家
今日か明日あたりにPV累計(アクセス数)が500超えそうです。
ありがとうございます。超えたら記念投稿しようと思います。
「では、お茶にしましょう。料理ももうすぐ出来るから。」
アンさんが紅茶をいれてくれた。柑橘系のさわやかな香りがする、すっきりとした味の紅茶だ。
「おいしい。」
「あら、うれしい。とっておきの一杯なのよ。」
アンさんも対面に座り優雅にお茶を飲んでいる。クッキーを一口かじり、また紅茶を飲む。なんとなく二人の間でゆっくりとした時間が流れている気がした。
「あらっ、そろそろ料理ができる時間ね。それじゃあ用意してくるから少し待っていてくださるかしら。」
「ありがとうございます。楽しみにしています。」
軽く会釈をしながらアンさんは調理場の方へ向かって歩いて行った。
「気に入られたみたいね。」
「そうだな。」
「そうなんですね。素敵な方に気に入られてよかったです。」
ジンさんを倒す強さ、いつの間にかそこにいる不思議さなど突っ込みどころは多いのだが、所作は洗練されており、少し話しただけだが優しさを感じた。とても素敵な女性であり、自然と尊敬してしまう人の様だ。
「はい、お待たせ。バジルとトマトの冷製パスタとサラダね。私はもうお昼は食べてしまったから三人でどうぞ。」
「「「ありがとう」ございます。」」
「それでは、今日皆と食事ができることに感謝を。」
リイナさんの言葉と共に食事を始める。完熟したトマトを1センチ角に切り、細かく切ったバジルと和えたパスタだ。隠し味にほのかに、にんにくが入っているようだ。
暑い今の時期に食べるのにちょうどいいさっぱりした風味をしている。これを帰ってきてからお茶の用意をしつつ準備するなんてアンさんすごすぎるでしょ。料理人とかがいるのかと思ったが現在この屋敷を管理しているのはアンさんだけらしいし。
しばらく歓談しながら食事を続けているとドアがバンッと開いた。
「俺の食事はないのか!?」
そこにいたのはジンさんだった。ちょっと服が土にまみれていてぼろぼろになっているが怪我などはなさそうだ。丈夫だなジンさん。
「あらあら、食堂に土まみれで来るなんて、なんて非常識なのかしら。」
「いや、だってアン婆さんが・・・」
「あらあら、お仕置きが足らなかったかしら。」
「ノー、マム。勘弁してください。」
ジンさんが速攻で土下座して謝った。でもなんで返事が軍隊式なんだろう。
「はぁー、とりあえず服を着替えてらっしゃい。」
「イエス、マム!!」
ジンさんがすぐにきびすを返し部屋を出ていく。毎度のことならこうなるのがわかっているはずなのに、なんでそんなことをするんだろうな。まぁ、ジンさんだからか。
「あの子は置いておいて。タイチさん、ここに泊まっていただくにあたりお願いしたいことがあるのですが。」
「それはそうですね。私もできる限りのことをしたいと思います。」
「そんなにたいしたことではありませんよ。さきほどお話しした通りこの屋敷には基本的に私しか居りません。この子たちは冒険者ですから何日も帰ってこないことも多いですしね。」
「そうだな。」
「今回はたまたま早かったけどね。」
2人がうなずく。
「なので、屋敷にいるときは使用人として働いていただきたいのです。私1人ではなかなか手の行き届かないこともありますので。」
「使用人の仕事なんてわかりませんが大丈夫ですか?」
「そこはもちろん私が指導します。」
「わかりました、これからよろしくお願いします。アンさん。」
手を差し出しアンさんと握手をする。
「よろしくお願いします、タイチ。それでは私のことはメイド長と呼んでください。」
「えっ、アンさん以外にメイドの方はいらっしゃらないのでは?」
「メイド長です。」
「了解しました。メイド長。」
速攻で言い直す。メイド長と呼ばれた時のアンさんは嬉しそうな顔をしていたので、なにかしら意味があるのかもしれない。
「坊主、なんでアンさんと握手してるんだ?」
戻ってきたジンさんが不思議そうに聞いてくる。服を着替えてこざっぱりとしている。
「ここに泊めていただくお礼に使用人をすることになりました。」
「おぉ、そうなのか。それじゃあこれからよろしくな。あっ、それならアンさん、坊主を訓練してくれません?アンさんと同じアイテムボックスもちなんだよ。」
「あらっ、珍しい。アイテムボックスもちの人と会うなんて久しぶりね。」
「だろ。だからアンさんが適役なんだよ。坊主も将来、冒険者として生きていくかもしれねえし。」
「そうね。それじゃあ久しぶりに体を動かしましょうか。」
いつの間にかアンさんに訓練をしてもらえるようになってしまった。確かに旅をしたいからそれなりの訓練や勉強をしなければいけないと思っていたので渡りに船だ。
「重ね重ねよろしくお願いします、メイド長。」
「メイド長って、アンさん1人しかい・・・」
また不用意な発言をしかけたジンさんをニールさんが口を押えて止める。あっ、ニールさん鼻もおさえているからだんだんジンさんの顔が赤くなってきている。ジンさんが必死にタップしてやっと外してもらえたようだ。
「それではよろしくお願いしますね、タイチ。」
「はい、みなさんもこれからよろしくお願いします。」
3人に向かって頭を下げる。3人とも笑顔で迎え入れてくれた。
「幸運」のスキルはないけれども、この3人とメイド長に会えた私はとても幸運だ。
「ではタイチ。使用人としての最初の仕事は自分の寝る部屋の掃除です。」
アンさんに連れられ2階の一室に通される。汚れてもいないし普通にそのまま暮らせそうだ。
「あの、メイド長。掃除と言われても汚れていないように見えるのですが。」
「私がいつも、ある程度掃除していますので汚いわけがありません。」
「それでは、どこを掃除すればいいのですか?」
「タイチはアイテムボックスを持っているのですよね。ベッドやクローゼットをアイテムボックスに収納して、いつもは掃除ができない裏側を掃除してみたらどうでしょう。」
「なるほど、見えないところまできれいに、ですね。」
「後はタイチの判断に任せます。これから自分が住む部屋になるのですから。」
アンさんはそう言い残すと部屋から去って行った。
とりあえず自分の部屋になったのだから気持ちよく過ごせるように掃除しよう。ベット、クローゼット、机と椅子だけのシンプルな部屋だ。すべてのものをアイテムボックスへ収納し木製の窓を開け放つ。
部屋の上の方から固く絞った布で雑巾がけをし、最後に床を拭いていく。アンさんが言っていたようにあまり汚れてはいなかったが多少のホコリをとり、ひと段落したのは1時間経ったころだった。
アイテムボックスからベッドなどを取り出し、とりあえず掃除が完了した。
「メイド長、掃除が終わりました。」
「わかりました。それではついてきてください。」
完了の報告をした後、アンさんに連れてこられたのは物置部屋であった。
「この部屋を整理したいと思いますのでアイテムボックスに荷物を収納してください。」
「了解しました。すべて入れればいいですか?」
「はい、お願いします。」
アンさんに見守られながら荷物を収納していく。冒険者の家らしく剣や槍、盾などがたくさんある。
それをどんどんアイテムボックスに収納していったが、急にめまいがして立っていられなくなってしまった。
「すみません、メイド長。ちょっと気分が悪くなってしまいました。」
「そうですか。ホコリのせいでしょうか。では今日は部屋で休んでもらっていいですよ。」
「すみません。ありがとうございます。」
この程度で調子の悪くなってしまった自分を不甲斐なく思いながら部屋で寝ることにした。
「おーい、坊主。夕食の時間だぞ。」
ドアをドンドンっと叩きつつ起こしてくる。この声はジンさんだ。
しまった、何時間寝ていたんだ。
「すみません、すぐ行きます。」
「おぅ、先行ってるぞ。」
急いで身支度を整え食堂に向かうと机にはすでに5人分の食事が用意されていた。
「メイド長すみません。寝てしまっていました。」
「いいのですよ。体調が悪い時に休むのも仕事です。」
アンさんはちょうど水を配り終わったところで、前と同じ私の正面の席に座る。席に着くよう促されたので私も席に着く。
「それでは、今日皆と食事ができることに感謝を。そして新しい出会いに感謝を。」
リイナさんの言葉と共に食事が始まる。流れで席に座ってしまったが使用人なのにいいのか?
「すみません、使用人なのに一緒に食事してもいいのでしょうか?」
4人が面白そうに私を見つめる。
「使用人と言っても正式なものではないですし。」
「そうだな。」
「一緒に食った方がうめぇじゃねえか。」
「そんなことを言ったら私も食べられなくなりますよ。ここではそれでいいのです。」
「それに坊主の歓迎の意味もこめているのに、その主役をはずすっておかしいだろ。」
ありがたさに思わず涙が出た。家族も知り合いもいない異世界で、私の家ができた瞬間だった。
読んでくださりありがとうございます。
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