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06 恋の先達 助けを求む

 

「ええぇぇぇ! 何、ぴよちゃん恋してるの!? まじで!?」

「うん。なんでそんなに驚いてるの? 前にハル君のこと好きなんじゃないのって言ってきたのに」

「あの後よく考えたんだけどさ、ぴよちゃんが梅干しあげたのって、田舎のおばあちゃんが色々お土産くれるのと変わらないんだなって思って。まさか、枯れてるぴよちゃんが本当に好きになるとは……」

「いろいろ失礼だね」

「だってー! 衝撃的だよー! で? いつ告白する?」


  日曜日、エミちゃんが遊びに来たので、私の部屋で相談に乗ってもらうことにした。初恋だし、どうすれば両思いになれるか分からなかったから。エミちゃんなら詳しいかと思ったけど、少し不安になってきた。


「よく分からないけど、告白は早いんじゃないの? もっと仲良くなってからとか……」

「そんな悠長なこと言ってらんないよ! 笹木君モテるよ、絶対! あと少しで夏休み入っちゃうから、毎日会えないよ!」

「なるほど」

「1回振られても、そこから意識してもらえるかもしれないし! 上手くいったら、夏休みはデートたくさんできるし! 速攻でいったほうがイイ」

「なるほど」

「頑張れ、ぴよちゃん! 夏休みに入る前が勝負だ! 惚れさせろ!」

「なるほど」

「なんか不安だなぁ。ちゃんと分かってる?」

「うん、今日告白してみる」

「はやっ! ぴよちゃん、はやっ!」

「急げって言わなかった?」


  テーブルの上に身を乗り出していたエミちゃんが、体を戻して、なんとも言えない顔をした。


「うーん。だいたい片思いの子って、めちゃくちゃ背中を押してやっと告白するから。こんなにあっさりするって言われると……」

「ダメなの?」

「ダメじゃないけど……え、緊張とかしないの?」

「特には」

「えー。ぴよちゃんそれ恋してるの? ハートが強すぎるでしょ」

「会って言った方がいい?」

「エミは恥ずかしいから直接じゃなくて電話でしちゃうけど。どっちでもいいんじゃない?」

「そっか。じゃあ電話にしよ」

「あっさり決めるなぁ……じゃあぴよちゃん、エミは帰るから」

「え、なんで? 来たばっかりなのに」

「告白するんでしょ! 精神統一とか必要でしょ! 邪魔できないもん。結果でたら教えてねっ」


  告白に精神統一? なんだかよく分からないな、と考えているうちにエミちゃんは出て行ってしまった。


「……よし。電話」


  一応、精神統一らしきものをしてからスマホを手に取った。

  ハル君の連絡先を出して、通話ボタンを押す所でふと思う。告白ってどうすればいいの?


「…………ハル君が好きです。付き合ってください?」


  付き合うってなんだろう。私、ハル君の事が好きだけど、果たしてお付き合いしたいのだろうか。


「いや、普通は好きなら告白だよね。告白したら付き合うよね。付き合ったら……付き合ったら?」


  付き合ったらどうなるの?

  慌ててエミちゃんに電話をかける。


『もしもし』

『はーい! もう告白終わったの!? 結果は!?』

『ごめん、まだしてない。ちょっと聞きたいんだけど、エミちゃんって康太君と付き合ってて楽しい?』

『えー? いきなり何? 楽しくなかったら付き合わないよ!』

『なんか、なんの為に付き合うんだろうって考えはじめちゃって。そっか、楽しいのか』

『何わけわかんないこと考えてるの!? 好きな人の彼女ってだけで幸せじゃん! 彼女だったら堂々とくっついたりできるし。とにかく頑張りなよ! エミもう切るからね』


「待って……あ、切れた」


  そっか。好きな人の彼女になるだけで幸せか。堂々とくっつけるのか。


「私は今から、ハル君の彼女になりたいです、堂々とくっつきたいですって言うのか……」


  あれ、おかしいな。

  さっきまで、さらっと好きですって伝えるだけだと思っていたのに。上手く出来ない気がしてきた。ハル君に電話する前に、ちょっと休憩する事にした。


  エアコンが効きすぎていたので窓を開けると、蝉の声がうるさいくらいに聞こえる。


  夏の間ずっと蝉の声がするけど、これだけうるさい音は何匹で出しているんだろう。蝉の声は求愛行動だそうだけど、こんなにうるさくて相手に嫌がられたりしないのかな。私が蝉だったら、静かな蝉のところに行くけどな、なんて馬鹿みたいな事を考えて、私は緊張しているのだと悟った。


  特には緊張しないなんて、とんだ嘘っぱちだ。


「蝉の声 私も負けじと ラブコール」


  いつものように一句詠んで、ラブコールってなんか間抜けだなと笑った。



『もしもし』

『はーい、ハルです。ひよりさんが電話とか珍しい』

『うん、あの……』

『あの? もしかして今みんな集まってる? 遊びの誘い?』

『いや、違うけど』

『じゃあ暇してる? 俺も暇だから遊ぼうよ。運動公園で集合ねー』

『あ、うん』


「切れた……」


  これは直接言わないといけないのか。

  慌ててエミちゃんに電話をかける。


『待ってましたー! どうだった!?』

『いや、ごめん。まだ告白してないけど。今から会う事になったんだけど、どんな服を着たらいいかな』

『わぁあーーー! ぴよちゃんが服に悩むとか! 恋は人を変えるね! もう枯れてないよ、ぴよちゃん!』

『うん、ありがとう。服を聞きたいのですが』

『ぴよちゃんの服、いつも可愛いじゃん! どれでもいいと思うよ! じゃあ、頑張れ! エミもう切るからね』


「待ってよ……エミちゃん電話切るの早いよ」


  思わず項垂れた。どれでもいいって、ご飯作る時にもいちばん嫌なやつだ。どれでもいいじゃ困るんだよー! と叫び出したい気持ちを抑えて、白のてろんとした生地のブラウスにデニムスカートを履いた。

  玄関に向かう途中で思う。デニムスカート、歩きづらい。これじゃ走って逃げられない。

  なんでハル君に会いに行くのに、走って逃げられる服にしなきゃいけないんだろうとツッコミを入れながら、水色のスカーチョに履き替えた。靴もスニーカーにしておこう。


  万が一の逃走準備を万端にして、私は家を出た。



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