ハルト
予想通りの反応をされた。
まあ、そうだろう。
別に本当の事は知らなくていい。
「お前、本当に殺したのかよ…。」
「ああ、紛れもない真実さ。」
俺は一生憎まれていた方が良いんだ。
「でもさ、父親は殺してないんだな?」
「…!!!」
目を見開いた。
鋭くも思いやりのある目がこっちを真っ直ぐ見ていた。
「何か理由があったんだろ。」
ああ、どうしよう、今何か言ったらそれと同時に涙を出しそうだ。
落ち着きを取り戻すために深呼吸をする。
「…母が、家族全員、いや、主に愛しい父親と無理心中しようとしたんだ。」
そう、俺とアキトは父親のフェイク。
父親以外、アイツはいらなかったんだ。
「それでアキトを助けるために殺したのかよ…!」
「そうだよ。」
ユウトは何か言いたげな顔をする。
言うなら、言えば良いのに。
「お前、何も悪くねぇじゃん。」
「はぁ?」
「だ、だってさ、お前がそのとき行動しなかったらお前もアキトは死んでたんだろ?言い方は悪いかもしれねーけどさ、最小限に抑えたんだろ?アキトを守りたかっただけなんだろ?」
なんなんだよ、こいつは。
…俺の事、知ってるみたいに。
何も、知らないのに。
バカなのに。
…全部、わかってる。
「お前、ムカつくな。」
「は、はあ!?せっかく俺は真面目に考えてるのに!」
そう、こんなにも俺のために真面目になる奴なんて、馬鹿な人間しかいない。
馬鹿な人間が俺の周りには、増えてしまったのか。
正直に言うと、ちょっと動揺している。
俺以外で真実を知る人間ができてしまったんだ。
一口コーラを飲む。
やはりお茶が飲みたかった。
「あのさ、俺、アキトになんて言えばいいかわからないんだ。」
やっと、相談できる相手ができた。
…できてしまった。
「正直に言えばいいんじゃねーの?」
「アキトには、親の本当の姿を知って欲しくなくてさ。」
そう、あの醜くも残酷な母の顔を。
狂気にまみれた母の顔を。
「それで言ってないのか」
「知らない方が幸せなこともあるんだよ…。」
本当、知らない方が幸せだったんだろう。
俺は薬を飲まされ、父と母とアキトと、死んでたんだろう。
でも、サエと出会えないのは嫌だな。
理不尽な世の中だ。
「でもさ、ハルト。お前が思ってるほどアキトはお前の事、憎んでないぞ。」
「…?」
「ちゃんと、お前は兄貴だよ。」
意味がわからない。
でも、なんとなくほっとした。
それと同時に全て吐き出してしまいそうな気分になる。
今まで、ためこんできた物を。
それをなんとか、抑え込む。
「まさか、お前に相談する日がくるなんてな。」
「俺もまさか殺された奴とこんなに話す日がくるなんて、思ってなかったよ。」
屁理屈め。
謝りなんかしない。
「これ以上いるといろんな個人情報を聞かれそうだ、帰る。」
「な、んなことしねーよ!!!」
俺は席から立ち上がるとコーラを一気に飲み干す。
喉がヒリヒリと炭酸の痛みを受ける。
「ユウト。」
「なんだよ」
「ありがとう。」
言い方がわからないから、どうにも真正面をむいて言えなかった。
感謝の言葉を使うのは苦手だ。
「うっ…」
逃げるようにコーラの空いた入れ物をゴミ箱に捨てる。
帰ろうとしたところで肩を掴まれた。
「あのさ!」
「何。」
まだ話す事があるんだろうか。
「あんまり、一人で抱え込むなよ。」
「えっ…」
「俺がいるし、カナもいる、時人も雪もいるから!」
「……そうだな。」
自然と笑みがこぼれた。
嬉しいのか、バカバカしいのか、泣きそうなのかわからない。
でも、悲しいという気持ちはなかった。
夕暮れが、終わりを告げる。
渡せなかった花束を野原に置いた。
「来年は、きっと君に会いにいってみせるから。」
いつもより、肩が軽くなった気がした。
誰かの呟いた待ってるなんて声が、聞こえたのかもしれない。