07 それともわざと はぐらかしたの
家から約束の公園まで、5分もかからない。
公園の前のコンビニまで来て、急激に喉が渇いた。喉が渇いたんだから仕方がない、と自分に言い聞かせてコンビニに寄る。
飲み物コーナーには向かわずに、中からそっと通りを覗いた。
ここの運動公園は広い。遊具は何もないけど、一面の芝に季節の花を植えた花壇と大きな噴水があって、休日は家族連れで賑わっている。
流石にここからは見つけられないか。それともまだハル君は着いていない?
そろそろ向かおうかどうしようか迷っていると、スマホが震えているのに気がついた。ハル君から電話がかかってきた!
スマホと同じくらい震えた手でボタンを押す。今更震えるなんて、私はどうもワンテンポ反応が遅いらしい。
『ひよりさぁぁん。まだ?』
『ハル君。ごめん、待たせてる?』
『待つのは余裕と思ってたけど、ちょー暑い。実はさっき電話した時には公園に居たんだよね』
『え、そうなの? ごめんなさい。喉乾いちゃったからコンビニに入ったところ。すぐ行くね』
『はーい』
もうとっくに着いてた!
慌てて飲み物コーナーに向かう。いつものお茶を手に取りかけて、やめた。
代わりに手に取ったのは、滅多に飲まないサイダー。普段はあまり炭酸は飲まないけど……爽快感で、今だけ口が軽くならないかな、と期待する。
しゅわっと泡の弾けるサイダーみたいに、言葉が自然と出てしまえばいいのに。
待たせてしまったお詫びに、ハル君の分も1本買った。
コンビニを出て、さっそく一口飲む。
うん、スッキリする。久しぶりに飲んだけど、やっぱり美味しい。
さあ、私の口が、ちゃんと動きますように。
公園に入って、ハル君を探す。
どこにいるのか、聞いておけば良かった。噴水の所にはいない、ベンチにも座っていない、花壇の所には……いた。声をかけようとして、ためらってしまう。私、今から告白するんだ。
ハル君は、花壇に咲く向日葵を眺めていた。 向日葵、好きなのかな。そんなに熱心に見るほど好き? なんだか、ハル君と向日葵が見つめあっているみたいだ。
(こっち向け 向日葵よりも 見てるのに)
無意識に詠んだ一句が、ハル君に見つめられる向日葵にまで嫉妬している事に呆れた。
今の私を枯れているとは、もう誰も言えないだろう。息を大きく吸って、ハル君に声をかける。
「ハル君! 待たせてごめんなさい」
「へーき。でも、暑すぎて。どこ行こっか」
「あの、さっき電話した時、」
「コンビニにいた時?」
「あ、ううん。違くて。その前」
「あー、うん。そういえばひよりさんから電話かかってきたんだっけ。俺も電話しようかなぁと思ってたんだけど」
「うん、その時、言いたいことがあって。あの、私……」
声、上擦ってないかな。やっぱり恥ずかしくて、俯いてしまう。さっき無理にでも電話で言えば良かったかも。
「えーっと、いきなりで申し訳ないのですが。私、ハル君のこと」
「ちょーーーっと待って! 悪い、喉乾いたから飲み物買ってくる! すぐ戻るから待ってて!」
唐突なハル君の言葉に、びっくりして顔を上げた。え、このタイミングですか。
私、珍しく照れたような雰囲気だったと思うのに。告白する直前って分からなかった? それとも……告白されたくないから遮った、とかだったりして。
思わず、ハル君をまじまじと見る。
ハル君は顔を真っ赤にして、すぐ戻るから! と言いながらくるりと後ろを向いて、早足で歩いていく。
「えぇー」
もう、えぇーとしか言えない。
後ろ姿を見つめながら思う。ハル君、そっちには自販機もコンビニもないよ、と。
遠ざかる後ろ姿に、告白はやめておこうかと考える。たまたまだったのか、わざとだったのか分からないけど、させてもらえなかったし。
ちぇ、とやさぐれた気分で鞄の中のサイダーを出して飲んだ。そういえば、さっきハル君用にもう1本買ったんだった。
ハル君用のサイダーを見ていたら、告白を遮られた悔しさが急にあふれてきて、爆発しそうになった。
よし、仕返ししよう。
「この、このっ」
用意するのはサイダー1本。所用時間はわずか10秒。作り方は、悔しさをバネにして力いっぱいサイダーを振るだけ。
はい、ひみつのサイダーのできあがり。
さあ、後は走って追いかけるだけ。