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私はあなたが好きでした  作者: 珀桃
あの人の想い
18/20

連れ去られた八千代

その日の八千代は浮かれていた。アンナとミーシャも一緒だがキングとデートをするからだった。場所は近所のアミューズメント施設だが、それでも楽しみだった。しかし彼女は思ってもみなかっただろう。まさかこの日が18年間生きてきてその人生史上最悪の日になろうとは。待ち合わせ場所でドキドキしながら三人の到着を待っていると、一番にアンナが来た。

「八千代。キングとラブラブになろうだなんて許さないから!」

「別にそんなこと思って…ないもん!」

向こうの方から誰かが走って来た。

「レディースアーンドジェントルメン!あ、ジェントルメンは俺だけか!川田なすびここに見参!」

なすびが突然現れ、呆気にとられる女二人。

「呼んでない!」

「何で来たの!」

さらに向こうから男二人。今度こそミーシャとキングだ。ふとした拍子にミーシャの鞄がゴツンとキングの頭に当たった。

「痛っ!その鞄なに入ってるの?」

「まあ、いろいろとね」

ミーシャは言葉を濁した。それからキングは何故かお呼びでないなすびがいるのに気がついた。

「あれ?俺、お前に絶対来るなって言ったのに何でいるの?」

「ひどいな、キング。俺たちの友情ってそんなものなの?」

なすびは目をうるうるさせているが、まあ演技だろう。そのときだった。ここにいる人間は誰も気づかなかったが、スーッと後ろのエレベーターのドアが開いた。そこから、幸せそうな5人を不気味に見つめる人間がいた。


不幸のどん底に叩き落としてやる。


それから5人はアイスクリームを食べたり、クレーンゲームをしたり、映画で感動して号泣したり、嫌がるキングを無理矢理お化け屋敷に連れて行ったりした。お化け屋敷から出てきたキングはやつれていた。キングはとにかくお化けが苦手だった。やつれたキングを八千代がからかった。

「キングったら、あんな作り物にびびってチキンなんだから!」

「八千代のその顔久々に見た…」

「八千代ったら、キングをいじめられてすごく嬉しいくせに」

今度はアンナが八千代をからかった。

「そ…っ、そんにゃわけあるかぁっ!むかつくからゆってんのぉーっ!うれしいとかそんなん違うもん!」

八千代以外の5人は図星だな、と思っていた。

「ねえ、俺、トイレ行って来る」

キングが恐る恐る言って来たので、八千代が図に乗った。

「あ!キング、びびりすぎて…」

皆まで言う前にアンナが八千代を羽交い締めにした。

「こら、そんな事言うな!私もトイレに行く!」

結果的に八千代以外の全員がトイレに行ってしまい八千代は一人取り残された。トイレの前にあるベンチで座って4人の帰りを待つ。


「すみません」

八千代が顔をあげると、そこには眼鏡をかけ、帽子をかぶった女性が立っていた。

「地下駐車場の入り口、何処にあるか分かりますか?」

「それなら、この道を真っ直ぐ行って左に曲がってエレベーターで降りて…えーっと…どうだったっけ…一緒に行きましょう!ちょっとなら時間ありますから!」

八千代は口で説明するよりついて行く方が早いと判断し、地下駐車場に行くとアンナにメールをした。

「本当?助かるわ!」


 八千代と女性は地下駐車場の入り口にやってきた。

「あの、ここです」

「ありがとうございました!」

「じゃあ私はここで」

「待ってください!私、お礼をしなくちゃ!わざわざついてきてもらったんだから!」

女性に手を引っ張られ、駐車場の中へと入って行った。やがて一台のワゴン車の前まで来た。

「三崎さんだったかな。ありがとうね」

女性が突然、アンナの名字を言ったので八千代は驚いた。

「アンナの知り合いですか?」

「あれ?あなた三崎さんじゃないの?」

「私、如月八千代です。三崎は友人です」

それを聞いて女性は苦虫を噛み潰したような顔をした。そして今までの優しそうなイメージからスイッチを切り替えたかのような凶暴な声で言った。

「あの野郎、また、嘘つきやがったな…!」

八千代はようやくこの女性と一緒にいるのは危険だと気がついて逃げようとしたが、もう遅かった。

「もうあなたでもいい。あなたを殺せばあいつにショックを与えられる。自分のせいで何の関係もない友人を巻き込んだってね!」

「あなた、もしかして、梨子さ…!」

八千代はその瞬間、梨子に殴られて意識を失った。


 意識を失った八千代を抱えてワゴン車の後部座席に横たえると、梨子は運転手を睨みつけた。

「ねぇ、どうして嘘つくのかな。ハナのときもそうだけど…私の事思ってやってんならやめてちょうだい。中途半端な協力なんかされても困る…と言いたいけどね、マーくんなしじゃミーシャを見つけられなかったし、そこは感謝してる。」

梨子はいったん言葉を切った。運転手は何も返事しない。

「返事してよ、マーくん。それともこっちの呼び名の方がいいのかな?」


運転手が梨子を見た。


「田丸先生」


***


 トイレから戻ったら八千代がいなかった。地下駐車場に行くとメールがあったが、なんか胸騒ぎがする。なんで地下駐車場に行くのだろう?車でなんて来ていないのに。しかもここから地下駐車場は10分とかからない所にあるのだが、30分経った今も来る気配がない。

「八千代、もしかして私の身代わりで連れさられたんじゃ…?」

アンナはわなわなと唇を震わせた。八千代を一人にすべきではなかった。まさか何の関係も無い友人まで巻き込むとは全く考えていなかった。自分の考えの浅はかさに呆れてしまった。いや、待てよ。もしかして梨子は私と八千代を取り違えたのかもしれない。

「何だよ、身代わりで連れ去るって」

なすびが質問してきた。

「ストーカーなのに、ストーカーする相手の顔も知らないのか?」

「実は梨子と対面したのは、鏡花さんに誘拐された時が初めてなの」

アンナは重い口を開いた。

「でもさ、協力者はアンナと八千代の区別くらいできるだろ?高校の人間なんだろ?」

「それは何でか私にも分からないよ…でも、許せない。八千代は何の関係も無いのに…!」

アンナは憤った。とにかく八千代を救わねばならない。

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