レッドドラゴン
熱気を含んだ生臭い風を感じる。その目は私を凝視して外さない。
動けない、動かないと、逃げないといけないとはわかっている。しかし何がきっかけでこのこう着状態が終わってしまうのかわからない。それ以前にその存在感に圧倒されて金縛りにあったように身動きが取れないのだ。
(やっばいねー。)
ルージュがおどけてそんなことを言うがその声は真剣そのものだ。レッドドラゴンは成竜になれば一体で街一つを滅ぼす災厄。性格は凶暴かつ残忍。対処できるのは1級冒険者か2級以下でも実力者のパーティだけだ。それでも倒せるとは言っていない。対処が出来るだけなのだ。
(ルージュ、逃げ切れると思う?)
(うーん無理じゃないかな。動いた瞬間に攻撃されそう。)
(だよね。)
仕方がない。あまり使いたくはなかったが緊急避難するしかない。とはいっても自分の足元の地面を土魔法で囲んでアイテムボックスに収納して落ちるだけだ。怪我はするだろうが今よりはましだ。
足元に魔力を流す。駄目だ!!魔力が流れない!!
2メートルほどは囲めるがそれ以上は魔力が邪魔されてしまう。ちっ、迷宮のせいか!!
焦る私をよそに寝転んでいたレッドドラゴンが立ち上がる。
「GRUOAAAー!!」
それは圧倒的な死を感じきせる叫び声だった。そしてどんな抵抗も無駄だと思わせるに十分な威圧だった。あっさりと、そう、あっさりと自分はここで死ぬんだろうと納得してしまったのだ。
レッドドラゴンが巨大な爪で私を引き裂こうとするのを他人事のように見ていた。あと少しで死ぬな。
ふとアンさんの言葉がよみがえる。
「タイチ、人はいつか死にます。圧倒的に不利な状況で死に直面することもあるでしょう。そういう死にそうな時、どうしますか?」
私はその時答えられなかった。アンさんならどうしますかと聞くとアンさんは笑って、
「そうですね、私なら・・・」
目が覚める。何を腑抜けていたんだ。圧倒的な速度で迫ってくる巨大な岩のような腕を体をひねって間一髪でかわす。熱気を感じるとともに、肩に大きな衝撃を受ける。ガンっという大きな音とともに何かが自分の後方へ飛んでいきガシャガシャと音を立てながら転がっていく。
自分の前を丸い何かが転がっていく。ああ、よく見慣れたものだ。
ルージュのホイールだ!!
「てめえええー!!」
怒りに任せ、全力でダートを目に向けて投擲しながらレッドドラゴンの周りを走り、反対方向を目指す。
「怒りは心を鈍らせます。怒っていても常に冷静でいなさい。」
アンさんの教えが次々と浮かんでくる。
今この状況で一番まずいのはこれ以上のルージュへのダメージ。レッドドラゴンのブレスはミスリルをも溶かす。せめて反対方向に!!
ダートは目を閉じたドラゴンのまぶたに弾かれて刺さりもしない。それだけを見れば絶望的だ。でも逆に言えば目はダートを防げない。
「どんな相手にも弱点はあります。それを見つけられるかで状況は変わりますよ。」
ダートを関節、鼻の穴、口、翼など攻撃の通りそうな場所を狙い何度も投擲していく。関節や翼は弾かれてしまったが、鼻や口は初撃を受けた後は嫌そうに翼でガードしている。狙うのは内側だ!
フェザー展開!!
「GUGYAAAー!!」
地面を砕く爪を、薙ぎ払われる翼を転がりながら避ける。砕かれた地面が弾丸となって私に当たる。
視界が赤く染まる。まぶたを切ったか。だがまだ動ける!
MPポーションをくわえて飲み、瓶をぺっと吐きながらレッドドラゴンを見据える。
フェザーは4つ。そのうち2つは目を狙う用の杭のバージョンだ。もちろんこれが刺さるとは思っていない。ただの囮だ。本命は残りの2つ・・・。
MPポーションを次々と取り出しては飲んで魔力を練っていく。その間もダートを投げ、フェザーをヒュンヒュンと飛ばし執拗に目を狙う。
このドラゴンは目を狙われると翼で守る癖がある。一撃でも攻撃を受ければ死んでしまう私としては準備までの時間稼ぎをしなければいけない。片方の翼と視界を奪えば攻撃を避けるのは難しくない。
最初より力のこもっていない爪の攻撃を避ける。それでも地面は割れ、体から放射される熱が肌をチリチリと焼く。
10数本目のMPポーションの瓶を吐き出しながら準備が整うのを待つ。
あと1分ほどでこちらの準備が終わる。だがそれを待ってくれるほど甘くないようだ。
「GURUUUー!!」
レッドドラゴンが上体を持ち上げその首を鎌首のように曲げる。まずい!!
アイテムボックスに保管しておいたすべての土の塊を前方に集中させて出現させ、更にそれを土魔法で補強する。
「KAAAAー!!」
「うおおおー!!」
直後にレッドドラゴンのブレスが放たれる。10メートルは厚みのある土壁が崩壊しようとするのを必死に土魔法で壊れた端から直していく。
熱い、熱い、熱い!!
土壁に阻まれているのにその熱だけで髪が焼かれる。防具をつけていない顔や手にやけどを負っていく。
「があああー!!」
それでも土魔法は止めない。やけどと乾燥でくっついた唇をナイフで切りMPポーションを流し込む。
結果的に言えば即席の土壁はレッドドラゴンのブレスを耐えきった。ただブレスの代償はあまりに大きかった。私はもう動くことは出来ない、顔と手にやけどを負い、すべてのMPを消費した。今もMPポーションを飲んでいるため気絶はしないが正に満身創痍だ。
でもこれでいい。1分耐えきった!!
アンさんの言葉を思い出す。
「そうですね。私なら私に手を出したことを一生後悔させてやりますね。たとえ死んだとしても。」
土壁を壊し、レッドドラゴンがこちらに向かってくる。破壊された土壁が当たり、あばらが数本折れたようだ。でも気にならない。気分は最高だ。
「さあ、マジックの時間だ。心行くまで楽しんでくれ。」
ドラゴンに向かって話す。聞こえてはいないだろう。でもそれでもいい。
落ちろ!!
上空100メートルほどまで上昇させていたフェザーで魔力のほとんどを使って土魔法で作ったギロチン。自分の想像できるだけ固く、そして重い。このドラゴンと同じくらいの10メートルを超す大きさ。これなら傷つけることは出来なくても体内に衝撃は与えられるはず!
ドラゴンは私を見つめたまま気づいていない。そうだ、そのまま来い。お前の獲物は目の前だ!
ギロチンはもう当たると言うところで気づかれた。ドラゴンがこちらに突進し回避しようとする。
させない!!
土魔法で地面を囲みアイテムボックスへ収納して1メートルほどの地面を無くす。そして即座に壁になるようにその地面を取り出す。
それで十分だった。走り出そうとした地面が無かったドラゴンがまごつく間にギロチンはドラゴンのしっぼを根元から切断した。
「GYAOOOOOR!!」
ドラゴンが大口を開けて悲鳴をあげる。この時を待っていた。
ドラゴンの付近の地面に隠してあった残り1つとなった1センチ角のさいころのようなフェザーをドラゴンの口を目がけて飛ばす。
口の中に入ったところで土魔法でとがった岩を作りどんどんと大きくしていく。
「GUUUU!?」
土の塊が大きくなり口内を傷つけていく。数本の牙が歯ぐきからへし折れる。
ズウンという大きな音と共に巨大な牙が地面に落ちてきた。
「UUUUU!!」
レッドドラゴンが苦しそうな表情で叫び声を上げようとするが、口内の土の塊のせいでくぐもった声しかあげられない。いい気味だ。
ああ、でも無理だったか。最後の虎の子のマナポーションの瓶をぺっと吐き出す。
のこりのMPは10程度。もう回復する手段は無い。これではこれ以上、奇跡のようなマジックは起こせない。やけどと骨折で満身創痍の私に比べ、奴はしっぽを切り落とされ、口をふさがれているとは言え致命傷ではない。私のMP供給が切れた土の塊がどんどん崩れているからほどなく殺されるだろう。
アンさん、私は後継者の称号を持つものとしてふさわしい行動をとれたでしょうか。アンさんには不肖の弟子と言われてしまいそうですね。
ジンさん、ニールさん、リイナさん。力になれず、すみませんでした。
ヒナ、後は任せた。ラージュさんとミーシャさんと一緒ならこのドラゴンなら討伐可能だ。里を守ってくれ。
そしてルージュ・・・。
ズシャン、という轟音を響かせ、口内を傷つけていた土の塊が目の前に落ちる。その風圧で倒れそうになりながらも必死に踏ん張る。土の塊は奴の血にまみれていた。
奴を見て満面の笑みをうかべる。MPを使い切らず残したのは奴を笑ってから殺されてやるためだ。
どうだ。私に手を出したことを一生後悔すると良い。
レッドドラゴンが大きく咢を開け、私に食らいつこうとする。ああ、これで終わりだな。
「すまん、ルージュ。先に逝く!!」
「そんな別れの挨拶はいらないよ!!」
聞きなれたルージュの声が耳に響く。
眼前に突然現れた、先ほど落としたギロチンがレッドドラゴンの牙を防いだ。
「タイチもそこの君もストップ!!戦いは終わりだよ。」
ドラゴンも私もその声のした方を向く。そこには右手をギロチンにそして左手で迷宮の隠し部屋で見つけた杖を持った10歳くらいの茶髪の少女がいた。
ということでガチバトルになりました。
基本主人公は怒りませんがルージュと仲間関係は沸点が低いです。
読んでくださってありがとうございます。




