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老人とくま〜ポートレイト イン バンクーバー〜

作者: 谷村浩樹

向かい側の道では奴が本を並べて売っている。どれが売れる本でどれが売れないのかは全く分からないがたまに足を止めて手にとって見る人もいる。その中でも本を買っていく人はせいぜい一時間に一人ぐらいのものだ。しかし、元がただということを考えればそれでも十分商売になるのだろう。

 同じようにして周りには何人か空き缶やペットボトルを集めて売っている人間も居る。彼らが稼ぎ出す金もろくな物じゃない。

 もう少し経てば300ドルが入ってくるのだ。それだけあれば何とか一月暮らしていけるはずだ。

 私がやることといえば、目の前に帽子を置き小銭を入れる人間を待つことだ。私に小銭をくれる人など一日に4人とか5人、それもほとんど決まりきったメンバーだ。


 その中の一人がやってきた、いつもと同じ5時5分。彼女は何も言わず5セントを投げてよこす。なにか嫌なことがあったのだろうか?

どうせいつものことだ、あんなに太っている老婆を魅力的に思う人間など一人もいない。


いつの頃か私は目を閉じればいくらでも眠れるようになった。疲れているからだろうか?


気が付いたときには夜も更けまわりはすっかりと暗くなり風が冷たくなっていた。


見慣れない、とてもきれいな少女が私に何かをくれる。ケーブルカーのチケットだ。


少女「おじさんに似た熊がグロースマウンテンに居るのよ。もしよかったら来てみない?」

少女2「キャス、そんな人に構っているとあなたの美貌が吸い取られちゃうわよ。」

少女「分かった?絶対に来てよ。」


 そう言い残し、その場を去っていく少女たち。彼女たちは笑いながらその場を去っていく。


 2、


 翌朝、老人は目を覚まし、ゆっくりと寝袋から出てくる。関節が痛むのだろうか?しきりに体を叩いている。

彼はやがて、持っていた寝袋を畳みリュックの中に居れ立ち上がり歩き出す。

駅のエスカレーターの下で待ったいる老人。周りでは駅員が注意深く周りを見渡している。


やがて、一組のヒスパニックの親子連れがやってきた。母親は持っていたチケットを大きな黄色いゴミ箱の中に居れ駅から去っていく。

老人は、駅員の見ていない隙にそのチケットを拾いエスカレーターに乗り、プラットホームへと上っていく。

ちょうど、電車がホームに入ってくる。老人はその電車に乗り込み空いていた座席に座り込む。

彼は臭うのだろう。隣に座っていた30歳ぐらいのアジア人の女性は席を立ち、違う席へと移っていく。

老人は黙って窓の外を眺めている。雲ひとつ無い快晴。窓の外にはダウンタウンとグロースマウンテンが見える。


終点の駅に着く。老人は持っていたリュックを背負い電車を後にする。エスカレータに乗って地上に出ようとすると警察が切符の点検をしていた。ポケットから先ほど拾ったチケットを取り出し警察に見せる。彼らは何も言わず、老人を通す。


彼はフードコートに行き、何か食べる物を探すようだ。一つの席に食べ残したベーコンとパンがあるのを見つける。老人はそれと別の座席からコーヒーを持ってきて朝食にする。


食べ終わった後、彼は立ち上がりシーバス乗り場へと歩いていく。待っている人々。誰も彼に近づく人はいない。


船がやってきてみな乗り込む。老人は進行方向の山が見える方向に座る。

出発する船。窓の外にはいろいろな景色が見える。


船は船着場へと到着する。老人はその中の一台のバスに乗り込む。バスの外で雑談をしている運転手たち。やがて、一人がバスに乗り込み、エンジンを掛け、バスを発車させる。


山を登っていくバス。周りには高級そうな住宅街。後ろを振り返ると先ほど通り過ぎたダウンタウンや、駅を見ることが出来る。


やがて、バスは到着して乗客たちはバスを降りケーブルカーの乗り場に向かっていく。

そこから見える景色、先ほどよりもさらに高度は高くなって街は小さくなって見える。


 ケーブルカーに乗り込む乗客。老人も乗り込む。そこから見える景色、さらに小さくなっていく街。過ぎ去っていく風景。


 ケーブルカーは到着して降りる乗客、老人も降りていく。


 彼は少女に言われたとおり熊を探す。やがて隅のほうに檻が見つかる。その中にいる熊。毛並みが汚く、ところどころはげていて、口はだらしなく開き、よだれが垂れ、目はにごっている。座り方が汚く、檻からは動物の匂いが漂ってくる。


 老人はその前のベンチに座り黙ってくまのことを眺めている。

 やがて観光客がやってきて檻の中に餌を投げ込む。熊はゆっくりと起きてきてその餌を手に取り食べる。そこには何も無い。ただ与えられた餌を食べているだけ。危険の無いように去勢されているのだ。

 彼のことをかまうことは誰もいない。子供連れの親子さえも最初は興味を示すが余りにもつまらない存在なのですぐに檻の前から立ち去ってしまう。


 人通りが多いので老人は山の中に入っていき、リュックから寝袋を出し、その中に入って眠ってしまう。


3、


 いつの間にか夜になったようだ、どれくらい時間が経ったのだろうか?

自分が今、山の頂上に居ることを忘れてしまう。風が強くものすごく寒い。寝袋から出てもとあるケーブルカーの乗り場へと戻っていく。


途中に熊の檻があった。檻の真ん中で不恰好に眠りいびきをかいている。


リフトは既に運転が止まっていた。仕方が無いので空いている小屋に入る。警報機もならず、鍵もかかっていなかったのでそのまま小屋に入ることが出来た。

周りには多くの食べ物が残っていた。いろいろな酒もタバコもある。ここにいればなかなか美味しい物が食べれるだろう。寒さもしのげるし、実にいい場所だ。明日の朝、中乗員が来るのは何時ぐらいだろうか?リフトが動いたのを見て森の中に入れば大丈夫だろう。


酔いを醒まして小便をするためにに出て熊を見ている。餌を持っていってやると起きてきて餌を食べ、隅のトレイから水を飲む。彼がここにいる限り寂しくは無いだろう。

見てみると先ほどまでいた町が見えた。随分と小さく弱い光になって見える。途中に見えた家々も今の高さからは全くたいしたことの無い高さだということが分かる。

彼らよりも俺のほうが高いところに居るんだなあ。

もう少し、ここで住んでみよう。なんていっても私は彼らよりも高くに住めるのだ。


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