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役者達の課題2 「グーろっぱ!」



 翌日。

 演目の練習は昼からだけど、オレ達五人は相模の言う『イイモン』を使って自主練するため、午前中の内に三河の部屋に集まった。


「で? 相模はなにを持ってきたの?」


「んふふ、慌てなさんな慌てなさんな」


「焦らさないでよ~、早く早く~!」


 ちびっ子コンビにせっつかれ、相模は鞄の中からファイルを取り出した。


「じゃ~んっ! 俺が役作りに煮詰まった時に使うのがコレだ。刮目せよっ!」


 大仰な台詞(セリフ)と仕草でテーブルの上に置かれた紙を、一斉にのぞき込む……や否や三河と陸奥が声をあげる。


「……え、コレ履歴書だよね~?」


「なにコレ、バイトして人生経験積んでこいとか言うんじゃないよね?」


「んふふー」


「んふふじゃなくてっ」


 騒ぐ二人をよそに、人数分コピーされた内の一枚を手に眺めていた伊達が、ぼそりと呟く。


「……普通の履歴書と違うな」


「ん?」


 その指摘に、それぞれ紙を取りよく読んでみる。

 未記入の履歴書と思しきソレは、確かに一見履歴書のようだけど、一般的なそれとはあちこち異なっていた。


 名前、性別、年齢、ここまではいい。次にあったのは『精神年齢』、その下には『血液型』『星座』なんて欄もある。

 そして普通なら学歴・職歴を書く欄のタイトルは『今までにあった大きな出来事』。資格を書く欄の代わりに『主な人物との関係』欄なんてのもある。志望動機の欄はそのままに、『役と自分の類似点・相違点』なんて欄まで。

 ……なるほど。


「『役作りのために履歴書を書いてみるといい』って本で読んだことあったけど、これはその役作り用の履歴書なんだな」


 そう言うと「その通り!」と指を鳴らす相模。


「コレな、去年のアクションスクールのワークショップに、講師で来てた俳優さんから貰ったモンなんだ。役作りが上手くいかないって相談したら、わざわざ持ってきてくれてさ。

 キャラクターの作り込みのために履歴書を作るってのは、役者だけじゃなく漫画家や小説家のセンセもよくやる方法なんだってよ」


「へぇ~。それにしても相模、そんな親身にアドバイスしてくれる俳優さんに会えたなんて、運がいいね」


 確かに。陸奥の言葉に頷くと、相模はおうよと頷く。


「俺くじ運はねぇけど、昔っから人には恵まれてんだよなぁ。上下関係に厳しい剣道やってた時でも、理不尽なこと言ったりイビってくるような先輩とか会ったことねぇし」


 朗らかに言う相模を見やって、思わず苦笑いしてしまう。


「そりゃそんなガタイしたお前をイビろうなんて猛者、そうそういねーだろうよ……」


「俺にだってちっさくて可愛い時期くらいあったってぇの!」


 そう喚き、どっかり胡座をかいたイカつい大男は、アゴに節くれだった拳を当ててぶりっ子ポーズをキメて見せる。

 だめだ、可愛い頃のイメージどころか殺意しか湧かない。

 オレの額に青筋が浮きそうになると、まぁまぁと陸奥が言う。


「確かに恵まれてるのかもね。

 どんなにおバカでも見捨てない伊達センセに出会えたり、寒~いシリアス小芝居に付き合ってくれるジャンに出会えたり、ソレにいちいちツッコんでくれる三河と僕にも出会えたりとかねー」


 氷のような微笑でグサリととどめを刺す陸奥。その横で、そうとは気付かぬ三河はのほほんと小首を傾げる。


「そっかぁ、じゃあぼく相模君に感謝しないと~。皆と仲良くなれたの、相模君の運のおかげかもしれないもんねっ」


「お、おう、感謝したまへ……」


 その無邪気さに相模が持ち直し、場が和んだところで。

 さて本題。

 役者陣の四人は、用紙に役の名前、性別から書き込んでいく。けれど次の欄で早速伊達のシャーペンが止まった。


「……年齢……天狗の年齢……?」


「あ、そっか。妖怪だもんね、そもそも何年生きてるかすら分かったもんじゃないよね。それに血液型とか星座も……」


 陸奥もその隣で眉を寄せる。そんな二人に相模は台本をパラパラめくって見せ、


「無理に全部埋めなくてもいっけど、そんなこと言ったら他の役だって血液型なんて分かんねぇだろ? どこにも書いてねぇんだから」


「え、でもそれだと空欄だらけになっちゃわない?」


「なにも台本から拾える情報だけで埋めようとしなくたっていいんだ、誰に見せるワケでもねぇ自分用のなんだから。

 例えば、『この役細かいことにこだわるよなぁ、多分A型だな』とか、『熱血タイプだな、獅子座かな』ってなモンでさ」


 そうやって、自分の役について想像を巡らせてみるのも役作りの内。これをくれた俳優さんがそう言っていたと教えてくれた。


「面白いね~。それなら、きさん太は真面目でお姉さん思いだから~……A型かなぁ?」


「右近はー……なんていうか、お役目そっちのけだったり、ケンカっ早かったり……大人ってカンジはしないなぁ。少なくとも精神年齢は一〇代だよね」


「おっ、いいねぇ。その調子その調子!」


 そんな風にして、それぞれの履歴書が少しずつ埋まっていく。

 書けることのない……役についていないオレは、少し寂しいけど。それでも人数分、オレの分まで用意してきてくれた相模の気持ちが嬉しかった。

 来年は、五人一緒にこの用紙を使えるといいな。そんな風に思いながら、白紙のままの面をそっと撫でた。


 各々一通り書き込んだところで、三河がんーっと首を捻る。


「こんなトコロかなぁ……でも、なーんかまだ足りない気がするんだよね~」


「どれどれ? ……うーん、大分埋まってっけど、出来事とか関係欄がちょっと寂しいかな?」


 三河きさん太の履歴書をのぞいて、相模はふむと腕を組む。次に陸奥右近のを見、


「関係欄、『左近→多分兄。口うるさいな、ウザイなと思ってる』……あー、そうかもな。『義経→割とどうでもいい』……って、ちょ、コレざっくり過ぎんだろ!

 伊達はどうだ? 『右近→弟』、『義経→友人』……ってなんだこりゃ、ざっくりどころか単語じゃねぇかっ!」


「面目ない……」


 どうやら一番苦戦しているのは伊達のようだ。日頃無口で、自分が思うことを言葉にするのが苦手な伊達だから、(キャラ)とはいえ他人のことを文字に表すことは余計に難しいのかもしれない。

 相模は「参ったぜ」と額を押さえる。


「おいおい伊達クンよ、ムッツリ疑惑の伊達クンよ。ムッツリならムッツリらしく、こう、色々と妄想力を働かせてだなぁ」


「誰がムッツリだ……」


「なんかあんだろぉ? 弟にしたって、仲がいいとか悪ぃとか、可愛いとか可愛くねぇとか」


 言われて伊達は陸奥を見る。


「…………」


 無表情のまま凝視され、陸奥は頬をひきつらせて身体を引き、


「な、なに?」


「………………か」


「『可愛い』とか言ってみな、今度こそご自慢の息子を再起不能にしてやるよ」


 冷ややかに凄まれ、伊達は相模に向き直る。


「……かなう気がしない」


「なんの感想だよっ!」


 思わず相模と異口同音にツッコむ。

 ……まぁ、激しく同意するけども。

 とうとう相模は頭を抱えた。

 

「伊達クンよ、陸奥を見んじゃねぇよ。右近! あくまで考えんのはウ・コ・ン! お分かり?」


「……難しいな」


「かーっ、今はこれ以上書き込むのは無理かね。どうしたモンだろな?」


 ぼやいて、相模はヘルプを求めるようにオレを見た。

 確かに今のまま履歴書とにらめっこしてても進まないかもしれない。

 現状不足しているのは、今の役の人格を作るに至った出来事や、他の役との関係を妄想……いや想像する力だ。他の役とどんな関係を、どうやって築いてきたのかが想像できれば、自然と出来事の欄も埋まってくるはずだ。

 あとはこの履歴書に書くことじゃないけど、台詞のない間も役のまま居続け、役のまま行動できるようになること。

 そうなると……

 おもむろに鞄から単語帳を取り出して、白紙のページを十枚ほど切り取る。なにが始まるのかと不思議そうに手許をのぞく四人に、


「カフェで二人掛けの席に座ってる二人って、どんな関係だと思う?」


 唐突に尋ねてみると、まずは相模が言う。


「カフェ? そりゃあカップルじゃねぇの?」


「ハイハイ、リア充な意見アリガトウ」


 ちょいと嫌みを返しつつ、紙の一枚に『彼氏・彼女』と書き込む。「他には?」と促すと、陸奥は伊達を横目でチラリと見、


「この前みたいに、元カレと元カノってパターンもあるかもよ?」


「ハイハイ、これ以上伊達をイジめない。伊達はなにか思いついたか?」


「……男女の二人組でも、友人同士とか……」


「お兄さんと妹とか、お姉さんと弟って場合もあるかもね~」


 出た意見を元に、それぞれ別の紙に『元カレ・元カノ』『友達(男・女)』『兄・妹』という具合に書き込んでいく。

 男女のペアに拘らず、カフェに居そうな組み合わせのペアを挙げてもらい、全ての紙を埋めると、四つ折りにして文字が見えないようにした。三河に頼んで小さな袋を二つ用意してもらい、一方にそれを入れて混ぜる。


「なんかクジみたいだね~」


「三河大当たりっ。そう、コレはクジなんだ。で、もう一つ別のクジも作る。今度はパッと思いつく性格挙げてってー」


「?」


 四人は顔を見合わせながらも、『マイペース』や『怒りっぽい』『せっかち』、果ては『オネェ』などなど、色々と挙げてくれた。

 それをまた破りとった紙に一つ一つ記入して畳み、袋に入れる。


「よし、これで準備完了っ。それじゃ、二人組に分かれるぞー」


「よく分かんないけど~……じゃあグーとパーね~」


 三河はそう言って手を握ったり開いたりして見せる。ジャンケンの要領でグーかパーを出し、チーム分けをしようということだ。子供の頃によくやったアレだ。


「っせーの!」


 相模のかけ声で、四人は拳を作り一斉に口を開く。


「グッとパーで分っかれましょっ」


「グッパーじゃんっ」


「グッとパーで揃いっ」


「グーろっぱっ」


「……!?」


 見事にバラバラなかけ声と共に手の内が出揃う。同時にきょとんと顔を見合わせた。


「……ん?」


「え?」


「なんだって?」


「なに今の」


 ……ジャンケン同様、グーとパーで分かれるコレも、地域ごとでかけ声が異なるようだ。

 オレも負けないくらいきょとんとしつつも、出された手を確認する。相模と三河がグー、陸奥と伊達がパーだった。


「えーっと……かけ声はともかく、二人ずつに分かれたみたいだな」


「ともかくって、すっごい気になるトコなんだけど……」


「……で、なにすんだって?」


 ようやくぽかん顔から復活した相模の問いに、にんまり笑う。


「エチュードやろう」





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