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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第三章:猫人族の里にて
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御実家への挨拶

300ポイント達成しました。

評価もありがとうございます。

夜に記念短編を活動報告へ投稿予定です。気になる方はぜひ見て下さい。

 ケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ。

 屋敷の廊下を歩くたびに音が鳴る。確かうぐいす張りだったかな。こんな音のなる通路を歩いたことは・・・、そういえばあったな。日本にいたころに部下が外勤していて、大きな屋敷の前に車を駐車してその対面の家に訪問し戻ってきたら、車の前後に黒塗りの高級車が1センチほどの隙間しかないように駐車されていてヘルプの電話があったんだよな。速攻で課長と菓子折りを持って行ったっけ。あの時、怖いお兄さん方に前後を挟まれて歩いた廊下もこんな音がしていたな。あれは確実に寿命が縮んだよな。

 思い出してみると屋敷の雰囲気といい、なんとなく今と似ているな。


「それではこちらでしばらくお待ちください。」


 仲居さんのような恰好をした猫人族の女性に案内されたのは、廊下をだいぶ進んだ奥の一室だった。横開きの扉が開けられるとそこには老舗旅館のような和室が広がっていた。

 靴を脱がされた段階であるかもと思っていたが本当に畳だ。しかも張り替えてからそう時間がたっていないのだろう、イ草のようないい匂いが香っている。ちょっと匂いが違うのでたぶん同じような植物を使用しているのだろう。

 寝転がってゴロゴロしたい衝動に駆られるがさすがに人様の家でそれをやる度胸もないため、机の脇に置かれた座布団の上で正座する。やはり日本人としては畳の上なら正座でしょ。ヒナも横に胡坐をかいて座っている。完全にリラックスモードだ。


(おーい、ヒナ。そろそろ話してもいい?)

「まだ駄目ニャ。」

(ねえねえタイチ、そっちはどんな感じ?)

(うん、まごうことなき和室だな。)

(へー、僕も見てみたい。)

(さすがに無理かな。)


 ルージュは玄関の土間に置くように指示されたので今は離れ離れだ。まあ畳の上に置くのは駄目だろう。そしてヒナは反応があったと思ったらこの返事だ。なんかここまで我慢したんだから、話していいって言われても話さないでおこうかな。

 しばらく待っても誰も来ないので部屋を観察する。天井近くの壁にはヒナのご先祖様だろうか貫禄のある男性たちの絵が十数枚飾ってある。しかし全員が猫耳だ。シュールな光景にちょっと笑いそうになるが失礼なので我慢した。隣のヒナはいい加減待ちくたびれたのか胡坐をやめてゴロンと寝転んでいる。ちょっとうらやましい。


「お待たせしてしまい申し訳ないことをしたニャ。」


 奥の扉がスッと開けられ、40代中盤くらいの男性と20代後半くらいの女性が入ってくる。男性はヒナと同じソマリのような茶色い髪の毛をしている。この人がヒナのお父さんだろう。なんというか親分と言うような貫禄がある。一方で女性は黒髪で顔立ちがヒナと似ている。なんとなく面白そうにこちらを見ている表情がそっくりだ。お姉さんかな。

 座ったままでいるのも失礼かと思い立ち上がろうとしたが手で制された。


「お父さん、お母さん。約束通り初級迷宮はクリアしたニャ。これで婚約の件は破棄だニャ。」


 ヒナがギルドカードを取り出し机に置く。ヒナが迷宮を踏破したかった理由は婚約のせいだったのか。まあ自分の勝手なイメージだが、ヒナが普通に奥さんをしているのは想像出来ないしな。出来るとしたら魚の頭などを一刀両断している姿くらいだ。

 あれ、今お父さん、お母さんって言ったよな。お母さん・・・、まじでお母さんなのか。どう見ても20代にしか見えないぞ。顔が似てるから継母ってこともないだろうし。


「あらあら。」

「約束は守ってもらうニャ。」

「わかっておる。男に二言は無いニャ。」


 ヒナのお父さんが難しそうな顔でギルドカードを見ている。まあこれだけ大きな家だからいろいろとあるのだろう。


「それで、そこの君だが・・・」

「タイチニャ。」

「タイチ君、私のことはお義父さんと呼びたいかね、それともパパのほうがいいのかニャ?」


 あっ、やっぱりそっち系でしたか。


「はい、タイチもうしゃべっていいニャ。」

「ここでかよ!!」

「やっぱりタイチは面白いニャ。」

「あらあら。」


 ご両親は私とヒナのやり取りをおかしそうに見ていた。娘はやらん!!とか言って机をひっくり返されたりする可能性も考えていたから良かったほうだ。


「申し遅れました。ヒナと一緒に初級迷宮をクリアしました 仲 間 の冒険者のタイチです。」

「なんで仲間を強調するんだニャ?」

「そういう状況だからでしょ。」


 ヒナはすっとぼけているがこの原因は明らかにこの赤い腕輪のせいだ。


「というかこの赤い腕輪って何の意味なの?」

「それはパートナーの証ニャ。猫人族の里に普通の人族が入るにはそれが必要ニャ。」

「そのパートナーは具体的にはどの程度?」

「婚約者か結婚相手ニャ。」

「うぁー、やっぱりそうか!!」


 予想していたこととはいえ思わず頭を抱える。ここに来るまでにすごく多くの里の人たちに会っているからその人たち全員が誤解してるってことだ。ヒナは面白半分かもしれないがこっちへの影響がすごすぎるぞ。

 その時、コホンっという咳が聞こえてここにはご両親もいたことを思い出し姿勢を正す。


「面白いものをみせて・・、いや自己紹介が遅れてすまなかったニャ。私がヒナの父でこの猫人族の里の長をさせてもらっているラージュだニャ。こちらは家内のミーシャニャ。」

「ミーシャと申します。」

「これはご丁寧にありがとうございます。」

「私のことはぜひお義母さんとお呼びください。」

「・・・。」


 あー、この人絶対にヒナのお母さんだ。人をからかって遊ぶ時の顔がそっくりすぎる。そしてラージュさん。本音が出てますから。


「まあこれが私の家族ニャ。あとは兄と姉と弟がいるけど兄は王都にいるし、姉はすでに家を出ているニャ。弟はたぶん遊びに行ってると思うニャ。」

「そっか、それでヒナがこんないたずらをした理由は?」

「面白そうだったからニャ。」

「ヒナー!?」

「嘘ニャ。そうしないとタイチを連れてこれないし、ちょっと厄介そうな奴が・・・。」


 そのとき廊下をドスドスと走ってくる音が聞こえた。そして扉がバンっと乱暴に開かれた。


「ヒナ、帰ってきたんだね。やはり君は美しいね。人族の婚約者を連れてきたって話を聞いたけど間違いだよね。僕たちは将来を誓い合った仲だしね。」

「うわぁ、やっぱり来たニャ。」


 現れたのは金の刺繍がされた趣味の悪い成金のような服を着た20代くらいの太った男性だ。はぁはぁと息が荒く、身に着けているであろう香水の匂いが強すぎてむしろ臭い。猫人族って鼻がいいはずなのにこれで大丈夫なのか。


「コザ君、お客様の前だニャ。静かにしたまえニャ。」

「しかしラージュ様。私はヒナと将来を誓った仲なのですね。」

「コザが言っているだけニャ。」

「いや、確かに約束したね。13年前のことだね。私は絶対に忘れないね。」


 いや、13年前ってヒナが3歳の時じゃん。そんなときのことを未だに言い続けるってちょっとおかしいぞこの人。


「それにその人族はこの里に利益をもたらしているのかね。私は商人としてこの里の発展にかなり貢献していると自負しているね。」

「コザ君、お客様の前で静かにしなさいと夫が言ったはずですよね。」


 ミーシャさんがゆったりとした仕草で立ち上がる。そして歩き出したと思った瞬間、コザの前に現れ、掌底をコザの腹めがけてぶち当てた。コザは鞠のように跳ね飛んで部屋から強制退場していった。強いよ、ミーシャさん。


「ふぅ、悪臭の原因もいなくなったし一件落着ニャ。」

「いやいや、一件落着じゃないから。厄介ごとってコザさんのこと。3歳くらいの約束を持ち出すなんてちょっとやばそうな人ではあるけど。」

「そうニャ。お姉ちゃんがいたときはお姉ちゃんに付きまとっていたから良かったけど、お姉ちゃんが家を出たとたん私に向かってきてうざかったニャ。」

「まああれでも優秀な商人ではあるんですよ。」

「そうだニャ。この里に必要な人材であることは確かだニャ。」


 あー、性格に問題はあるけれど仕事は出来る人なのか。さらに厄介だ。


「まあ、コザ君が言うことにも一理あるニャ。タイチ君には里の手助けをして欲しいニャ。」

「いや、婚約者じゃないですからね。」

「なんとか頼むニャ。あいつの相手は嫌だニャ。」


 ヒナが縋りつくようにウルウルした目でお願いしてくる。あぁ、つくづく甘いなとは自分でも思うが、こんなに頼まれたら断れないじゃないか。


「わかりました。何をすればいいですか?」

ちゃぶ台返しは男の夢ですよね。

今の時代、それ用のちゃぶ台まであるらしいですね。恐ろしい世の中です。

読んでくださってありがとうございます。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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