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助けた少女は雷鳴拳士?

 ……現在僕は、グリーンノアから少し離れた一軒の廃屋と化した屋敷の傍まで来てます。理由? グリーンノアの町長さんから頼まれて、町を襲った盗賊団から町から奪われたものを取り戻してって言われちゃったから。

 グリーンノアにはね、ちゃんと人が残ってたよ。ただし、町で使ってた倉庫だっていう建物の中に、男の人だけ詰め込まれて閉じ込められた状態でだったけど。

 どうやら倉庫の中身と女の人達が盗賊に拐われちゃって、男の人達は銃で脅されて倉庫に入れられちゃったんだって。で、僕が吹き飛ばしてやったのは、僕やバムさんみたいにグリーンノアに来た旅人や、グリーンノアを助けに来た人達を襲って身包みを剥ぐように命令されてた連中らしいよ。盗賊の大元はこの屋敷に帰ってたって事だね。タイミングが良いのか悪いのか?

 んで、あいつ等を倒せる腕前があるなら助けてくれないかって頼まれて今に至るっていうとこ。頼まれちゃったら、断るのも気が引けるから受けちゃったよ。


「でも、何処から入ろうかなぁ……正面から行ったら絶対危ないよねぇ」


 なんて独り言言ってても仕方無いか。まずは屋敷の周りでも確認して、入れそうなところ探そう。

 こういう大きな屋敷なら、裏口くらい多分あるよね。そこから入るのがいいかな。えっと、裏に回り込んでと。

 うわ、見張りが居たよ。まぁ、真正面から突撃していく馬鹿なんて居ないだろうから、こっちを見張ってるのは当然か。

 んー、どうしよ? 実弾撃ったら発砲音でバレちゃうし、魔力弾に切り替えて倒しちゃおうか。魔力弾なら命まで取っちゃう心配も無いし。

 実弾は薬莢に詰まってる火薬の爆発力で撃ち出すから威力を変えられないけど、魔力弾は自分で威力を下げたり出来るんだよね。ようは弾丸にする魔力を減らせばいいんだし。

 あぁ、魔力って言うのは、分かり易く言えば精神力。厳密に言えば違うらしいけど、心に思った物を生み出す力らしいから、精神力って覚えておくのが一番楽だって父さんは言ってた。因みに言うと、魔銃なんかを使わないでそれをするのが魔法で、魔法を使う人達の事は魔術師ウィザードって言うよ。

 なーんて考えてる間に魔力のチャージ終わり。それじゃあ、盗賊団退治を始めようか。


「バレットセレクト、エア。よし、行ってみようかな」


 ゼファーは魔力弾だと下手したらこの屋敷を吹き飛ばしちゃうし、実弾は使えないとすると今回はお休みだね。

 それじゃ、エウロスだけで頑張ってみよう。マシンガンだから撃ちまくるんだけどね。


「!? なんだこのガ」

「はいさようならー」

「うがががが!?」


 エウロスから撃ち出された空気弾が盗賊に次々と当たり、そのまま壁に叩きつけられて伸びちゃった。じゃ、お邪魔しまーすっと。

 ……うん、中に入ったらいきなり盗賊達と鉢合わせーじゃなくて良かった。うーん、拐われた女の人達と、持って行かれた物は何処にあるんだろ?

 とりあえず進んでみるしかないね。撃っちゃった分の弾を補充して、何時でも撃てるようにしながらね。

 今はゼファーを持たないから、エウロスを両手で持てる。集弾率も上げられるから一丁でもなんとかなるかなぁ。狙い撃ちが必要になる場面が来ないといいけど。

 お、っと……今廊下を盗賊が歩いていった。危ない危ない、余計な戦闘は避けないと、すぐに弾切れになっちゃうや。

 あ、魔力弾も少しの間ならリロードしなくても銃に込めっ放しに出来るよ。10分くらいならリロード要らずだろうね。それを過ぎちゃうと銃から魔力が霧散しちゃうからまたリロード要るけど。

 これをなんとか出来れば魔銃の状態もグッと使い易くなるんだけどなぁ。まぁ、贅沢は言っても仕方無いよね。

 ん? あれ、誰かの声がする。なんだか、誰かが騒いでるみたいだな。行ってみようか。

 声のする方へ進んでいくと、声だけじゃなくなんだかジャラジャラって金属が擦り合わさるような音まで聞こえて来た。一体何が、っていうか誰が居るんだろ?


「くっそー、これ解きなさいよぉ!」

「うるせぇ! 解いたらまたお前暴れるだろうが! 黙って大人しくしてやがれ!」

「あ……女の子、かな? 手錠に足枷かぁ、酷い事するな」


 お淑やかには全く見えないけど、ブロンドの髪が綺麗な女の子が盗賊達に捕まってた。んー、でも町の女の人じゃないかな? グリーンノアに女の人があの子だけとも考え難いし、多分違う気もする。

 でも……うーん、あの子、助けるべきかなぁ? あの子助けちゃうと盗賊に僕の事バレるよね。どうしようかな。

 やっぱり助けてあげようか。放置しておいて、盗賊達から酷い目に遭っても見つけちゃった僕の夢見も悪そうだし。

 盗賊の数は三人。あれくらいなら、エウロスの連射で倒せるでしょ。やってみようか。


「はーい、皆さんこんにちは」

「ん? !? だ、誰だお前!?」

「知らなくていいよ。じゃ、さようなら」


 断末魔の悲鳴を挙げながら、盗賊三人は空気弾の餌食になりましたとさ。ちゃんちゃん。

 なんて冗談を思ってないで、女の子を助けてあげようか。まずは話掛けてみよう。


「大丈夫? こいつ等に変な事されなかった?」

「……」


 あれ? なんか凄ーく警戒されてる? いや、いきなり目の前に現れて銃を撃ちまくれば警戒もされるか。

 これは、まずは僕の事を軽く言わないとダメそうだね。警戒を解かないと話も出来ないよ。


「僕はクリティ。グリーンノアの町長さんから頼まれて、君達を助けに来たんだ」

「……グリーンノア? 何処そこ?」

「えっと……この近くにある町なんだけど、あれ? 君、町の娘じゃないの?」

「あたしは、ここに居る盗賊団を追ってきただけよ? まぁ、油断して捕まっちゃったんだけど」


 あ、ならこの子はやっぱり救助対象じゃなかったのね。うーん、なら無理して助けて損しちゃったかなぁ。


「……ねぇ、お願いがあるんだけど」

「その手錠とかを外してって言うなら、もうちょっと待ってて。ここの盗賊を倒したら戻ってくるから」

「それじゃダメなの! 私は、この盗賊達のお頭に聞かなきゃならない事があるんだから! 解いて!」


 うっ、これはこのまま放置して行ったら騒ぐね、この子。しょうがないなぁ……邪魔にならないといいけど。


「わ、分かったよ。解いてあげるから、大人しくしててよ?」

「ここの盗賊を倒して、そのグリーンノアってところから拐われた人達を助けるんでしょ? 手伝ってあげてもいいよ」

「いや、うん、そういうのはいいよ。盗賊の頭とは話させてあげるから、君は大人しく……」

「貸しを作るのは嫌なの! 手伝うったら手伝う!」


 うぅ、なんか結構面倒な子だよ……。もういいや、なるようになるか。何かが無いように僕が立ち回ればいいんだし。

 んーとこの子の鎖の鍵は……あった、見張ってるなら当然さっき倒した盗賊達が持ってるよね。これで、よしと。


「やった! はぁ〜、窮屈だったぁ」

「良かったね。それじゃ……」

「ちょっと待って。一人では行かせないからね」

「えー……」

「えっと、クリティだっけ。ここまで来るのに、青い宝石のはめ込まれたガントレットとレガースって見掛けなかった?」


 うぅ、服を掴まれちゃった。んー……ガントレットとレガースねぇ? 今までは見掛けなかったかな。だって、そこの机の上にあるし。


「それって……そこにあるの?」

「え? あー! そうそうこれこれ! 良かったー、これを持ってかれてたら面倒なところだったわ」


 見つけた途端に身に付けちゃった。っていうかずっとこの部屋に居たのに気付かなかったの? 捕まってからそんなに時間経ってなかったのかな?

 へぇ、身に付けた感じ、どうやらこの子の物で間違い無かったみたいだね。ぴったりだ。


「よし、これで盗賊なんてあたしの敵じゃないわ。お待たせ」

「え、それであいつ等と戦う気? あいつ等、銃を持ってるんだよ?」

「銃なんて当たらなければただのガラクタよ。あたしの武器は、この拳と足! 装備があればどんな相手にも負けないわ!」


 捕まっておいて何を……なんて言ったら大変な事になりそうだから止めておこう。拳と足って事は、この子は拳士ストライカーって事でいいのかな? 女の子のストライカー……大丈夫なのかな?

 まぁ、前衛で戦ってくれるのは僕もやり易くていいんだけど、っていうか名前くらい言ってもいいんじゃないかな。って居なーい。僕に一息吐く時間を下さいお願いします。


「ほら何してるの? 行くよ?」

「あ、う、うん!」


 一応部屋の出口で待っててくれました。しょうがないし、僕がサポートして行こう。あまり無理しないでほしいけど、無茶しそうだよね、この子。

 で、警戒もしないでずんずん進んでいく女の子の後をついて行く状態です。無鉄砲ってレベルじゃないよね? えぇー……。


「ん? あ、お前!」

「ちぇいやぁ!」

「ほげぇ!?」

「よーし、捕まってたからウズウズしてるし、今のあたしはちょっと強いわよー」


 うわ、容赦無い右ストレートで盗賊が倒された。……拳士としての腕前は悪くないみたいだね。これは、少しは頼ってもいいかも。

 その後も盗賊に見つかる度に拳士の子が殴り倒していくから僕は楽です。魔力の節約にもなるし、大助かりだね。

 しかし、かなり可愛い子なのにこの実力とは、世の中って不思議だなぁ。何処かのお嬢様ですって言われたら信じちゃうよ正直。


「! クリティ、あそこ」

「ん? あれは……」


 あ、女の人達だ! 縄で縛られてはいるみたいだけど、乱暴はされてないみたいかな。一安心ってところだね。あ、町から奪った物もここにあるみたいだ。

 でも流石に見張りも厳重だなぁ。いや、この子も居るし力押しで行けそうかも。


「数は……10人ね。行ける?」

「僕は行けるよ。君は?」

「問題無し。なら、やろうか!」

「うん!」


 二人同時に飛び出して、拳士の子が向かったのとは逆側に居る盗賊達に狙いを付ける。あの子に不意打ちなんかされると面倒だしさ。

 エウロスから放たれる空気弾が盗賊達を飲み込んで、尽く撃ち倒していく。やっぱり制圧力ならゼファーよりエウロスだね、連射性が拳銃とマシンガンじゃ大違いだよ。

 逆に一発の威力が欲しい時はゼファーにエウロスは適わないけど。こう考えると僕の持ってるハイブリットは二丁とも役割がきちんと分かれてて扱い易いのか。

 と、どうやら向こうも終わったみたいだし、これでこの部屋は確保だね。


「余裕余裕。へぇ、クリティもやるじゃない」

「あのね、君を助けたのは誰さ? やれなかったらそもそもこんな所来ないよ」

「だ、誰だい!? 子供みたいだけど……」

「あ、皆さんグリーンノアの方々ですよね? 町長さんからの頼みで、皆さんを助けに来ました」


 事情を話すと、どうやら皆安心してくれたよ。縄を外して回って……12人か、一緒に行動するには数が多いかな。

 だとすると、退路を確保してから出た方が良さそうだね。これまでで相当数の盗賊は倒したし、もうそんなに残ってないと思うし。


「じゃあ、皆さんはここに居る盗賊を縄で縛り上げて少し待っていて下さい。そんなに掛からずにケリは付けられると思いますんで」

「用心するんだよ? 全く、町長もなんでこんな子供達にこんな事を頼むかね。あたしゃ情けないよ」

「んー……あたし違うんだけど、いいのかな?」

「まぁ、いいんじゃない? 後は退路の確保を手伝ってくれる?」

「オッケー。……それにしても、盗賊の頭は何処に居るのよ。ここまで入り込んだのにまだ姿を見せないなんて」


 うーん、多分何処かで待ち伏せしてるんじゃないかな? これだけやったら流石に侵入者が居るのは気付いてるだろうし、気付いてなかったらそれはそれでどうなの? ってなっちゃうよ。

 さて、待ち伏せされてるとしてもやる事は変わらないんだし、ここから抜け出せるように頑張ろうか。ここからだと……何処が一番外に出るのに近いかな?


「んー、ここってもう正面エントランスの近くね。そっちから出るんでいいわよね?」

「え、そうなの? なんだ、わざわざ裏口から入ったのが遠回りになっちゃったなぁ」

「まぁまぁ、そのお陰で私を先に助けられたんだし、こうして手伝ってるんだから結果オーライでしょ」


 ……まぁ、正面から乗り込んでたら、最悪僕は君に気付かずに町の人達を救出してただろうし、君的には結果オーライだったろうね。

 とりあえず、脱出は正面エントランスからでいいか。多分、そこで盗賊の頭が待ち伏せしてる可能性が高いけどね。倒しちゃえば問題無いでしょう。

 って事でエントランスまで来ました。……ざっと見、誰も居ないかな? でも階段があるから二階もあるみたいだし、僕達の頭の上に居そうかな。


「誰も居ないかなーっと……」

「! クリティ!」

「おっと! やっぱり居たね!」

「何? 避けやがったか」


 わざとそーっと入って様子を見たら釣れたよ。ふぅん、他の盗賊は銃を持ってたけど、お頭は剣士ソードマンか。ちょっと危なかったかな。

 でも状況は僕達が有利かな。なんて言ったって、拳士の子と挟み撃ちの状況に出来たし。おまけに僕の得物は銃、間合いとしてもこっちが有利だね。

 エウロスを盗賊頭に向けながら、ゼファーも引き抜いて構えた。盗賊の頭と戦う以上、もうバレないようになんて言う必要も無いだろうし。


「なるほど、ガンナー気取りのガキとさっきのストライカーの娘か。随分と俺達のアジトで暴れまわってくれやがったようだな」

「あんた達が先にグリーンノアで暴れたのが悪いんだからね。それが無かったら僕はこんなところに来る事無かったんだから」

「ようやくじっくり話が出来るようになったわね。さっきは油断してお仲間に気絶させられちゃったけど、今度はそうは行かないからね」


 あ、やっぱりこの子が捕まったのってそう前の話じゃなかったんだ。ならもう少し遅かったらこの子も危なかったのかな? 助けてから考える事でもないけど。

 うーん、挟み撃ちでもなんだか余裕があるのが気になるな。僕達が子供だから油断してる? まぁ、拳士の子も僕と同じくらいみたいだし、油断されてもおかしくないけどね。

 でも、油断してくれてるならそのまま倒せばいいだけだし、こっちとしても助かるんだけどさ。そう簡単に行くかなぁ?


「降参するなら今の内よ。もっとも、降参したって足腰立たなくはするけどね」

「ふん、ガキが一人増えようが俺様の敵じゃあねぇよ。大人しくしてれば、良い値で売れそうな娘だから痛めつけずに売り払ってやったのによぉ」

「僕は眼中に無し? 傷付くなぁ」

「はっ! そんなデカい銃をお前みたいなガキが使いこなせるってのか!? よせよ笑っちまう! 過ぎた玩具を持ったってガキはガキだろうが!」


 あの、そのデカい銃を僕が右手だけで持ってるのには無反応? これでももっと小さい頃からエウロスにも触らさせられてたんだから、少なくともあんたの部下達よりもずっと上手く使えるってば。

 もういいや、喋るだけ時間の無駄だね。あの子はこいつに話があるって言ってたし、完全に気絶させない程度に手加減して倒しちゃおうか。


「……バレットセレクト、メタル! 喰らえ!」

「!? うぉっ!?」


 銃の弾丸を実弾に戻して、まずはゼファーで先制の一撃を放った。真っ先に向けたエウロスを撃ってくると思ってのか、それとも本物の銃だと本当に思ってなかったのか相当驚いてるな。

 ゼファーの初撃は避けられた。なら、エウロスで追撃だ。


「当たると蜂の巣だ、必死に避けなよ!」

「くっ、馬鹿な、どっちも本物の銃だと!?」


 あ、後者だったのか。しかしエウロスの弾幕を避けられるとは、結構素早いな、こいつ。

 まぁでも、これで牽制の役割は十分でしょ。今僕は一人じゃないんだ、もう一人にも頑張ってもらうとしよう。


「あんたの相手は、その子だけじゃないんだから!」

「うぉっ!? こ、この野郎!」


 拳士の子が飛び込んで、盗賊頭に殴りかかった。連射を一旦止めて、あの子と盗賊頭を挟める位置にまた移動しよう。

 おぉ、剣に飛び込んでいく勇気も凄いけど、ガントレットで剣を弾きながら互角に渡り合ってる。あの子、ストライカーとしてかなりの手練だって事は認めるよ。


「調子に……乗るんじゃねぇ!」

「おっと、させないよ」

「ぐぉっ!? この、糞ガキがぁ!」


 あらら、振りかぶった剣を撃ち落したら怒らせちゃったか。まぁでも得物は落としたしもう怖くはないかな。

 ん? 懐から何か……! 不味い!


「死ねぇ!」

「うわっと!? 銃なんか隠し持ってたのか!」


 部下が全員持ってたんだから、頭のこいつが持っててもおかしくないか。でも口径も小さい本当の拳銃だね。まぁ、当たれば不味いのに変わりは無いけど。

 なんとか飛んで来た弾丸は避けて、体制を立て直す。ふぅ、危なかった。


「! その銃……ちょっと! その銃何処で手に入れたのよ!」

「うるせぇ! うるせぇうるせぇ! ガキの癖に舐めやがって……殺す、どっちのガキも殺してやらぁ!」

「あちゃぁ、頭に血が昇り過ぎてハイになっちゃってるよ。ごめーん、やり過ぎたかも」

「うーん、これじゃあ話も聞けないか。おっとっと」


 あーあー、あんな小さい銃を乱れ撃ったって、すぐに弾切れ起こすだけなのに。あっ、案の定6発撃ったら弾切れ起こした。馬鹿だね、間違い無く。

 あ、今度は銃を捨てて剣を拾って斬り掛かってきた。……最初はもう少しやるのかと思ったけど、所詮盗賊って事かな。程度が知れたよ。

 どうしようか? 頭を冷やさせるにしても実弾で撃ったら仕留めちゃいそうだし、空気弾だとこの無防備に撃ったら多分気絶させちゃうだろうしなぁ。……ん?

 あれ、あの子のガントレットとレガース……光って、る? あの子は目を閉じて瞑想するような感じで、拳を合わせてる。……少し僕が盗賊頭を引き付けてようか。


「死ね、死ねぇ!」

「何て言うか、ここまで来ると無様だね。こんなのが頭をやってる盗賊団ばっかりだったら旅も楽だろうなぁ」

「……雷鳴を纏って、ブラウエクレール!」

「! あのガントレットとレガース……魔装具だったのか」


 魔装具って言うのは、魔銃の武器防具バージョンって感じかな。持ち主の魔力を与える事で魔法を起こせる装備の事。あの魔装具が起こせるのは、どうやら電気みたいだね。

 青白い電流を纏ったガントレットとレガース、かなりカッコイイかも……あ、なるほど、付いてたあの青い宝石が、多分魔力を電気に変換してるんだな。

 準備が出来たあの子が、駆け出して盗賊頭に一気に近付いた。とりあえず、心の中でご愁傷様って言っておこうか。


「さっさと頭を冷やしなさーい!」

「ぐぼぉばばばばば!?」

「うわぁ、えげつないなぁ」


 電撃を纏った拳が的確を顔面を捉えて、そのまま殴り抜いた。……あれ大丈夫? 気絶したんじゃないの?


「し、しび、しびびれ……」

「ふぅ。悪党成敗慈悲は無し、ってね」

「あ、気絶してないや。えっと……お見事! でいいのかな?」

「あはは、ありがと。クリティも時間稼いでくれてありがとうね。それと、お疲れ様」


 あら、分かってたのか。……こうして笑った顔、凄く可愛いなぁ。さっきまで戦ってたのが嘘みたいだよ。


「さて、と」

「あぁ、こいつに聞きたい事があるんだっけ。この銃が関係してるの? ……見たところ、特殊な銃ではないみたいだけど」


 さっき盗賊頭が捨てた銃を拾って見てみたけど、ありふれた回転式拳銃みたいだけどな。


「持つところに、熊みたいなコインが填ってない? 多分間違い無いと思うんだけど」

「コイン? エンブレムの事かな。……あ、確かにそれっぽいのは付いてるね」

「やっぱり……それ、貸してくれる?」

「貸すも何も、あげるよ。僕には必要無いし」

「ありがと。こら、起きろ! あんた、この銃何処で手に入れたのよ!」


 この変貌っぷりである。なんかこう、スイッチみたいなのがあるのかな? この子の中で。

 あ、盗賊頭の奴そっぽ向いた。負けたのになんて女々しい……僕もちょっと手伝おうかな。


「大人しく答えなよ? この世とさよならしたくなかったらね」

「ひっ! わ、分かった言うよ! だからその銃下ろしてくれ!」

「……答えなよって、僕言ったよね?」

「ひぃぃ! こ、コートを着た男に、くれてやるって言われて貰ったんだ!」

「コートの男! その男、何処へ行ったの!?」

「その後はどっか行っちまったよ! それ以上は知らねぇよぉ!」


 ふむ、この子が聞きたかったのはそのコートの男の事みたいだね。


「もう、使えないなぁ。……絶対に、絶対に逃がさないんだから」


 ……どうやら、立ち入った理由があるみたいかな。これ以上は関わらないでおいた方がいいか。


「あ、ごめんお待たせ。次はどうするの? 帰るのはこれで大丈夫よね」

「え? あぁ、さっきの人達を連れてグリーンノアに帰るよ。その後、町の男の人達とこいつ等を捕まえて終わりかな」

「そっか。じゃあ行こうか」

「え?」

「えって、どうしたの?」

「いや、こっちはもう大丈夫だから、君は君の事を優先してくれていいよ?」

「あぁ、それはそれ、これはこれ。一度手伝うって言ったんだから、最後まで手伝わないと気持ち悪いしね」


 いや、別にそういう義理堅さを発揮しなくても、もう片付いたんだからいいんだけど……。

 あぁ、やっぱりこっちの言う事を聞く前に行っちゃうのね。はぁ……本人がやるって言うんだからいいか。


 それから、グリーンノアに帰って、今度は男の人達を連れて盗賊のアジトにトンボ返り。なんか少し減ってるような気もしたけど、頭を含む盗賊達は一網打尽にしたよ。逃げていったであろう盗賊達も、流石にもうすぐには悪さも出来ないでしょ。

 それで、町長さんからお礼として少しのお金を貰って、この町の宿で一泊させて貰える事になったよ。ま、人助けの役得として受け取っちゃおう。って事で宿に入ったんだけど……。


「いやー、あたしもただで泊めて貰えちゃうなんて、君の事手伝ってよかったー」


 なんでこの子まだ居るの? しかもなんで同室なの? 訳が分からないんだけど。


「ん? どうかした?」

「いや、あの……君、いいの? 誰かを追ってるんでしょ?」

「うーん、そうなんだけど、折角タダでベッドで寝れて、おまけに食事も出来る機会を棒に振るのも勿体無いなと思って」


 あ、それには同意するよ。こんな機会なんて滅多に無いだろうし、確かに勿体無い。お金は使わなくていいなら使いたくないもんね。


「でも凄かったなー。クリティ、よくそんな大きな銃を片手で使えるね。私とそんなに違わないように見えるけど、幾つ? 私は15!」

「あぁ、それなら同い年だよ。銃については、物心着いた時には父さんに扱いを教わってたから、慣れかなぁ」

「へぇー。ジャケットビシッと着て銃を構えてるの、結構サマになってたし腕の良いガンナーだなぁって思ってたんだ。そっか、もっと小さい頃から銃を扱ってたならその腕も納得」

「そう? ありがとう」

「でも、あたしも師匠にストライカーとしての技を仕込まれてきたからなかなかだったでしょ?」

「うん、かなり頼りになったよ。それに最後のあれ、そのガントレットが電気を纏ったの。あれカッコ良かったよ」

「そ、そう? なんだかそんなに褒められると照れちゃうな……えへへ」


 ……これが、ギャップって奴か。本当、戦闘中とは別人みたいに良い子だよ。あれかな? 戦闘になると気分が高揚してあんな感じになるって事なのかな?

 って、大事なところそこじゃないよ。そもそもまだ僕、この子の名前すら聞いてないよ。名前も知らない子と同室で宿泊って、僕にはハードルが高過ぎるってば。

 しかも格好がこう、シャツの上にベストを着て、下はショートパンツだけっていうね……ストライカーだから動き易さ重視だって言うのは分かるけど、なんというか露出が多いようなそうでもないようなってモヤモヤする格好だから余計気になると言うかなんというか。

 と、とにかく名前だけでも聞かなきゃ。呼び方も定まらないとか本当に落ち着かないから。


「あ、あの……そろそろ落ち着いたから聞いていいかな?」

「ん? なぁに?」

「君の、名前」


 ……あれ、なんで固まるの? もしかして、自分が名乗ってないのに今まで気付いてなかったとか?


「……あたし、クリティに名乗ってなかったっけ?」

「うん、全く聞いてない」

「ごめん! あたし、セリナ! セリナ・フォーピース! よ、よろしくね!」

「えっと、僕も改めて挨拶させてもらうね。僕は、クリティ・フォーマー。よろしく」


 僕から差し出した手を、セリナは迷う事無く握り返してくれた。こういう握手込みの挨拶って、本当に久々にした気がするよ。


「あー失敗したなぁ。まさか名乗ってもいなかったとは……なのにあたしはクリティの事呼び捨てにまでしちゃってて、本当にごめん!」

「そんなに謝らなくていいよ。別に気にしてないから」

「……本当?」

「本当本当」

「あぁ、良かったぁ」


 表情がコロコロ変わって、見てて飽きない子だねセリナって。こういうのを感情表現豊かって言うんだろうなぁ。

 さて、ようやく名前も聞けたところで大事な話をしようか。主に、なんで同室なのかって辺りを。


「それで、セリ……」

「おーい英雄達ー! 夕食の用意が出来たぞー! 降りてこーい!」

「夕食だって! 何か話があるならその後にしよっ! さ、行こうよ!」

「え、あ、う、うん……」


 な、なんてタイミングの悪い……しょうがない、セリナの言う通り、食べた後に話すとしようか。部屋を移るの、その後でも間に合うよね?

 セリナに手を引かれるままに部屋を出て、その先にある階段を降りていく。わぁ、下は酒場だって聞いてたけど、なんだか随分賑やかになってるなぁ。


「お、来たね今日の主役二人が」

「あ、バムさん。……ん? 主役って?」

「町を救ってくれた英雄達を称えて、ささやかながらのパーティーを、って事らしい。用意されてる料理は、各自自由に取っていいそうだよ」

「本当!? やった、クリティ食べよ! 食べないと損だよこれは!」

「そ、そうだね」

「……君達、知り合いって訳じゃないんだろ? なんだか妙に仲良くないかい?」

「な、なんと言うかあの子が積極的というかなんというか……」


 なんてバムさんと会話しようとしてたらまたセリナに拉致されました。あの、落ち着く時間を下さい。

 まぁ、折角だし今は料理を食べる事を楽しもうか。バムさんの話通りなら、僕とセリナがこの主役らしいし。

 ……で、散々食べてお腹も一杯になってまた部屋に戻ってきましたよっと。美味しかったなぁ。


「はぁー、美味しかったぁ。後はお風呂入って寝るだけね」

「それなんだけど……セリナ、いいの?」

「え、何が?」

「いや、なんでか僕と同室になってるけど、このままでいいのって」

「……あ、本当だ」


 それも気付いてなかったの!? なんかちょっと抜けてる子なのかな?


「まぁでもいいかな。ずっと師匠と一緒に寝泊りはしてたんだし、そこまで気にしないよ」

「そ、そう……」


 うぅ、これで部屋を変えてって言ってくれればすぐに移らせてもらったのに、そんな事言われると切り出すタイミングが……。


「それに、少しクリティとも話してみたかったし。丁度良いかな」


 無くなりました。完全に潰されました。なんか僕興味持たれちゃった? 話してみたいって、なんだろう?

 自分が居た方のベッドに、なんでかセリナは乗って正座で座ってる。ちょこんと座ってるのが不覚にも可愛いと思っちゃった。


「えっと……クリティはさ、この町の人、じゃないんだよね? なら、旅してるの?」

「うん。結構気ままな一人旅」

「旅の目的とか、あるの? 何処へ行こうとしてるとか」

「んー、その目的を探す旅の途中って感じかな。生まれてこの方、父さんとずっと旅して生きてきたからさ」

「あれ? それじゃあそのお父さんは何処に?」

「もう居ないよ。これが、父さんの形見」


 整備もしなきゃいけないから、エウロスを背中から前に持ってきた。日々の手入れを怠ると、後々が大変になるからね。


「そ、そうなんだ……それじゃあお母さんは?」

「母さんの形見は、この銃と僕自身ってところ。僕を産んで、亡くなったんだって」

「あ、その……ごめん」

「いいよ。まぁそんな感じで、頼る宛みたいなのも知らないから、旅を続けてる感じかな。僕は」


 ゼファーも抜いて、軽く整備を始める。まぁ、そんなに負担を掛けるほど撃ってないから、磨いたり不具合が出てないかチェックするだけでいいかもだけど。

 それにしても……自分から聞いてきてしょんぼりされると、どう反応するべきか分からなくなるなぁ。こっちからセリナの旅の目的を聞くのは地雷っぽいし、別な事聞こうかな。


「じゃ、じゃあさ! クリティは差し当たって何かしなきゃならないって事は無いのよね?」

「うん? まぁ、そうなる、かなぁ」


 なーんて思ってたらまた話しかけられるんだよね。あぁ、これはそういう事かなぁ。どう返事しようか?


「なら、お願いがあるんだけど……」

「一緒に旅してくれないか、とか?」

「え!? なんで分かったの!?」

「こっちの旅の目的を聞いてきてのお願いなんて、それくらいしかないでしょ?」

「そ、それもそうかも……ダメ、かなぁ?」


 うーん、ここまで来ちゃうと、流石にセリナの旅の目的を聞かざるを得ないか。あの盗賊団に詰め寄る感じ的に、相当な事があるように感じるけど……。


「答えるにしても、君の旅の目的を聞かないと、返事のしようも無いんだけどな」

「そう……だよね……」


 歯切れが悪いところを見ると、言い難い事なのかな? どうにしろ、話してくれないならそこまで。事情も分からない相手と旅するなんて、リスクが大き過ぎるよ。

 とは言っても、俯かれたままって言うのもなんだか悪い気がするしなぁ。どう思うかは分からないけど、選択肢だけは提示してあげようか。


「言い難い事なら、無理に言わなくてもいいよ。ただ、流石にそれで一緒に旅するって言うのはちょっと無茶だけど」

「……あたし、人を追ってるの。私の師匠を……殺した相手を」


 あぁ、話す事にしたのね。そして不意打ちに不穏なワードが飛び出して来たな。師匠を殺した相手を追ってる……それ即ち仇討ちって事だろうね。


「殺した相手、ね……」

「うん……本当にその人が師匠に何かしたって言うのは言い切れないし、私は会った事も無いんだけど」

「? どういう事?」

「三週間前になるかな……バーンスレッドって町、クリティは知ってる?」

「バーンスレッド? んー……確か大分離れたところの、火山が近くにある町だっけ? 聞いた事はあるかな」

「うん、合ってるよ。あたしと師匠は、そこに居たの。師匠が、旧知の知り合いが居る筈だから会いに行くって言って……」


 言葉を一旦止めて、セリナはぐっと何かを我慢するような表情をした。泣きそうなような、悔しさを堪えるような、そんな顔。……一旦手を止めて、きちんと聞こうか。


「自分だけで会いに行くって言って、あたしは町の宿に残されたの。顔を見せて、少し話をしたら戻るって、師匠は言ったから」

「……でも、君のお師匠様は帰って来なかった、かな」


 セリナは何も言わずに頷いた。町の中で堂々ととは、派手にやったものだね。……この町で盗賊相手に銃を撃ちまくった僕が言える事でもないかもだけど。


「町が騒がしくなって、何があったのかなって宿を出てその騒ぎの方へ向かうと……人集りの先で、撃たれて壁に寄り掛かってる師匠を見つけたの」

「撃たれた? 致命傷だったの?」

「胸に一発、お腹に二発。あたしが見つけた時、まだ息はあったの。あった、のに……」


 胸と腹か……腕とかならともかく、内臓のあるお腹や胸にそれだけ受けたら、致命傷になってもおかしくないか。


「駆け寄ったあたしにね、師匠は笑い掛けたの。ごめん、俺はここまでみたいだって。もう、諦めてるように」


 苦痛に顔を歪めないで、笑って、か。セリナに最後に見せる顔を、苦悶の表情にしないようにかな。ちょっとやそっとじゃ出来ないよ、それは。

 よっぽど、セリナを大事にしてたんだろうな……なんだか、僕の父さんに似てる気がする。

 父さんが最期に言ったんだ。残して逝く奴は、残す奴に対して未練や後悔を残すんじゃなくて、最高の笑顔を残していくもんだ、って。そう言って、父さんも僕に笑い掛けながら亡くなったんだ。


「誰がこんな事したのって聞いても、師匠何も言わなかったの。お前は気にするな、これからは自分で生きていくんだぞって。それだけ言って……」

「亡くなったんだね……」

「……気にするななんて、出来る訳ないよ。どうして師匠が死ななきゃならなかったかも、誰がやったかも分からないんだよ? あたしは、納得出来ない」


 大切な人が殺されてるんだ、セリナの言う事は最もだね。それで納得出来るって人を僕は寧ろ見てみたいよ。


「だから、絶対に見つけ出すって決めたの。師匠を、殺した奴を」

「仇討ちの為に?」

「うん。それと、そいつが師匠から奪っていった物を取り戻す為に」

「奪われた物?」

「師匠、亡くなった時に肌身離さず持っていたペンダントと、お守りだって言って持ってた拳銃を持ってなかったの。落とすような物じゃなかったし、きっとそいつが持っていったんだって思った。そして、それは正しかった」


 ? 正しかったって? あ、まさかあの銃!?


「この銃、師匠が持ってたのなの。ここに来て、あの盗賊のお頭があれで人を脅しながらあのアジトに帰ってるのを見掛けて、本当に驚いたよ」

「そうか、それで君はあのアジトに」

「乗り込んだって訳。この銃をあいつが持ってたって事は、ここまで師匠を殺した奴は来たって事。折角見つけた手掛かり、取り戻せて本当に良かった……」


 取り戻した拳銃を、セリナは本当に大事そうに見つめてる。……型番が同じ拳銃って線もあるにはあるんだけど、あんな熊のエンブレムが付いた銃を僕は他に知らないしなぁ。その辺は、セリナの記憶次第だろうし、口出しする事でもないか。

 でも、仮にあれがその銃だとしても、手掛かりって言うにはちょっと微妙なんじゃないかなぁ? あの盗賊に銃を渡したのがその仇だとも言い切れないし、そもそもその仇が銃を持ち去ったとも言い切れないしさ。


「これが、私の旅の目的。今探してるのは、この人」

「ん、写真? 結構古そうだけど」

「師匠が持ってたものなの。えっと、バーンスレッドで会おうとしてたのは、この人」


 八人の人が肩を組んで写った写真、女の人も三人くらい写ってるそれの中の一人をセリナは指差した。ふぅん、髭面の結構がっしりした人だね。


「この人が、師匠が撃たれた日からバーンスレッドから居なくなってるの。それまでは居たのを町の人から聞いたから、その町に居たのは間違いないわ」

「ふむ、それはかなり怪しいね。古い知り合いが会いに来た日に居なくなった人、おまけに会いに行ったその人が撃たれて亡くなるなんて、何か繋がりがありそうだけど」

「うん、だからまずはこの人を探すのが、目下の目的。盗賊のお頭がコートの男って言ってたから、きっと!」

「それは少し答えを急ぎ過ぎだよセリナ。まだ、その銃を持ってたのがその人かも、君の師匠を撃った人物かも分かってないんだから」

「でも、でも! 今はこれしか手掛かりが無いの! これしか!」


 立ち上がって、僕に詰め寄りそうになったセリナの口に指を当てさせてもらった。熱くなる気持ちは分かるけど、ここは冷静になって貰わないとね。


「ご、ごめん、なさい……」

「大事な人の仇の話だもん、熱くなる気持ちは分かるよ。ただ、今は少し冷静に考えよ。ね?」

「うん……」

「まず、セリナの目的は分かったよ。そこで聞くんだけど」

「うん、何?」

「そこで僕を旅の仲間にしようとするその心は?」


 だって、正直僕はその仇とやらの事も知らないし、今までの話の中で僕を仲間にしようとする理由に繋がるような内容も無かったしね。

 で、また何故かセリナは口篭っちゃった。それになんか微妙に恥ずかしそうにしてる気もする。どういう事?


「えっと、その……こ、ここまでなんとか旅して来れたんだけどね? お金の事とかご飯の事とか、殆どの事は師匠任せで旅してたから色々大変で……い、いや、師匠から旅の事は一頻り教わってるんだよ!?」

「でも、自信無いんだね?」

「じ、自信が無いと言うか! ほ、ほらね? 転ばぬ先の杖を用意するのって大事でしょ?」

「……自信、無いんだね?」


 呆れ気味に僕が更に追求すると、目をうるうるさせながらやっと頷いたよ。流石に分かるってば、今までの話の流れで。

 なるほどねぇ、旅の初心者だから、一応の旅の先輩である僕に頼ろうとしたと。まぁ、あながち間違った判断ではないけどね。


「うぅ〜……」

「そんな目で見られてもねぇ? ……僕への報酬は?」

「え?」

「えって、まさか報酬も無しで僕に旅に同行を求めたの? 旅をするのだってお金掛かるし、君が目的を達したとしても僕には一文の足しにもならないんだし、何かしらの報酬が無いと割に合わないでしょ?」

「そ、それは、その」

「何も考えてなかったんだね」


 だから目をうるうるさせたって僕には効かないってば。泣き落としで揺らいでたら、一人旅なんて続けてられないよ。


「あのねぇ、世の中そんなに甘くないよ? 今回はたまたま上手くここに泊めてもらえて、なおかつ食事もタダで取れたけど、こんなの本当に希な事だよ? 普通何をするにしてもお金掛かるんだからね?」

「だってぇ〜、あたしもう殆どお金なんて持ってないよぉ〜」

「まさか、さっき町長さんに貰った分しか所持金が無い、とか?」


 うわぁ、頷いちゃうの? さっき貰ったのが僕と同額だとしたら、銅貨50枚? 三日もしたら無くなるよそれ?


「……正直、どうするのこれから?」

「……どうしよう」


 これさぁ、もう選択肢無いよね? このままこの子放っておいたら、まず何処かで行き倒れになるよ。

 だから君は子猫か何かですか? 僕の膝に手を付いて涙目で訴えかけたって、さっきから効果無いでしょうに。


「はぁ……もぉ、しょうがないなぁ……しばらくが僕が立て替える形で旅する事になるのかな。僕だってそんなにお金無いのに……」

「じゃ、じゃあ!」

「はいちょっと待って。放っておくと行き倒れそうだから力は貸してあげてもいいけど、報酬は貰うからね」

「うぇ!? で、でもあたし、払えるものなんて……」

「無いんでしょ? だから、何か考えておいて。後払いで我慢するからさ」

「う、うん! 分かった!」

「あまり変な物は受け取らないからね?」


 僕も甘いなぁ。まぁ、ここまで事情も聞いちゃったし、しょうがないよね。


「あはは、これからよろしくね、クリティ!」

「うん、よろしく」


 嬉しそうに僕の手を取る人が現れるとはね、今まで思った事無かったな。僕が助けた人とか、基本的にお礼は言ってくれるけど、大体皆怖がっちゃうんだよね。

 これで当面はセリナの旅を手伝うのが、僕の旅する目的か……。仇の手掛かり探しとかも手伝う事になるよね、やっぱり。

 そうすんなり行きそうには無いけど、手伝う以上頑張ろうか。……具体的な仇討ちの相手も、まだ分かってないけどね。はぁ……。

 とにかく今晩は休んで、明日からの旅に備えよう。まずは、何処に行けばいいだろ? 次の町を目指してみようか。



「それで、君は二人旅になったと」

「まぁ、そういう事で」

「それは惜しい事をしたなぁ。そういう事だったら、昨日の晩に誘えば良かったよ」

「自分の護衛を、ってところですか? 馬車旅なんかした事無かったし、それはそれで受けても良かったんですけどねぇ」


 それに、そっちにはきちんと契約金が出てた筈だしね。僕の今の契約主は、どう考えてもしばらくは契約金の支払いなんて出来そうにないし。

 そもそも契約の支払いがお金って決まった訳でもないしね。本当、一晩過ぎてから冷静に考えて、割に合わない仕事だよ。

 あぁ、因みに今は僕だけ先に宿から出て、セリナを待ってるところ。朝の準備が忙しいらしいよ、女の子は。それを除いても、まさか着替える時に同じ部屋に居る訳にはいかないし。

 それで、ついでに宿に泊まっていたバムさんが出て来て今話してたって事。まったく、セリナはまだかな?


「お待たせ! いやぁ、何着ていこうか迷っちゃって」

「……なんか、色しか変わってないんじゃない?」

「そうだよ? 同じのしか持ってないし」


 それで散々迷ってたの? な、なんだかなぁ。いやまぁ、本人が納得してるならいいんだけどさ。

 それに服の事については僕も人の事言えないけどね。いつも着てるジャケットとジーンズが、殆ど一張羅みたいに何着もあるだけだし。こう、慣れちゃうよ他の着ると違和感あるんだよね。


「まぁ、いいか。それじゃ、行こうか」

「お二人さん、君達はこれから何処へ?」

「とりあえずは次の町へ。……バムさん、知ってたりしません?」

「えっと、クリティ君は逆から来たんだから、これから向かうとしたらサンズコールかな。セリナちゃん、だっけ? 君が行ってないのなら、イースクリフも選択肢としてはあるけど」


 イースクリフか、僕がグリーンノアに来る前に居た町だね。時期によっては、色々な花が町中に咲き乱れるっていう綺麗な町らしいけど、今時期がまだ早いらしくて、普通の町だったよ。ちょっと残念だったのを覚えてる。

 んー、基本的にこれからはセリナの旅の手伝いが僕の主な仕事だし、ここはどっちに行くかセリナに選んでもらおうか。


「セリナ、君はどっちに行く? 僕はそれに従うよ」

「サンズコールとイースクリフ、ねぇ? どっちの方がいいんだろ?」

「なんで聞き返すのさ……うーん」


 イースクリフに居たのは、もちろんセリナと出会う前だからしてセリナの探し人の事なんか知らなかったし、情報集めに戻るのも悪くないけど……。


「人を追っているというのなら、サンズコールの方をお勧めしておこうか。あの町には汽車のターミナルもあるし、この辺りから遠くへ行こうとするのなら誰しも立ち寄る場所だ。行って損は無いと思うよ」

「……だってさ」


 バムさん、良い合いの手をありがとう。それならサンズコールに行くので間違い無いでしょう。はっきり言って、イースクリフはそんなに大きな町じゃなかったしさ。


「よし、それならサンズコールってところを目指そう。街道沿いに行けば着くの?」

「あぁ。というか、君は一体何処から来たんだい? サンズコールもイースクリフも知らないとは……」

「あたし? クロスビレッジってところから真っ直ぐにここまで来たけど?」

「は? クロスビレッジ? それって……街道沿いに来れば、ここまで一ヶ月は掛かるよ!? え、セリナが旅を始めたのって三週間前って言ってよね!?」

「そうなの? まぁ、ここまで町とか無かったし、殆ど足も止めないで来たからね」


 え、えー……もしかしてこの子、とんでもなくサバイバルセンスとバイタリティある? 街道沿いじゃなく真っ直ぐここまで来たって事は、荒野とか森とか突っ切って来たって事になるんだけど。

 まさか、バーンスレッドからクロスビレッジまでも? い、いや、あそこは確か、両方を行き来出来る汽車があったな。多分それに乗ったんでしょ。……乗ったんだよね?

 ど、どうしよう……もしかしたら僕、とんでもない子の旅に同伴することになっちゃったんじゃ……。

 い、いや、考えるのは後にしよう。サンズコールまでの道すがらでも話は出来るし、その間に聞ける事は聞いておこう。なんか、確認しなきゃならない事がかなりありそうだし。だ、大丈夫、かなぁ?

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