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青少年は悩みの塊11 「捨てちゃった」



 携帯のアラームの音で目が覚めた。頭が重い。なんだか凄く疲れる夢を見た気がする。

 もそもそと起き上がり、どんな夢だったか思い出そうとした。

 ……あぁ、違う。疲れるのは夢じゃない、現実の方だ。


 結局、昨日はあの後天野にも相模にも話を聞けず終いだった。

 ななちゃんのお陰でブタカンの仕事に前向きにはなれたけど、どうしてオレが選ばれたのかはまだ不明のままだ。

 歩き出したい方向は定まってるのに、足元の地面がふわふわしているような、そんな不安があった。


 それに相模。

 なんでアイツあんなに気にしてんだ?

 陸奥の言葉じゃないけど、落ち込みたいのはこっちの方だ。ブタカンの仕事は忙しいわ、相模の挙動不審さが気になるわで、ロクにヘコむ暇もない。

 ……まぁ、ある意味ありがたいっちゃありがたいけどさ。


 着替えを済ませ居間に下りていく。

 母さんはすでに出かけようとしているところで、妹は制服姿でパンをかじっていた。


「おはよー」


「あらおはよう。ねぇ、ちょっと頼みがあるんだけど」


「なに?」


 母さんは慌ただしくカバンの中身をチェックしながら言う。


「今週末さ、あんた出掛けないで家にいてよ」


「なんで?」


「メイと旅行に行ってくるから」


「へ?」


 寝起きの頭がついていかない。呆けた顔をするオレの目の前に、妹のメイがカラフルな旅行のパンフレットをチラつかせる。


「これこれぇ、沖縄ー! 金曜の夕方に出発して、日曜の夜には帰るからー。あ、お土産なんて期待しないでよね」


「え、あ……ん? なんでまた急に?」


 母さんは時計を気にしながらバタバタと玄関へ走る。その背中に尋ねると、肩越しに言葉を投げて寄越す。


「メイ、最近受験勉強頑張ってるでしょ? それに、高校生になったら忙しくなって、なかなか母子で旅行なんて行けなくなるだろうし」


「オレは?」


「お留守番。じゃ、頼むわね! いってきます!」


「ふへ……いってらっしゃい」


 ……女二人、男一人の家族なんてこんなもんだ。オレは家族内カーストで最下層にいる。父さんがいた頃から我が家の女性陣は強かったけど、いなくなってますます肩身が狭くなった。

 やれやれとため息をついてリビングに戻ると、朝食を食べ終えたメイが立ち上がる。


「そういうワケだから、兄ちゃん留守番ヨロシクね。くれぐれもどっかほっつき歩いたりしないでよ?」


「分かってるよ」


「家に友達呼んだりもしないでよね? 兄ちゃんの友達、どーせ男ばっかでしょ? むさ苦しいったら……」


「皆結構イケメンなのに」


 ささやかな反撃を試みると、


「モブキャラ顔の兄ちゃんに、そんな友達いるワケないじゃん」


 呆気なく否定された。

 ……妹よ。兄ちゃん悲しいぞ。

 オレは学校でも家でもはみ出し者なのか。

 ちょっとがっかりしながら、トースターにパンをセットした。



       ◇  ◇  ◇



 モヤモヤした気分を晴らすように、自転車をかっ飛ばして校門をくぐる。

 朝から暑くて、シャツが汗で肌に貼りつく。その不快感に眉をひそめながら駐輪場へ行くと、相模と鉢合わせた。


「よ、よぉ」


「あ……はよー」


 気まずそうに視線を逸らされると、こっちまで気まずくなってしまう。

 いやいや、これはチャンスだ。ここで話ができれば伊達の手を煩わせることもない。

 決心して相模の顔を仰いだ。


「あのさ、相模。お前……」


「あっ、えっと……俺、なんか用事思い出した」


 オレの言葉を遮って、相模はそそくさと昇降口へ向かう。その態度に段々腹が立ってくる。


「フザケんなよお前っ。『なんか用事』ってなんだ、思い出したなら『なんか』じゃねーだろっ!」


 その広い背中に呼びかけながら、走って後を追いかける。それに気付いた相模も小走りになる。


「うるせぇ、お前が前に言った言葉だろうがっ」


「覚えてないっ!」


「言っただろ、前に三河の部屋で勉強してた時に! そう言って急に帰ったろ!」


「そういえば……って、そうじゃない! なんなんだお前、ここンところの態度は。おかしいぞ!」


 相模を追って昇降口に入ると、下駄箱のところに陸奥と伊達がいた。オレ達の顔を見比べて、伊達は経緯を察したようだった。


「……相模」


「な、なんだよ」


 いつもと変わらない無表情ながら、真剣な声のトーンで呼ばれ、相模は少したじろぐ。


「……まだホームルームまで時間がある。少し顔を貸………ん?」


 言いかけた伊達の足元に、ひらりとなにかが落ちた。床に落ちたそれを見ると、白い封筒だった。

 伊達の隣で下駄箱を開けた陸奥のところから落ちたようだ。


「なにコレ?」


 陸奥がひょいっとそれを拾い上げる。気になって、それまでのやりとりを一旦脇に置き、三人でそれをのぞき込む。

 宛名書きは『陸奥くんへ』。

 丸みの強い可愛らしい文字。明らかに女子の手によるものだった。


「うおっ、マジ? イマドキ下駄箱にラブレターなんてベタなことする子いんのかよ!」


 真っ先に食いついたのは相模だ。初めて遭遇するマンガのようなシチュエーションに、オレも思わず声をあげる。


「すっげー! ってか、宛名『陸奥』だし」


 受け取った本人はいたって冷静で、


「同じクラスの子じゃないのかもね。それに、中身読まなきゃラブレターかどうか分かんないでしょ」


「いんや。これでラブレターじゃなきゃ俺、パンイチで職員室突撃してやんよ」


「オレはキャラメルなんとかフラペチーノ奢ってやんよ」


「はいはい」


 陸奥はオレ達を軽くあしらいながら封を切る。中からは封筒と揃いの小花柄を散らした、可愛らしい便箋が出てきた。広げると、ほのかに花の香りがする。


「……いい趣味だな」


 伊達はぼそりと呟いて顔を背けた。そりゃそうだよな、人のラブレター見ちゃいけないよな、イケナイイケナイ……

 こみ上げる好奇心を抑え、なんとか視線を逸らすと、なにを思ったか陸奥はおもむろに小声で読み始める。


「『陸奥くんへ。突然のお手紙ごめんなさい。あなたの歌う姿を見て、一目惚れしちゃいました』……あ、確かにラブレターだね。奢られ損なっちゃった」


 確認は終えたとばかりに、陸奥は封筒に手紙を戻した。


「ええぇ! ラブレターだねってお前、ラブレターだぞっ?」


「すげーなぁ、オレなんか一回も貰ったことないや」


 思わずボヤくと、陸奥はにんまりと意地の悪い笑みを浮かべて、封筒でぺちぺちとオレの頬をはたく。


「へぇ、ジャンもらったことないんだぁ。羨ましい?」


 毒そのものの台詞を吐いて、にっこりと可愛らしく小首を傾げる。

 ぐぬぬ、この美少年サマめご無体なっ。

 バレンタインにチョコならもらったことあるわーいっ! ……三倍返しを要求されたけど。


「ねぇねぇ、羨ましーい?」


 陸奥は相模にも同じようにぺちぺちする。


「べっ、別に羨ましくなんてないんだからねっ」


「相模よ、お前の返しもなかなかベタだぞ」


「うるせぇ、このチェリーボーイめ」


「ナンパ野郎よりマシですぅ~」


「ムケてもねぇヤツに言われたくないですぅ~」


「とりあえずムケてますぅ~、名誉毀損ですぅ~」


 いつものノリでやりとりしてから、相模はハッとしたようにそっぽ向いた。なかなか手強いな……でも、くそぅ。相模とのアホなやりとりはやっぱ楽しい。

 そんなオレ達二人をよそに、陸奥は伊達の頬もぺちぺちしようとして避けられた。それでもめげずに顔をのぞき込む。


「ねぇねぇ、羨ましーい? 羨ましーい?」


「……よかったな」


「チェッ、つまんないの」


 伊達の平坦な声に頬を膨らませると、陸奥はごそごそとカバンを漁り、ルーズリーフを一枚取り出した。


「なにすんだ?」


 首を捻るオレ達の前で、陸奥はその紙で封筒を丁寧にくるんでいく。

 そして中身が封筒だと分からなくなったところで、あろうことかそれを下駄箱横のクズカゴに放り込んだ。


「なにすんだーっ!」


「ちょ、えええぇ?!」


 予想だにしなかった行動にオレと相模が叫ぶと、陸奥は肩を竦める。


「だって、いらないから」


「いらないって……そんな、ちゃんと断らなくていいのかよ?」


「いいんじゃないかな。『もしよければメル友からお願いします』って、メアドは書いてあったけど。よろしくないからメールしなかったってコトで」


「なっ……」


 あっさりしすぎた態度の陸奥に、ちょっと苛立ってしまった。

 だって、それを書いた子が誰かは分からないけど、それなりに勇気がいったはずなんだ。どんな気持ちでそれを書いて、朝早く学校に来て下駄箱に忍ばせたのかと思うと……それなのに。


「よろしくなくてもさ、そんな風に捨てることねーんじゃね? それに、どんな子かも分からないワケだし。やりとりしてみて、よかったら付き合ってみりゃいいじゃん」


「それとも陸奥、他に好きな子でもいんのか?」


 相模も同じように感じたようで、陸奥を詰問する。


「好きな子、ね」


 陸奥は履き忘れていた内履きに爪先をつっこみ、バタンと音を立てて下駄箱を閉めた。


「……例えどんないい子だったって、僕はその気持ちに応えられないから」


 その横顔は、少し自嘲を含んだような、底知れない悲しみが滲んでいた。


「?」


 その表情が意味するところが分からなくて、思わず相模と顔を見合わせる。またハッとなって顔を背ける相模。

 ……ったく、面倒臭いな。


「……陸奥」


「ほらほら、さっさと教室行くよー」


 なにか言いかけた伊達を制し、陸奥はいつものすました顔に戻ると、足早に廊下へ進んでいく。

 伊達を見やると、なにも言うなとばかりに無言で首を振った。

 ……なんだか、どっちもこっちも疑問だらけだな。

 仕方なく、黙って陸奥の後を追った。



 教室に入ると、三河は窓にもたれて電話中だった。


「あ、皆が来た。それじゃ切るね……うん、大丈夫。へへ、じゃあまたね~」


 その甘ったるい声と表情に、電話の相手が誰なのか嫌でも分かってしまう。


「おはよ、三河。今の杏ちゃん?」


 携帯をしまった三河は冷やかすようなオレ達に囲まれ、えへへと鼻の頭を掻く。


「おはよ~! うん、杏ちゃんだよ~。放課後や土日は、杏ちゃんも習い事とかで忙しいから。それで最近は、お互いに朝早く学校に来て電話するようにしてるんだ~」


「へぇ、努力してんなぁ。やるじゃん」


 うりうりと肘で脇腹をつつくと、三河は照れたように笑い転げる。


「くすぐったいよぉ~、やめてよー」


 無邪気な笑顔に癒される。

 もう、三河だけが癒やしスポットだよ……

 ほのぼのした空気を満喫していると、三河があれっと首を傾げた。


「陸奥君、なんかあったの? 顔色悪いよ~?」


「え、そんなことないよ」


 陸奥は取り繕うように笑顔を見せる。けれど三河はなおも心配そうに眉を寄せた。


「そうかな~……もしかして、具合悪い?」


「平気だよ、大丈夫」


 すると助け船のつもりか、止せばいいのに横から相模が口を挟む。


「今よぉ、陸奥が下駄箱開けたらラブレターが入っててよ。それでちょっと動揺しちまってんだよ」


 あ、馬鹿。そう言いたげに伊達が相模を横目で睨む。でももう遅かった。三河は身を乗り出して、


「えっ、すごーい! ラブレターもらったの? 誰から誰からーっ?」


 目をキラキラさせて陸奥に尋ねる。陸奥はやれやれと肩を落とした。さり気なく相模の足を踏みつけるのも忘れない。


「……うん、まぁ。でも、相手の名前は見てないよ。その方が後腐れないかと思って」


「後腐れって……断るの?」


「興味ないから」


 陸奥は淡々と、それでもオレ達にさっき向けた言葉よりはいくらか柔らかい口調で告げた。

 けれど三河の丸い目はさらに丸くなる。


「興味ないって……名前、見てないんだよね? じゃあどうやって断るの? 手紙は?」


「……捨てちゃった」


 陸奥は決まりが悪そうに視線を逸らした。純粋な三河の問いかけに居たたまれなくなったようだ。


「そんな、捨てちゃったって……! 折角誰かが頑張って書いてくれたものでしょ? それを、もらってロクに読まずに捨てるなんて」


「仕方ないでしょ。応えるつもりないんだから」


「でも、せめてちゃんと目を通してからだって……!」


「ならいつまで持ってればいいのさ? 本文はちゃんと読んだよ!」


 段々と二人がヒートアップしていく。

 陸奥にどんな真意があるかは分からないが、たった今までカノジョとラブラブ中だった三河には、受け入れがたい辛辣な仕打ちに映ったんだろう。


「えぇっと……三河、落ち着いて。な?」


「……陸奥には陸奥の事情が……」


 オレと伊達がフォローに入るも、三河はオレ達のこともキッと見据えてくる。


「どんな事情があったら、カノジョの気持ちを踏みにじっていい理由になるの? ちゃんと断りもしないなんて不誠実だっ!」


「あ、いや……それはそう、だけど……」


 確かに、オレもさっきそう思ったけど。

 でもさっきの陸奥の複雑な表情を見たあとじゃ、もう責める気にはなれなかった。陸奥にはなにか事情があるように思える。でも三河はそれを知らない。

 純粋だからこそ、カノジョである杏ちゃんを大事にしている三河だからこそ、陸奥の態度が許せないに違いない。

 ……三河の沸点がここだったとは。

 内心頭を抱えていると、陸奥は傍らの机を手のひらで叩いた。


「なんなのさ、さっきから! カノジョとラブラブで幸せ~、な三河には関係ないでしょ!」


 あ、言っちゃった。

 陸奥、それお前が伊達に言われてキレた台詞と一緒だよ……

 案の定三河もキレて、陸奥を厳しく睨みつける。


「陸奥君は勝手だよ! なんでもうちょっと相手のこと考えてあげられないの!」


「考えたって分かんないよっ。フラれるのとなかったことにされるのと、どっちがツラいかなんて!」


「ぼくが言ってるのはそういうことじゃ……!」


「もういいっ」


 言うが早いか、陸奥は踵を返して廊下へ飛び出していった。すぐに三河もドアへ駆け出そうとする。


「あ、おい! どこ行くんだよ!」


「購買っ! クリームパン売り切れちゃうからっ! 陸奥君なんてもう知らない!」


 振り返りもせず返事をすると、三河は陸奥とは逆方向に走っていってしまった。


「……………」


 残されたオレ達を、登校してきた級友達がチラチラと窺ってくる。

 さっきは、どっちもこっちも疑問だらけだなんて思ったけど、もうそんなレベルじゃなくなってしまった。


 相模とオレは話し合うこともできず冷戦中。

 陸奥と三河はご覧の通り。

 そして伊達は、陸奥の事情をなにかしら知っている様子ながら、口を噤み続けている。それを話せば、もしかしたら二人の口論は避けられたかもしれないのに。


 もう、オレ達五人ガタガタだ。

 入学して以来あんなに仲良くやってきたのに、どうしてこうなったんだろう。

 手のひらに爪が食い込むほど強く拳を握っていると、相模がおずおずと口を開く。


「なんか……すまねぇ。オレが余計なこと言っちまったから……」


「まったくだ」


 即答すると、伊達はなにを思ったか眼鏡を外し、窓枠の上に置いた。そして目にも止まらぬ早さで相模の片腕を掴むと、後ろ手に捻り上げる。


「いってぇ~! ちょ、伊達っ! 関節っ、関節キマッてる!」


「キマッてるんじゃなく、キメているんだ。今のは完全に相模の失言だぞ?」


「いでででっ……ううぅ、分かってンよぉ」


 相模は苦痛に顔を歪めたまま、呻くように零す。

 筋肉質で大柄な相模が、一〇センチ近く背が低く細身の伊達に締め上げられている姿は、なんだか意外で滑稽だった。

 まぁ、剣道じゃ関節技とかないもんな……

 そんなことをぼんやり思っていると、伊達はさらに力を込める。


「いぃぃっでえぇ!」


 相模の絶叫にも、伊達は眉一つ動かさない。悶絶して身体を折る相模に冷え冷えとした視線を落とす。


「反省してるか?」


「してるっ! してるっ!」


「そうか……ならせめて、ジャンと話をつけて来い」


「はっ?」


「『はっ?』」


「あいっででででっ! わ、わぁった、分かった! 話すからっ!」


 相模がガクガク頷くと、伊達は相模を引きずって掃き出し窓へ向かった。ガラリと開け放ち、相模の巨体をぽいっとベランダに放り出す。

 呆気に取られていると、伊達はオレの腕を掴んで、やっぱりベランダに押し出した。

 尻餅をついてへたりこむ相模の横に立ち尽くすと、伊達はピシャンと窓を閉めた。ついでに鍵までかけられる。


「おい、ちょっと伊達!」


 慌てて窓ガラスに貼りつくと、向こうで伊達はニッと唇の端を持ち上げる。


「気の済むまでじっくり話し合うといい。話が進まないなら、ホームルームが始まろうがここを開ける気はないから、そのつもりで」


 目がちっとも笑ってないよ伊達先生……


「いや、でもさすがにこんな……」


 言い縋ると、伊達は片眉を跳ね上げて相模を見下ろした。


「あっちもこっちも仲裁に入るのは疲れるんでな……せめて、二人だけでもなんとかしろ」


 そう言って眼鏡をかけ直すと、いつもの無表情に戻ってカーテンを閉めた。


「…………」


 オレは思わず足元の相模を見た。


「…………」


 相模もぽかんとした顔でオレを見ていた。

 仕方がないので、相模の隣に少し間を開けて座り込む。


「……あのさ」


「な、なんだよ」


 声をかけるとビクつく相模。お構いなしに話を続ける。


「……全然関係ない話なんだけどさ」


「お、おう」


 いきなり重い話を振る気になれなかった。

 隣にいるコイツがオレの知ってる相模なんだって、確認したかったのかもしれない。


「伊達はさ、万が一お前が暴れて吹っ飛ばされないように、眼鏡を外したと思うんだけどさ」


「お、おう?」


「オレにはさ、あの眼鏡が伊達のリミッターに思えて仕方ないんだ」


「あぁ~……」


「なんか、外すと流暢にしゃべるし。表情動くし」


「確かに」


 相模が喉の奥で低く笑う。やっと笑った。


「やっぱなんのかんの言って、一番恐ぇの伊達じゃね?」


「うん、オレもそう思う」


「んで、絶対ムッツリだよな」


「それはどうかな」


 バカ話をしていると、背後の窓ガラスがバンッと叩かれた。ビクつきながら二人して窓を振り返る。カーテンに遮られて見えないけど、伊達はオレ達がちゃんと話をするか聞き耳を立てているらしい。

 オレは改まって咳払いをした。


「ゴホン……えーっと、それでさ……」


 少し強張る相模を、真夏の日差しが射抜いていた。




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