味噌蔵見学
マタタビを採取するという予定が出来てしまったので今週中に森のマップを埋めるという目標はとりやめて、探索も今週は早めに休むことにした。予定より1週間以上早いから問題は無い。危険がある可能性の高い中心に行く前にフェザーの完成度も高めたいし。
マタタビを採取したら、午後からどうしようかなと迷っていたのだが、ちょうど行きがけにレー君と出会ったので午後から味噌蔵を見学させてもらえるようにお願いしておいた。「まかせとけ。」と言っていたのでたぶん大丈夫だと思う。何気にすごいよな、レー君。
午後の予定も埋まったので今はせっせとマタタビの実を採取中だ。形のきれいな方よりもぼこぼこした方がいいらしいので探しながら採取していく。
(そういえば、木を村に移植しちゃえばいいんじゃない?)
「ルージュ、その場合を想像してみてよ。」
思い出されるのは昨日の惨状。村人たちがマタタビの木に群がりうへへへ、と笑いながらゴロゴロする。うん、村が崩壊するな。ルージュにも話したし想像できるだろう。
(村が駄目になりそう。)
「だよね。」
というか今まではどうやって採取していたんだろう。やっぱり布でマスクをして採っていたんだろうか。移植自体は土魔法で周囲の土ごとアイテムボックスでもっていけば出来そうなので最終的にどうするかは一応ラージュさんに聞いてみよう。
群生しているマタタビの木を巡り、ある程度の量が確保できたため帰ってマタタビ酒を造っているという人の家に行く。造り酒屋かなと思っていたのだが、持っていくように言われたのは普通の一軒家だった。
せっかくなので作り方を教えてもらう。作り方は非常にシンプルでマタタビをよく水洗いして水分を拭き取り、氷砂糖、焼酎と混ぜて漬けておくだけだ。マタタビ、氷砂糖、焼酎の割合は1:1:6で注意点としては水をしっかり拭き取らないとカビが発生してお酒が駄目になってしまうらしい。あとは3か月から半年ほど待てば出来上がりだそうだ。
なんとなく梅酒とかの作り方と似ているな。実家の手作り梅酒を正月に飲むのが楽しみだったのを思い出す。これだけ簡単だったら私でも作れそうだからあとで作ってみよう。
「タイチ兄ちゃん、見学に来てもいいってよ。」
昼食後、買ってきた焼酎や氷砂糖を土魔法で作った瓶にマタタビと混ぜて入れてルージュにつけているマジックバックに収納しているとレー君がやって来た。
「ありがとう、レー君。」
「早速案内といきたいとこなんだけどちょっと用事があるからこの地図見て行って。話はしてあるから。じゃあね。」
地図を渡し、それだけ言うとレー君はすぐに帰ってしまった。描いてくれた地図に目を落とすと、この屋敷と思われる場所の絵と何回か曲がった線が引かれておりたぶん目的の味噌蔵だと思われるところに蔵の絵とバツ印が描かれている。非常にわかりやすい絵だ。それ以外の目標物が何も書かれていないことを除けば。
「ラージュさんかミーシャさんに聞いてみるか。」
独り言をつぶやきながら行動を開始した。廊下を歩いているとちょうどミーシャさんと会ったので味噌蔵の場所を聞き、もらった地図に補足を書き足しておいた。これで迷わないだろう。日本でも味噌蔵なんて行ったことはない。どんな場所なんだろうか?
地図とマップを照らし合わせながら進み、しばらくして大きな蔵が見えてきた。おそらくここだろう。
「こんにちは、レー君の紹介できましたタイチです。」
蔵の横で味噌などを販売している店舗で店員さんに声をかける。店員さんが奥の方へ入っていき、しばらくして恰幅のいい50代くらいの人のよさそうなご主人がやって来た。
「まあまあ、よくやってきましたな。私はソイヌと言います。見学をご希望でしたかな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「そうですか、ちなみにタイチさんは今日納豆を食べたり触ったりしましたかな?」
「いえ、食べていません。」
ソイヌさんはほっとしたような表情を浮かべた。
「それなら大丈夫ですな。」
「どういうことですか?」
「味噌が大豆から作られるということは?」
「知っています。」
「それでは納豆は?」
「大豆ですね。」
あれっ、そういえば同じ発酵食品なのにどうやって分岐しているんだ?納豆は納豆菌で作られるんだからやっぱり菌の強さの違いかな?
「簡単に言えば味噌蔵に納豆は厳禁なんですな。下手をすると味噌が全滅しかねませんな。」
「わかりました。それじゃあ一応体もきれいにしておいた方がいいですね。「クリーン!」」
「ありがとうございます。」
納豆菌はどこにでもあるという話を聞いたことがあるからな。せっかく見つけた味噌が駄目になってしまうなんてもったいないことこの上ない。
「タイチさんには味噌づくりの流れを見てもらうつもりですな。1日で出来るようなものじゃありませんからな。」
「よろしくお願いします。」
「ではまずは洗いと漬けですな。」
蔵の中に入ると巨大な桶の中で大豆を洗っている人がいた。しばらく見ていたが1度ではなく5回以上洗っている。
「大豆はタイチさんが考えるより汚れていますから何回もこすり洗いして汚れをよく落としますな。ここで手を抜くと失敗したり、出来上がったとしても雑味として残りますな。」
洗い終わった大豆を別の桶に入れていたので見てみると水につかった大豆がたくさんあった。
「洗いが終わったら、水に漬けますな。このとき水が少ないと大豆が吸収しきれず芯が残ってしまうので多めに入れますな。」
「だいたいどのくらいですか?」
「目安は3倍ですが水が多い分には特に問題は無いですな。つける時間は今からだと翌朝の9時ごろですな。」
ということは18時間くらいか。長いとみるか短いとみるか微妙な時間だ。
「そして時間が経過した大豆がしっかり水分を吸収したのを確認できたら1.5倍くらいの水と一緒に最初は強火で、泡が吹きこぼれそうになったらあくを取りながら弱火でじっくり煮込みますな。時間は3時間くらいでしょうかな。その煮込んだものがこちらですな。」
ソイヌさんが鍋から1粒とりだし指で挟んで潰す。
「かなり柔らかいんですね。」
「持ってみますかな?」
「いいんですか?ありがとうございます、ってあちぃ!!」
「はっはっは。」
こんなの持ったらやけどするぞ。なんで平気なんだ。
「次は豆をある程度冷ましてから潰して、団子状にしてから塩きり麹を振りかけるんですな。均一に潰して、均一に振りかけるのがコツですな。」
「そのまま大豆に麹を振りかけてから潰してもいいのでは?」
「それだと納豆になってしまう確率が増えるのですな。」
空気に触れる面が多すぎると駄目と言うことかな。団子状のしてから麹を振りかけた方が麹菌が繁殖しやすく納豆菌の繁殖を防ぐという訳か。
「その後は桶に詰めていくんですな。このとき空気が入らないようにしっかりと押し込んでいくんですな。そして最後に表面を平らにして和紙をその上に乗せ、蓋をしてその上に石を載せていけば一応は完成なのですな。」
目の前に4メートルはあろうかという桶がいくつも並んでいる。圧巻の光景だ。
「あとは石をその熟成具合に応じてたまに動かしながら1年ほど待てば味噌になるんですな。」
「はぁ、そうなんですね。ありがとうございました。」
「いえいえ、里外の人に味噌に興味を持ってもらえたのが嬉しいので礼には及びませんのですな。匂いが駄目という人も多いですからな。」
ソイヌさんは本当に嬉しそうな顔をしている。作り手として美味しく食べてもらいたいという気持ちがあるだろうし。
「ちなみに店舗の方で味噌を販売しているのでよかったら買っていって欲しいのですな。」
「はい、もちろん。」
やはり、商売人だ。2人して笑う。
その後店舗で従業員さんが驚くほどの量の味噌を購入しホクホク顔で味噌蔵見学を終えた。味噌の補給も出来たし、いい日だった。
工場見学が好きです。特に食品系の。
出来立てが食べられるのがいいですよね。
読んでくださってありがとうございます。




