プロローグ
初投稿作品です。
ゆるゆると書いていければと思っています。
ギュ、ギュ、ギュ、ギュ
暗い山道の中、ただその音だけが響いていく。
私こと永山太一は坂道でダンシング中だ。もちろん踊りという意味ではなくいわゆる自転車の立ちこぎをしているのだ。しかし暗い山の中で踊り狂っている自分か~、うん・・とてつもなく怖いな。
私の仕事は債権回収代行だ。悪い言い方をすると借金取り、柔らかい言い方ならばお金を払わずに受けたサービスの対価をもらえるように説得する仕事だ。あまり柔らかくもないか。
新入社員として22歳で就職した当時は相手の怒鳴り声や泣き声、嘘などに精神的に参ってしまいそうであったが、なんとか10年間無事に過ごすことができ、4月から主任になった。
今日は部下とともに進めていた大型の案件に目途がつき、久しぶりに定時で仕事が終わった。
家族でもいればいつも早く帰れないお詫びの一つも買って帰るところだがあいにくと同居人が一人いるだけの私にとっては関係ない。夜行性の同居人が起きてくる時間まで4時間以上余裕があるはずだからご飯の準備も大丈夫なはずだ。
ということで私は通勤用に魔改造したクロスバイクにまたがりちょっと30kmほど遠回りをして、この地域で一番の激坂にアタックした。
この坂の頂上にはあまり知られていないが寝そべることのできるベンチが2つ設置されており、休憩したり星を見るのに絶好の場所となっている。
1時間ほどかけて坂を制覇し、満足感に浸りながら帰ろうとしていると今までは気がつかなかったさらなる坂ポイントを発見。時間的にまだ1時間はいけるはずとわき道を進むことに決めた。
そして45分ほど経過したのが現在の状況だ。わき道は傾斜15度以上がつづくひたすら登るだけの道だった。少しでも平坦な道があれば足を休ませられるのにと思いつつ、ここまできて足をついたり、引き返したら負けた気がするのでダンシングをして足にたまった乳酸を無理やり流してやる。
きつい、足がつりそう、というか達成しても特に何もないし、もしかしたら同居人がお腹をすかせているかもなどあきらめる理由が頭の中をぐるぐると回る。
ドクン、ドクンと心臓の音が早鐘のように聞こえる。
でも今日はなぜか調子がいいらしい。いつもならもう無理なはずだ。大仕事が終わったのでテンションが高いからだろうか。まるで10代のころのように体が軽く感じる。
まわりをふよふよと光が舞っている。蛍だろうか。とても幻想的な雰囲気に今度同居人を無理やりにでも連れてこようと決意する。
しばらくして頂上が見える。あと100メートルほどだ。最後の気力を振り絞り足を回す。
あと、10メートル・・あと5メートル、4メートル、3メートル、2メートル、1メートル・・
ゴール!!片手を上げ制覇を喜ぼうとしたがそれは不意の一言によって止められた。
「おかえりなさいませ。」
読んでいただいてありがとうございます。
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