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野を超え一路、陽を呼ぶ町へ

 僕は今、生まれてこの方最大級の衝撃を受けています。なんというか、生き方一つで人はどんな風にでもなれるって事が分かったよ。

 

「でね、木の皮も焼けば食べれるのって結構あるんだよ。草だって香草とかを選べば大体食べれるし」

「あ、あの……君ずっとそうやって旅してきたの? 野草とか木の皮食べながら、自分の選んだ道を真っ直ぐ?」

「そうだけど? 何か変かな?」


 変って言うか……世間一般的に言えばそれは、異常って言われる生き方だと思うけどな。よくずっと生きていられたね、この子。


「師匠からは、それがストライカーとしては普通だって言われてたけどな? 違うの?」

「違う、って言い切れないしなぁ。僕ストライカーじゃないし、拳士の鍛え方なんて聞いた事無いし」

「うーん、違うとしてもそれのお陰で強くなれたし、いいんじゃない? 師匠が間違った事言ってたとは思えないし」


 随分信頼してたんだね。いや、どうやらずっと一緒に旅してたようだし、親代わりみたいに思ってたのかな?

 それにしたって過酷な生き方だよ、それは。でも、あの実力はそれで培われたんだろうな。じゃないと、同い年で身体能力で負けてる僕には立つ瀬がありません。

 でも、それだけやってがっしりした筋肉で覆われたような体じゃないのは体質なのかな? いや、別に筋肉達磨と一緒に旅したい訳じゃないから全然いいんだけどさ。


「それにしても……街道って言っても、他のところとそう変わらないんだね。人なんか全然居ないや」

「何処に行っても、盗賊とかなんとか、危険はゴロゴロしてるからね。ここいらの場合、僕等が潰してやったあいつ等が幅を効かせてたんだろうけど」

「そっか、ならこの辺りの治安向上にも貢献出来たって事かな。良い事したね」

「確かに。でも、危険はそれだけじゃあないけどね」


 荷物とエウロスを担いでる右手は使えないから、左手でゼファーを抜いた。弾の値段として、連射でバラ撒いちゃうエウロスより一発一発を撃ち出すゼファーの方がコストパフォーマンスはいいからね、こっちを使うとしようか。

 そして、気配がした辺りを狙って、引き金を引く。ふぅ、これがあるから街道も気が抜けないよ。


「な、何!?」

「そこの茂み、見てみなよ」

「茂み? あ、これって」

「ブラウンボアでしょ? なんかこの辺多いんだよね」


 頷いてるって事は当たりだね。そう、こういう野生動物にも気を付けないと、下手を打ったらそのままパクリでさようならだね。

 ブラウンボアは、茶色い大きな蛇。流石に僕達を頭から丸呑み、なんて出来る大きさじゃないけど、こいつに絞め殺されたって旅人の話を聞いた事もあるから油断は出来ない相手だよ。

 それに、ただの野生動物ならまだ可愛い方。旅してると、もっと可愛くない相手が襲いかかってくる事もあるからね。


「あ、頭に一発命中……凄い、どうしてこんな事出来たの!?」

「ブラウンボアって目標を隠れながら狙うんだけど、その時に必ずちょこっとだけ頭を見せるんだよね。だからそれを狙ってやればその通りって事」

「へぇ〜、あたしが気付く前にやっちゃうなんて、クリティやるねー」

「得物が銃だからね、近付かれると厄介だから自然と気配を探る範囲が増したのかな。不意打ちでもなんでも、相手に悠々接近されるのを許したらガンナー失格だよ」

「はぁー、なるほど」


 納得してくれたところで、サンズコールへの足をまた動かそうか。仕留めたブラウンボアは、残しておけば他の動物の糧になってくれるでしょ。軽く手だけは合わせるけど。

 ……いや、セリナ? セリナさん? なんで蛇引き摺ってくるの? まさかだよね? ねぇ?


「あの……セリナ、それ、どうするの?」

「え? いや、折角だから食べようかなーって」

「食べるの!? っていうか、食べれるの!?」

「食べるところは少ないけど、焼けばいけるよ。貴重なタンパク源!」


 こ、ここまでサバイバビリティに溢れる子だとは思わなかった。そりゃあ街道使わずに旅なんて出来る筈だよ。

 ま、まぁ、セリナのワイルドさを垣間見れたし、よしとしておこう。……僕も食べるんだよね、あれ。大丈夫かなぁ?

 あれ、焼いて? セリナ、何か火種になるような物持ってるのかな? 僕はマッチ持ってるけど、町に行ってないセリナが持ってるとは思えないんだけどな? グリーンノアでは何も買ってなかったし。


「ねぇセリナ、その蛇を焼いて食べるのは分かったけど、火種持ってるの?」

「火種? あるよ。ちょっと見てて」


 見てて? 何するつもりなんだろう? 左手を右手に添えて、目を閉じた。あ、そういう事か。

 見ていると、セリナの右手のガントレットから電気が走り始めた。なるほど、それを火種にしてたのね。


「こんな感じ。これでバチッとやれば火くらい起こせるよ」

「魔力を電気に変えるガントレットか……確か、レガースの方もそうだったよね?」

「うん。ブラウエクレールって言って、師匠が私の為に作ってくれたみたいなんだよね」

「へぇー。……魔装具ってそう簡単には作れないと思うんだけどな? セリナのお師匠様って人、どうやって作ったんだろ?」


 いや、世の中には魔装具師マテリアルスミスっていう魔装具や魔銃を作ったり整備するのを生業にしてる人は居るけど、そんなに多くは居ない筈だけどな? 素人がちょっと知識齧った程度じゃまず制作なんて出来ないだろうけど?

 ま、事実はもう確認しようも無し、か。今ここにこの魔装具がある、それだけがはっきりと分かる事実だよね。


「あ、電気出したし、ついでだからこの蛇焼いちゃおっか」

「……やっぱり、食べるの?」

「うん。最初は抵抗あるけど、実は結構美味しいよ」

「そ、そうなの?」

「それに、食べる事が供養になるって師匠言ってたし。そのままにしておくと祟られるぞってよく言われたよ?」


 うぅん、そう言われるとそう思っちゃうのが不思議なところ。確かに、そのまま放置しておくよりいいのかもだけど。

 もうセリナは焼く気満々だし、僕としても費用の掛からない食事にはちょっと興味ある。……これからの旅の為にもプラスになるし、騙されたと思って試してみようか。


 って事で蛇焼きを食べながらしばし休憩してました。本当に意外な事に、素で美味しかった。なんだろう、ちょっと固めな鶏肉な感じ。

 骨と皮になった蛇としても、これだけ丁寧に食べて貰えれば本望でしょう。いやぁ今まで僕、かなり勿体無い事してたなぁ。


「ご馳走様でしたっと。クリティ、ナイフありがと」

「あぁ、うん。セリナ、そういうナイフとか持ってないみたいだけど、今までどうやって捌いてたのさ?」

「え、そのまま焼いてたよ? 流石に焼いても内臓は食べなかったけど」

「皮は?」

「焼けるまで頑張って焼いてた」


 う、うん……大雑把だなぁ。焼けるまで焼いて、それから剥がしてたと。捌き方を知ってるんだからナイフは使ってたみたいだけど、お師匠様が持ってたのかもね。

 さて、これで蛇の供養兼休憩は十分したし、また歩きだそうか。グリーンノアからサンズコールまでは歩きで二日くらい掛かるらしいし、そう焦っても仕方無いけどね。


「日も大分高くなったね。ちょっとのんびりし過ぎちゃったかなぁ?」

「そう急いだって仕方無いさ。追ってる相手に対しての情報も少ないし、相手も僕達が追ってるって気付いてない可能性も高い。まずはじっくり探して、追い詰めていこう」

「急いては事を仕損じる、だね。大丈夫、必ず追い詰めるけど、焦ったりはしないよ」


 へぇ、結構冷静に考えてたみたいだ。基本、人は仇討ちとか復讐ってなると冷静さを失うものだけど、セリナの芯はかなりしっかりしてそうだ。少し安心出来たよ。

 これで毎回暴走なんかされるようだったら、それの仲裁に入る事になる僕が先にくたびれちゃうしさ。ま、やる事になる時は来るだろうけどね。

 立ち上がって軽く伸びをして、また一歩を踏み出す。天候は晴天、気温ちょっと高め。旅路を行くには丁度良いね。明るい内に距離を稼いでおこうか。


「そう言えばさ……クリティの持ってる銃って、その黒いマシンガンがハイブリットなんでしょ? 凄いよね、あたし始めて見たよ」

「正確に言えば、僕の銃はどっちもハイブリッドだよ。あ、でもセレナにはまだゼファーの魔力弾は見せてないっけ」

「え、どっちも!?」

「うん。……周りに何も無いし、ちょっとだけならいいかな」


 ゼファーを抜いて、魔力を溜める。限界まで溜めてやっと一発だから、魔力の燃費は最悪だよ、ゼファーは。まぁ、その分が全部破壊力に回ってるんだけどさ。

 持ってるのがゼファーだけだからチャージも早い。そりゃ、エウロスに魔力を配分してないから早いのは当然だけど。


「危ないから僕の後ろに居てね。巻き込まれたら、何処まで吹き飛ばされるか分からないから」

「な、何するの?」

「紹介も兼ねて、ゼファーの試し撃ちをちょっとね」


 よし、魔力チャージ完了。撃つのはトゥルブレンツじゃないよ。あんなの撃ったら当たった場所吹き飛ぶよ。

 まぁ、これから撃つのも十分危険だけどさ。トゥルブレンツが集中型の一撃だとすると、これは拡散型の一撃って事になるかな。


「吹き荒れろ、レイジング……ロアー!」

「へっ? ひゃぁぁぁぁ!?」


 ゼファーから撃ち出された突風が、銃口の向いた方向のあらゆる物を吹き飛ばしていく。本当、こういう開けた場所で使わないと間違い無く自分も巻き込まれる一発だ。

 前に練習中に父さんの事巻き込んじゃって、1キロ先ぐらいで見つけた事もあったっけ……父さん、あの時よく全身打撲とかで済んだなぁって、今になると思うなぁ。まぁ、練習中だったから今程威力は無かっただろうけど。


「う、嘘……今の、その拳銃から出たの?」

「そう。ハイブリットの、魔銃としての火力だけを言えばゼファーはエウロスの数倍の火力があるよ」

「はぁ〜、ハイブリットってそんなに凄い銃なんだ。それを二つも持ってるなんて……なんか狡い」

「狡いって言われてもねぇ? 父さんと母さんの残した形見がこれだったんだから、僕は巡り合わせが良かったってとこかな」

「巡り合わせかぁ。だとしたら、そんなクリティとこうして仲間になれた私もラッキーって事かな?」

「敵対するよりはいいんじゃない?」

「それは、今の見て間違い無いと思う」


 よっぽど面倒だったり厄介だったりしないと、ゼファーの一撃は使わないけどね。基本的にエウロスの牽制からゼファーの実弾での一撃で相手を無力化出来るし。

 ま、試し撃ちはこれで十分。ゼファーは戻して、次は足を動かそう。


「僕の力はこんなところ。依頼主としても、雇ってる相手の力は知りたいだろうから特別サービスね」

「はぁー、盗賊のアジトで一緒に戦った時も強かったけど、まだこんなのも撃てるなんて……ど、どうしよう、本当にそんなに凄い報酬とか払えないかもだよ?」

「今更報酬の支払いで不安にならないでよ……僕は別に傭兵じゃないし、そこまで吹っ掛けた支払いは要求しないよ。支払わないでいいって言うのは有り得ないけど」

「そ、そっか。因みに聞くけど、クリティってあたしの前に誰かに雇われて仕事した事ってあるの?」

「あるよ。町の警備とか、人の護衛とかね。じゃないとお金が続かないでしょ」

「そっかー、普通はそうなんだよね。あたしもクリティへの支払いとかあるし、何か仕事をするっていうのも考えないとね」


 いや、うん、セリナが僕への支払いの心配をしてくれるのはいいんだけど、多分この子町で働いた事とか無いよね? それでいきなり仕事を探すってなると、ちょっと危ないかな。変な仕事に引っかかる可能性が高い。


「あのー、セリナって、町で働いた事ってある?」

「うっ……ごめん、無い。って言うかその、あ、あんまりね? 町で買い物とかそういう仕事探しとかした事無いって言うのもクリティに一緒に旅しようって提案した理由だったり……」

「あぁ、そういう事だったのね」


 それなら歩きながら一思案。確かに僕への支払いは欲しいけど、セリナを一人に出来ない。ならどうするか? 僕も働きつつ、セリナの面倒も見る。答えは一つしか無いか。


「ならセリナ、しばらく僕とチームを組まない?」

「チーム?」

「そう。仕事の依頼主が支払う報酬はチームで分ける事になるけど、二人で同じ仕事をするから負担も半分、仕事を請けるのに慣れたら別々の仕事を受けるように変えるのもいいしさ」

「へぇ、そんなのあるんだ。うん、それでやってみたい! あ、でもそれだと最初はクリティに頼っちゃう事になるけど、いいの?」

「元々そういうのを教えて欲しいから僕を仲間にしたんでしょ? だったら気にしないで頼ってよ。貰う物は貰うって言ってるんだから、その分はきっちり働くからさ」

「そっか。分かった、それならお世話になります!」

「うん。どっちにしろ、まずはサンズコールに着かないと始まらないけどね」

「そうだね。よーし、頑張って歩いて行こー!」


 色々な段取りも決まってきたし、セリナの事もだんだん分かってきたかな。こうしてゆっくり話せる時間が取れたのは良かったよ。

 これから一緒に旅をしていけば、どう遅くなってもいずれ聞く事にはなっただろうけどさ。素性の分からない相手と一緒に居るのはストレスだし、話してくれる方がずっと良いや。

 それからは、セリナに今までどんな仕事したのかとか、どんな場所を旅してきたのか、とかを聞かれながら歩いてます。僕の場合目的があって旅してる訳じゃないから、そう変わった事も無いんだけどさ。

 旅路は順調、人気は無し。警備なんかがされてない街道は大体こんなものだよ。残念ながら、ね。盗賊は普通に跋扈するし、ただでさえ旅っていうのはリスクが高いんだから、こんなところを少人数で歩いていくなんてかなり危険なんだよね。

 普通こういうところを抜けるのなら、護衛の傭兵を雇うか馬車を使う。どっちも出来るならなお良し。ま、そうしちゃおうとも目立って狙われるって危険もまた発生するけどさ。


「はぁ〜ぁ、長閑だねー。これだけ何も無いと、体鈍っちゃいそう」

「一体君はどんな生活して来たのさ……」

「んー? 普通に犬とか狼とかと戦ったり。野生動物で一番きつかったのは熊かなぁ。勝負つかなくて引き分けちゃって、果物とか貰って終わりっていうのもあったよ」

「で……食べたの?」

「食べたよ。だってそこで暮らしてるんだから、何が食べられるとかはそっちの方が知ってるでしょ?」

「ですよね。なんか、僕が相手にしてきた相手が微温く感じるなぁ」

「ねーぇー、もっとクリティの事も話してよ。なんかあたしばっかり話してて狡い」

「そう? 君みたいな面白い話はそんなに無いよ?」


 でも、リクエストされちゃうと話さない訳にもいかないか。僕は散々セリナのこれまでを聞いちゃったしね。

 そうだなぁ……でも僕の旅は本当に面白みは無いよ。基本的に、その日その日を生きる事が目的だから。町で仕事をして、そして仕事が済んだら次の町へ。その町で次の仕事が見つかればもう少し居るかもしれないけど、基本的にそう長居はしない。


「ん、どうして? 仕事があるならそこにずっと居ればいいんじゃないの?」

「そうしたいのは山々なんだけどさ。どうもこの銃がそれを許してくれないんだよね」


 ……前に、しばらくの間暮らしてた町があるんだ。小さな、町人も民家も数える程しかない小さな町、オラシオン……だったかな。

 そこで、牧場の手伝いの仕事をしながら、その牧場の人達と生活してたんだ。馬や鶏に囲まれながら、それらを世話しながらさ。

 今思っても楽しかったな。ああいう、銃を使わないで済む生活が出来るならそれはそれで良かったのかもしれない。

 けど、ダメだったんだ。僕は、この二丁を置く事が出来なかった。もし僕がこの二丁を最初から持っていなかったら、僕は今みたいに旅を続けてなかった。でも持ってなかったら、この世界からオラシオンって小さな町は消えていた。


「な、何があったの?」

「グリーンノアと同じだよ。食うに困った盗賊団が襲ってきたの」


 その盗賊団は、町のあらゆる物を奪おうとした。お金、食べ物、人も全て。歯向かう者は殺して、無抵抗な人達は奴隷としてでも売ろうとしたんだろうね。

 僕は、それが許せなかった。黙って見てるなんて出来なかった。だって、戦う力があったんだから。


「盗賊団を倒すのは、そう難しい話じゃなかったよ。三十人くらい居たけど、動きは素人もいいところだったからさ」

「なら、町は守れたんでしょ? どうしてまた旅に?」

「簡単だよ。そんな盗賊団をたった一人で倒せる僕を、町の人達が怖がらなかったと思う?」

「あ……」


 その事件があった後、町の人達の僕への態度は一変した。

 それまでは、銃に驚いた人こそ居たけど、銃を持たずに生活していた間は、本当に良くしてもらった。声を掛けてもらったり、町の一員になったらどうだ、なんて言ってもらった事もある。

 けど、盗賊団を倒した後は、そんな事は無くなってた。僕の姿を見て怯える人、何時盗賊団と同じように襲ってくるのかと警戒する人。早く出て行ってくれないかと願う人……そんな視線だけが、僕には向けられるようになった。

 辛くは無かったけど、寂しかったな。あぁ、こうなっちゃうんだなぁって。何処かで、諦めてたのかな、やっぱり。


「そんな、クリティは町を守ろうとしたんでしょ?」

「うん、それを分かってくれた人も居たよ。一緒に暮らしてた牧場の人とか、少数はね」


 分かってくれた人は居た。でも、それに甘えられなかった。だって、それに甘えて僕がそこに居続ければ、町の人達で意見が割れていく。距離が出来ていく。遠ざかっていく。

 一介の旅人の所為で、町の絆が瓦解していくなんて事、あっちゃいけない。そんな事は、町を襲った盗賊達と何も変わらない。だから僕はその町を出た。行かないでって言ってくれた人達が居た事が、唯一の救いかな。


「強い力を持つって事は、そういう事。そんな力を持ってない、望んでない人達にとっては、ただの驚異でしかない」

「でも、なんだか納得出来ないな。クリティ優しいし良い人なのに」

「持つ力と性格は別物さ。どうであれ、人は力に流され易いものだから。っと、ごめん、ちょっと話がズレちゃったね」


 それからは、ずっと旅を続けてるよ。ただ、その時から変わったのは、盗賊と戦うようになった事かな。それまでは、避けられるようなら避けてたし。

 でも、そのままじゃダメなんだ。出来る力があるのに、逃げたら何も変わらない。力に振り回されて居場所を失うって言うなら、力を捨てられないなら、誰かが出来ない事を少しでも僕がしようと思って。


「一人善がりだし、八つ当たりみたいなところもあるから褒められたものじゃないけどね。それに、出会っちゃった盗賊を倒すだけだから、旅の目的とも言えないしさ」


 それでも、何もしないよりマシかなと思って。行き場所の無い僕には、丁度良かったのかもしれないな。

 何処にも居着ける場所が無いから、仮に盗賊達が僕を狙うようになったとしても、誰にも迷惑は掛けない。命を失うのは勘弁だけど、もしそうなったとしても、それに誰かを巻き込む心配も無いしさ。


「あ、でもこれからはセリナを巻き込む可能性も出てくるのか……気を付けないとなぁ」


 あれ、そう言えばさっきからセリナが無言? 横を歩いてはいるけど、下向いて歩いてるから表情が分からない。


「むー……うー!」

「ちょ、な、何!?」

「決めた! まずは、クリティがもうそんな目に遭わないようにしよっ!」

「へ? あ、あの?」


 な、なんか顔を上げたと思ったらこの調子だよ。どしたのさ急に?


「そんなのおかしいよ! だってさ、クリティは他の誰かの為に頑張ってるんでしょ? なのにクリティが独りぼっちなんて変!」

「へ、変かなぁ? 皆が怖がるのも仕方無いと思うけど」

「変じゃないにしても、やっぱり納得いかない! だから、なんとかしよう!」

「なんとかって……どうやって?」

「それは、これから考えよう! うん、決まり!」


 え、えぇー、なんか勝手に決められちゃったよ。いや、なんとか出来るなら出来てくれた方がいいんだけど。

 あらら、本当に考え始めちゃったよ。……会って二日の僕の事なんて放っておけばいいのに、本当に不思議な子だよ。

 これは、しばらくこの僕の生活環境改善の話をしながら進む事になりそうだね。まぁ、付き合おうか。


 ……本当に、日が沈むまで歩きながらその話をする事になるとは思わなかったよ。ぽんぽん意見は出るけど、具体的になんとか出来そうな意見は出てこないよね。


「はぁ……強いのをどうにかするって、考えてみるとおかしいよね。わざわざ弱くなっても意味無いし、皆がクリティと同じようになれば、なんて無理だしそれも意味無いしさ」

「そんなに簡単に解決するなら僕だって苦労しないよ。そろそろ暗くなるし、ここらで休む用意しようか」

「そだね。んー……あ、クリティ、あそこの岩の影とかいいんじゃない?」

「良さそうだね。行こうか」


 何も無い平地で野営するよりずっとマシだけど、出来れば三方くらいを防げる地形は欲しいかな。今は地面から生えるみたいに出てる大きな岩しか無いから、それを壁にするように使うしか無い。寝ずの番だな。

 寒くなるだろうし、焚き火を用意して布敷いて、後は朝が来るのをゆっくり待つとしようかな。

 幸い焚き火に使えそうな芝は岩の近くにあった。枯れて乾いてそうだし、火は点き易いでしょう。

 で、僕が火の準備をしてる間、セリナは辺りを見回してます。多分食べられる物探してるんだろうけど、この辺はそんなに潤った土地じゃないから、植物も少ないんだよ。だから、食べられる草なんかは無いんじゃないかな。


「食べ物になりそうな草は……無いかー。今晩は我慢かなぁ」

「現地調達だけが、食べ物を得る手段じゃないよ。量はそこまで無いけど、こういうのもあるさ」

「それ、干し肉? え、くれるの!?」

「本来は昼食からこれに頼るつもりでいたけど、予定が変わったから余っちゃってるからさ」

 

 余ってるって言うのは少し違うかな? 蛇なんか食べるとは思ってなかったし、お金が無いってセリナ言ってたから最初からセリナの分も買ってたしね。

 でも昼に食べなかったから、今の時間に食べる分が増えてるって事。半分に分けても、いつも食べる倍くらいはあるよ。


「はい、これがセリナの分。食べるだけ食べて、残ったら非常食に取っておくといいよ」

「ありがとう! はぁ、やっぱり旅慣れてる人と居るのは安心感が違うね」

「僕としては、新しい食料の調達の仕方を知れて、セリナみたいな子と旅するのも悪くないかなと思い始めたところかな」

「えー何それ? 自分で言うのもあれだけど、こんな女の子と一緒に旅出来るんだから、もっと喜んでいいんだよ?」

「正直ねぇ、僕女の子と付き合ったり、そもそもこうやって二人きりになったりとかした事無いから、イマイチどう喜べばいいか分からないんだよね」


 これは本当。まず僕が持ってる銃で怖がらせちゃうからか、女の子なんて僕を避けて通るものだとしか思った事無いんだよね。

 だから今の状況は新鮮だよ。ただ、それ以上の感動とかは無いかな。いやまぁ、セリナは僕が見てきた女の子の中でも一番可愛いとは思うけど。


「なんかそう言われるとちょっとショックだなぁ。これでも、町に立ち寄ったら結構人に声掛けられるんだよ?」

「だろうね、セリナが可愛いのは僕も認めるよ。ただ僕の場合は、誰かにそういうのを感じるのが他の人より鈍いって言うのかな? あんまり関心が向かないんだよね。絶対に物心付いた頃からずっと旅してる所為だろうけど」

「ふぅん……まぁ、実を言うとあたしもそうなんだよね。可愛いって言ってもらえるとちょっと嬉しいけど、馴れ馴れしい感じで寄ってこられると戸惑う前に相手が伸びちゃってるし」


 セリナが殴ってって事だよね。これだけの実力があるんだから、大人だろうがなんだろうが倒せるだろうし。っていうか倒してたしね。

 雑談をしながらも、火を囲みながら干し肉を噛じる。父さんが亡くなって以来かな、こうして野宿で誰かと火を囲むなんて。

 やっぱり、こうして誰かと話してると退屈しないね。一人だとこういう何もしない時間っていうのが酷く長く感じるんだよ。銃の手入れするにしても、何するにしてもさ。

 そう言えば、銃と言えば……。


「ねぇセリナ、お師匠様の銃だって言ってたあれ、少し見せてくれない?」

「え、あの銃? いいよ、はい」

「ありがと」


 持ってた荷物袋から銃の整備用のツールを出してと。あの盗賊が手入れなんかしてるとは思えないし、少し本格的にメンテナンスをしようかと思ってね。


「わぁ、なんか色々あるね。なぁに、それ?」

「銃整備の為の工具だよ。折角だから、綺麗にしてあげようかなと思って」

「本当!? うん、お願い!」

「了解。じゃ、やってみようかな」


 それじゃ、セリナの許可も貰ったし、ガンスミスのお仕事でもやってみようか。

 ……ふぅん、銃口の先にも火薬の焼き付きはそんなに無いし、シリンダーも綺麗だ。フレームも傷はそんなに無い。持ち主が大事に使ってた証拠かな。

 これなら弾丸を装填すれば十分に活躍させられるよ。カートリッジは……うん、ゼファーに使ってるので大丈夫そうだ。


「よし、と。目立って壊れた部分なんかも無いし、これで使えるよ」

「ありがとう! ……でもあたし、銃なんか使えないんだけど?」

「一応持っておいて損はしないと思うよ。引き金を引けば弾は出るんだから、後は銃口が何処を向いているかに気を付けるだけだから」


 反動があるけど、セリナは力もありそうだから多分大丈夫。っと、最後に銃初心者のセリナには注意事項だけ伝えないとね。


「セリナ、これだけは守ってね。銃は、扱わない時は引き金に指を掛けない事。それと、引き金に指を掛けていなくても、銃口を無闇矢鱈に人に向けない事。銃を相手に向けるって事は、それ自体が相手に危害を加える意思があるって意味があるのを忘れないでね」

「う、うん、分かった」


 グリップの方をセリナに向けて渡す。今言った事を早速僕が破る訳にはいかないもんね。

 受け取った銃をセリナはまじまじと見つめてる。銃を持つ、扱うって意味、少しは分かってくれたかな。


「弾が入ると、なんだか重く感じるんだね……」

「その重みは、生き物の命を奪える重みだ。それを持つ意味を考えて、忘れるな。……父さんが僕に銃の扱いを教えてくれた最後に必ず言った言葉。もう何度も聞いたから、忘れたくても忘れられなくなっちゃったよ」

「生き物の命を奪える重さ、か……なんだか、銃を持つって大変な事なんだね」

「そこまで考えて銃を持って扱ってる人なんて、ほんの一握りだろうけどね。大抵は強い武器を手に入れたーくらいにしか思わないだろうし」

「そっかぁ。うん、あたしも気を付ける。ありがとう、クリティ」

「どういたしまして」


 僕なんか、強力な銃を二丁も持ってるんだから余計に気を払わないといけないな。他の人に話すと、改めてそう思うよ。

 銃口の先にあるのは、命だ。それを奪うか、守るか。それを選べない奴は銃を持っちゃいけない。覚悟の無い銃火は、必ず誰かを傷付ける。だったかな。これも、父さんがよく僕に聞かせてくれた言葉。

 本当、僕の知識は父さんが教えてくれた物が殆どだよ。銃関係に偏ってるのが考えものだけど、間違った事は教わらなかったと、僕は思ってるよ。


「持ったり覚えたりするのが危険だって事は、ストライカーもガンナーも一緒なんだね。ストライカーの技も、当て方や力の込め方次第で幾らでも危険になるし」

「戦闘が絡むものはどうしたってそういう危険が付き纏うさ。もっとも、僕達はそれを持たないとやってられないから、どうしても持つ必要があったからこうなってるんだろうけど」

「初心忘れずべからず、だね。旅を続けなきゃならないし、間違わないようにしなきゃ」

「その気持ちがあれば、きっと大丈夫だよ。それに今はって事になるけど、セリナが間違いそうになったら、僕が止められそうなら止めてあげるよ」

「あはは、お願いね。逆になったらあたしも止めてあげるから」

「正直その拳で殴られるのは痛そうだし、そうならないように肝に銘じておくよ」


 うん、これで難しい話は終わり終わり。旅の初日でこれだけ意思疎通が取れれば十分でしょ。


「結構クリティの事も聞けたし、満足満足。何て言うか、あたし達って結構似てるね」

「そうかもね。旅から旅への根無し草同士、しばらく頑張ろうか」

「うん。頼りにしてるよ」

「あんまり頼られ過ぎるのも困っちゃうけどね」


 そんな言葉を交わして、そろそろ休もうかって流れになった。ま、僕はこれから夜間の警戒の為に起きてるんだけど。

 夜空の星を数えながら夜明けを待つのにも慣れてるし、女の子であるセリナにそれをやって貰うっていうのも気が引けるしね。

 ……あれ、でもセリナも一人旅でここまで来たんだよね? 夜どうしてたんだろ? う、うーん……。


「ねぇ、セリ……あれ、もう寝ちゃってる」

「くぅ……」


 寝付き良いのね……些細な事だし、別に聞かなくてもいいか。この分だと、一人の時でも普通に寝てたっぽいしね。

 それじゃ、冷えないように軽く火の番をしながら、朝が来るのを待つとしようかな。


 ……ん、少しだけウトウトしちゃったかな。空が薄ら白んでくると、いつもちょっとだけ眠るんだよね。じゃないと昼間が本当に辛いし。

 火は少し燃えてるから、寝ても1時間ってところかな。目を閉じる前は結構燃えてたから、消えてないならそこまで時間は経ってないでしょ。

 日も出る前だから、1時間も経ってないかも。慣れてるとは言え、これだけで一日過ごせるんだから慣れって怖いよねー。

 あれ、寝てた筈のセリナが居ない? おかしいな、寝る前は確かに居た筈なのに。

 立ち上がって、ジーンズに付いた砂を払いながら辺りを見回した。うーん、居ない。


「お目覚めだね。おはよっ、クリティ」

「ん? あぁ、なんだそこに居たのセリナ。お早う」


 居ないと思ったら、僕等が風避けに使った岩に座ってたよ。そりゃあ僕の背より高い岩の上に居たんだから、視界に入らないで当然だね。


「ごめん、僕の方が長く寝ちゃったみたいだね」

「一晩中火の番してくれてたんだから、長く寝ちゃってなんかいないんでしょ? ちょっとくらい眠ってても怒ったりしないよ」

「……気付いてたの?」

「あたしだって馬鹿じゃないんだから、野宿で熟睡なんかしないったら。クリティが起きててくれたから、いつもよりはずっと寝ちゃってたけど」


 あ、そうだったのね。いや、それくらいは旅して生きてきたんだから当然かも。なら、僕もそこまで頑張って夜通し番してなくて良かったかもなぁ。

 っと、セリナが岩から飛び降りてきた。この分だと、体調は大丈夫そうだね。


「よっと。今度からはさ、夜は交互に起きて番するようにしようよ。クリティもちょっとは寝たいでしょ?」

「本音はね。そうして貰えるとありがたいけど、いいの?」

「あたしだけ寝ちゃってクリティに起きてて貰うって言うのも気が引けるし、そうしようよ。あたしもその方が気が楽だし」

「そう? なら……そうしようか」

「うん! さ、今日も元気出して行こうか!」

「朝から元気だね、セリナ。まぁ今日サンズコールに着かないと水とか食べ物が無くなるし、ちょっと早いけど歩きだそうか」


 街道沿いに進めば迷うことも無いし、早く着けばそれだけ今日出来る事も増えるしね。この状況で二度寝するのも厳しいし。

 早く出発したそうなセリナをあまり待たせても悪いし、荷物を抱えて歩きだそうか。

 ……でも、今日は少し曇ってるな。一雨来られても困るし、ちょっと急がないとならないかも。

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