マウンテンバイクの楽しみ方
寝過ごした!でも楽しい!
「よし、じゃあ行くよ。」
(りょーかーい。)
マウンテンバイクモードのルージュと共に里の外へ出て外の森、つまりネルタ大森林の調査へ乗り出す。マウンテンバイクとしては初実走だ、心が躍る。
とはいっても今日は外周部分を走って森の大きさの把握をするのが大前提だ。本格的な調査計画を立てるために重要なものであるためマウンテンバイクの初実走は軽くするつもりだ。するつもりだった・・・。する・・・。
やっぱ無理だ。マウンテンバイクのポテンシャルとこの世界に来て能力の上がった自分。どれだけ走れるのか試してみたい。
「ひゃっほー!」
(いけいけー。)
外周から500メートルほど内側の森の中を走ることにした。
やはり森だ、人が通る道ではないし、アマゾンのような密林ではないとはいえ木々が乱立している。秋も深まったこの季節だからか落ち葉が多いものの下草があまり高く生えていないのは助かっているが。
でこぼこの地面で普通の自転車ならこんな道なき道を走ることなどできない。しかしマウンテンバイクならできる。
その理由はサスペンションだ。一般には衝撃吸収用に使われていると思われているかもしれないがそれだけではない。自転車をコントロールするためにはタイヤと地面をなるべく接地させておくことが必要だ。それをサスペンションが手助けしてくれる。そしてスリックの入ったタイヤがしっかりと地面をつかむ。
「しゃあ!!」
サドルから立ったり、座ったりして体重移動を行い動きをコントロールする。迫る木々、地面の傾斜をこの世界で成長した動体視力でもって判断し、走るコースを決めていく。そこには道などない。自分の選んだ場所が道になるのだ。山には同じ道などない。同じ顔など見せない。
一瞬でも油断すればコースアウトし怪我をするかもしれない。でもそれがいい!!
「うわっと。」
急に飛び出してきたウサギをディスクブレーキを効かせ、減速しながら体を斜めに倒しかわしていく。土埃が舞い、ウサギにかかったようだがすまない。それが精一杯だ。そのまま森を進んでいく。
(タイチ、楽しそうだね。)
「ああ、こんな風にこの子を使える日が来るとは思わなかった。前の世界では力不足だったし。」
マウンテンバイクの中でも上りも下りも出来るオールマウンテンというのがこの自転車だ。ちなみに山の上りと下りでは要求されるものが全く違う。
上りならペダリングのしやすさや、車体重量が重要になってくるのに比べ、下りでは強度や安定性が重要になってくる。オールマウンテンはすべて出来るがゆえに中途半端とも言えるマウンテンバイクと見られてしまうかもしれない。
しかしそれは乗っているエンジンが変わることで十分にカバーできる。自分自身が成長することが出来ればどんな場面においても柔軟に対応できる素晴らしい自転車なのだ。
「ルージュ、跳ぶよ。」
(おっけー。)
倒木をバニーホップしてかわす。着地した時に膝を使い衝撃を吸収し、体を倒し目の前の木を避ける。途中水たまりを跳ねて水しぶきを浴びるが今なら気にならない。
普通の自転車なら濡れるとテンションが落ちるが、マウンテンバイクは濡れることも考えて作られている。だからこそ普通のブレーキパッドではなく油圧式のディスクブレーキなのだ。
ロードバイクなどに使われているVブレーキはホイルを挟むことで速度を落とそうとする。しかし雨や今回のように道無き道を走ると泥がホイルについたりする。すると制動性が極端に落ちるのだ。
一方ディスクブレーキの場合、車軸に直結された汚れにくいローターを回転軸に近い位置で挟み込み、しかもブレーキバッドにはセラミックや金属が混ぜ込まれ滑りにくくなっている。これだけでもどちらがブレーキがかかりやすいのか明らかだ。しかも油圧式であるためレバーとブレーキの連動性が高い。そして壊れにくいのだ。
しかし良いことばかりではない。何より値段が高い。そしてメンテナンスが難しいというのがネックになる。はっきり言って素人には無理だ。まあ素人がディスクブレーキのメンテナンスをすることなどほとんどないのだが、ホイールを外すごとにフレームとまっすぐになるように神経をとがらせて装着が必要だったりとデメリットもあるのだ。
(あっ、魔物。)
「ルージュ、火魔法でけん制。逃げられそうならそのまま走るよ、追いつかれそうなら降りて迎撃だ。」
(りょーかーい。じゃあ、ぱーん!!)
上空からこちらを狙っていたフクロウのような魔物の眼前で火の玉が弾ける。あやうく目を潰されかけた鳥の魔物が上空へ引き上げていった。マップで確認する暇がないのでわからないが後でヒナになんという魔物か聞いてみよう。
「ハハハハッ、ルージュ楽しいね。」
(もっといけー。)
全身をばねのように使いながらネルタ大森林を走っていく。山の静ひつな空気の中、風を切って走っていく。丘を越える。3メートルほどの段差をジャンプして降りる。
今までの旅では体験できなかった自転車の楽しみ方だ。
楽しい。
今、私は自然と一体になっている。
気が付いたらもう昼を回って14時でした。あぁ、本当に楽しかった。
(お疲れー、面白かったね。)
「そうだな。地球でも体験できなかった自転車の楽しみ方が出来た気がするよ。」
転んだりもしていないのでルージュに傷が増えていたりすることは無い。まあ私もルージュも泥で汚れてはいるが。
「それにしても広いな。」
(そうだね。200km以上走っても終わらないからね。)
かれこれ6時間近く走っていたのにまだ最初の位置まで戻らない。おそらく後1時間程度で戻れるとは思うがすごい距離だ。森は台形のような形をしており短いほうが40km、長いほうが70km、高さが60kmくらいだ。ちなみに猫人族の里は台形の短いほうの端の近くに隠れている。
里で買ったお弁当のおにぎりを食べながら休憩する。塩がきいていて汗で塩分を失った体に吸収されているのがわかるようだ。とても美味しい。
楽しむのに夢中になりすぎて補給を忘れるとは今更ながらまずかった。森の中では走りながらの補給は難しいし、定期的に休憩をとるようにしておこう。
「今のところ異常らしい異常は見当たらないな。」
(そうだね、魔物もそれほど多くもないし。)
「石化キノコとかが生えていた場所はマーキングしておいたからまた近くを通ったら採取しておこう。」
(あれね。見た目は美味しそうなのにね。)
「ああ、完全に初心者殺しだよな。」
石化キノコは見た目はいたって地味な普通に食べられそうに見えるキノコだ。しかも調理して食べた段階では美味しいキノコなのだ。ただその後に石化するだけで。
私の場合は耐性を上げるために必要なのだが、なかなか見つけるのが難しく、しかもこの季節しか生えないため石化だけ耐性の上りが遅くなってしまっている。今のうちに大量採取しておかねば。
決して美味しいからではない。マツタケのような味と匂いがするからではない。ご飯に混ぜ込んで食べようと思ってなんて全くいないから。
食事を終え1時間後、予想通り元の位置に戻った。これで全容がはっきりした毎日1周走っていくとして大体1か月程度でマップを埋めることは出来そうだ。もちろん中心に近づくにつれて距離は短くなっていくのでもっと早くなるとは思うが。
「よし、帰ってルージュの整備だ。」
(よっ、太っ腹!)
「その褒め言葉はなんか違うと思う。」
(そう?)
ひさびさのマウンテンバイクを堪能してしまった。明日からの調査も頑張らねば。
私にとってのご褒美回です。
山や森は個人所有のことも多いので確認が必要ですね。
読んでくださりありがとうございます。




