そんなこと絶対にない
次の電車がくるまであと一時間。俺はとりあえず駅の案内を眺めていた。
「キングー」
女の子の声がした。どう考えても自分を呼んでいるに違いなかった。八千代が向こうからやってくる。
こんなところまで追いかけてくるのか。
と心の中で悪態をつく。
息を切らして現れた彼女は何故か顔が真っ赤だった。おそらく慣れない運動のためだろう。
「…その、あの、今まで、その…えーと、私はあなたのこと…を……す…」
あれ、いつもはっきりものを言う彼女が今日はなかなか言わない。なんかおかしいなぁ。す、と言ったきりいっそう顔を赤らめてしばらく無言だった。俺はもどかしかった。さっさと言うことあるならはやく言ってどこかへ行って欲しい。
「大丈夫か。顔真っ赤だけど」
「…す、砂嵐に巻き込まれて死ね!」
彼女はそう叫んで走っていった。みるみるうちに見えなくなった。
呆気にとられる俺の背後に近づく人がいた。
「今の誰?」
友人の川田なすびである。
「クラスメイトだよ」
「ついにキングに彼女かと思ったのに」
話しながらずっとゲームをしている。人の目を見て話せよ。
「八千代に限ってそれはないよ。だって毎日会うたびにねちねち文句言ってくるし、すれ違いざまに睨むし、おかしな理由で殴ってくるし」
彼女の悪行は枚挙にいとまがない。八千代が俺に好意を持つなんてあり得ない。しかしなすびは満面の笑みで、
「よかったな!キング。その子きっとキングが好きなんだ!」
「だから、それはないって今言っただろ」