思いのほか好評だった。ラージュさんに伝えておこう。
木を積みながら帰り、午後6時ごろに屋敷に戻った。自分の部屋に戻るとルージュがわざわざ人化して待っていた。
「おかえりー、ねえねえ見てー。」
ルージュが新しく買った衣装を身に着けくるくると回る。膝上の黄色のワンピースにショートパンツをはいている。ボーイッシュなルージュにワンピースは似合わないかなと思っていたのだがそんなことは無い。なんというか夏の少女って感じだ。
「よく似合ってるよ。」
「いいでしょー。ヒナが選んでくれてんだよ。」
「そっか、後でお礼を言っておこう。」
ルージュのファッションショーはしばらく続いた。最後に買った下着姿まで見せてくれたがそろそろ恥じらいとかの常識を教えたほうが良いかもしれない。なんだろう。娘を持った父親もこんな悩みを持つのだろうか。だれかに教えてほしい。
はい、お風呂会です。
ちなみにチタン製のロードバイクは本当にあります。クロモリに似てシックな感じで私は好きです。
読んでくださってありがとうございます。




