マウンテンバイク
増えます。
「ルージュさんや。」
「なんですか、タイチさん。」
「どうも森を調査しなければいけないようですよ。」
「あれまあ、それは大変ですね。」
「そうなんですよ、そこで相談がありまして。」
「おやおや、どんな相談ですか?」
「マウンテンバイクを買わせてください!!」
「あっ、そこは元に戻っちゃうんだ。」
ヒナに詳しく話を聞いたところ大森林というだけあってかなり広いらしい。すごく広いと言うあいまいな表現だったので具体的にはと聞いたところ
「迷うと1週間は出てこれないニャ。」
「なんか体験したような言い方だね。」
「・・・そんなことないニャ。」
それ以上の話を聞くことは出来なかったがヒナが本当に1週間かかって出られないならばかなりの広さのはずだ。こんなに広い範囲の調査を一人に依頼するなんて無茶な話だが、安易に引き受けた私も私だ。まあ本当に困っているから見つけてくれたら儲けものって感じだろう。最悪コザの件は無視して旅に出れば関係ないんだし。
「まあDPはルージュの生命線だからね。ルージュに相談してからにしないと。今までで一番大きい買い物だし。」
「うーん、そうだね。別にいいんじゃない。最近はあんまり使ってないし。」
「本当に?」
「うん、いいよ。僕も次は何が出来るのか楽しみだし。」
よし、これで森の悪路も何とかなりそうだ。クロスバイクモードで土魔法を使えば、ある程度は進めると思うけど森の中だからたぶん魔力切れになりそうなんだよな。行けるところはマウンテンバイクで、無理な所は土魔法を使ってクロスバイクで走るのが一番早く調査出来そうだ。まあ走ってみないとわからないけれど。
「じゃあ、買っちゃうよ。」
「ゴー、ゴー!」
「ぽちっとな。」
15000DPと引き換えにルージュの車体が明るく光る。これでマウンテンバイクに変形できるようになったはずだ。
「ではルージュさん、お願いします。」
「りょーかーい、へーんけーい。」
ルージュが光り、マウンテンバイクの車体に変形した。懐かしい赤い車体のマウンテンだ。私が転んでつけた傷がついていないから新品みたいだが。
「おおー。」
(2回目だけどやっぱり初めての時はちょっと緊張するね。)
早速ステータスで新しいスキルを覚えていないか確認する。新しく増えた魔法はその車体の色を表すかのように「火魔法」であった。まあそれは予想の範囲内だ。モードが変わるごとに使える魔法が変わっていたから、マウンテンバイクも何らかの魔法が使えるようになるんだろうなとは思っていた。予想外なのは「分離」というスキルが増えていることだ。
「ねえ、「分離」って何?」
(ちょっと待ってね。うーんと・・・。うん、これは見てもらった方が早いや。「分離」。)
ルージュがそう言うとマウンテンバイクのルージュがいるのにすぐ隣にクロスバイクのルージュが現れた。ここはなんですか?願い事が叶うパラダイスですか?
(こんな風に同時に現れることが出来るみたいだね。・・・タイチ、おーい。)
やっぱり並んでいると格好がいいな。それぞれの特徴が一目でわかるしマウンテンバイクの頑健さとクロスバイクのスポーティさの対比がそれぞれのいいところを強調するんだよな。そうだ、今クロスバイクについている泥除けや荷台を外せばもっといい感じに・・・。
(ていっ!)
「うわっ。」
突然目の前に現れた火の玉に驚き、大きくバックステップする。前髪が焦げたようで独特の匂いが広がる。
(人の話はちゃんと聞こうね。)
「ごめん。」
まあ今のは全面的に私が悪かったのでちょっと焦げたくらいの罰は甘んじて受けよう。
(まあ、見ての通りだね。)
「ルージュの意識はどうなってるの?」
「体の一部が増えたって感じかなー。少なくとも二人に別れたりはしてないよ。」
「ふーん。あれっ、魔法は使えるのかな?」
(使えるみたいだけどLvが半分になってるね。ステータスを見てよ。)
うん、確かに土魔法がLv5のはずがLv2になっているし火魔法Lv1も残っている。これなら同時使用も可能だろう。ただそれよりも問題なのは・・・。
「耐久が半分になってるし。」
(そうだね-。2つに分かれたから半分だろうから3つに分かれたら3分の1になるだろうね。)
うわっ、これは使う場所を選ぶ能力だな。ルージュが比較的安全なときは別にいいが逆にダメージを受ける可能性があるときは使いたくない能力だ。戦術の幅は広がるが、もろ刃の剣だな。耐久値が0になった時にどうなるかが全くわかっていないし、試すわけにもいかないからな。
「とりあえずは実験だけで使用して、実戦での使用は保留かな。」
(そうだね-。)
まあこれで明日からの探索の目途は立った。とりあえず初日は外周を走って全体の広さを調査。翌日からはマップを使って魔物や動物の分布を調べつつ異常な点があればチェックしていくしかないな。今のマップだと半径600メートルくらいを確認できるから外周部分からグルグルと渦巻き状に調査してみよう。
あまり奥の方で不意の事態に遭遇したら外に逃げられないし。人が入りやすいであろう外周で異変が起こっているならなにがしかの情報が入っているだろうから怪しいのは中央辺りだ。何もないことが1番だけど。
いろいろ考えることは多くて頭がごちゃごちゃしてきたけど、明日は久しぶりにマウンテンバイクで森を走れることを楽しみにしておこう。
(それで今日はどうするの?里でも見て回る?)
「そうだなー・・・。」
本当なら里を見て回ったり、森の魔物や地形の情報を手に入れるために兵士の人に話を聞きに行ったりするのがベストだと思うが、火魔法を手に入れたらずっとしてみたいと思っていたことがあるのだ。そしてこの里はその要件を満たしている。
「ルージュには悪いんだけど火魔法が手に入ったなら、してみたいことがあるんだ。」
(なになに?何かを爆発させたりとか?)
「いやいや、そんな物騒なものじゃないよ。お風呂に入りたいだけなんだ。」
「なーんだ。」
楽しそうに話していたのに一気にテンションが下がったルージュには悪いがこれは譲れない。
「だってこの世界に来て1年以上経つのにお風呂に1回も入ってないんだよ!!」
(アンさんのところにお風呂場あったじゃん。)
「結局2人だけだったから一度も使ってないんだよ。修行のせいでそんな暇も無かったし。」
(まあ好きにすればー。)
早速、屋敷を出てここに来るまでに見た小川へ向かう。町からは外れているので周りに人の気配はない。マップでも確認済みだ。
「じゃあ、さっそく圧縮っと。」
周りからは見えにくい河原へ行き地面を水漏れなどがしないように土魔法で人が1人は入れるくらいをへこませて強化する。そして小川から水が流れるようにして少しずつ水を溜めていく。
水は多少濁っているが水位が上がるごとに私の期待も上がっていく。その間に私は石集めだ。幸いこの辺りにはこぶし大の大きさの石がゴロゴロしている。集めるのは簡単だ。
水が穴の8割まで溜まったところで水をせき止め、炎魔法で石を焼いていく。そして熱々にした石を土魔法を利用して水に投入していく。ぼこぼこと言う音と共に少しずつ水の温度が上がっていく。それを何十回と繰り返しやっと40℃ほどのお湯になった。しかしそのお湯は濁りきっている。
「最後の仕上げだ、クリーン!!」
濁っていたお湯がきれいになる。これで完成だ。MPは9割ほど無くなり、所要時間は3時間。しかし私はやりきったのだ。
「ふぅ~。ああ、いいお湯だ。」
(よかったねー。僕としてはよくやるもんだと思ったけど。)
「ルージュにとっての整備みたいなもんだよ。」
(そっか、それなら納得かな。)
これまでの疲れがお湯に染み出していくようだ。ときおり頭まで湯船につけ、夕暮れの風景を見ながら久しぶりのお風呂を心行くまで堪能した。
数時間後、ヒナの実家に五右衛門風呂とは言え、ちゃんとしたお風呂があって入れることを聞き、あの苦労は何だったんだと膝から崩れ落ちたのは些細なことだ。
いやー、やっと3種類目です。
いよいよ次回は楽しい自転車回ですね。
読んでくださってありがとうございます。




