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私はあなたが好きでした  作者: 珀桃
深まる三角関係
14/20

何があったか言いなさい

 キングの部屋で八千代はキングに病院で鏡花を見たことを話した。

「鏡花ちゃんに恋人がもう一人いる?!」

キングは八千代から衝撃の事実を聞いて震え上がった。違うと思いたかったが、八千代から証拠として二人が抱き合う写真まで見せられては反論のしようもなかった。キングは鏡花の言葉を思い出した。

(なんか運命みたい)

(あなたみたいな素敵な人といると時間が早く感じられる…)

(兄の礼音よ)

(どこ行くの?)

そして騙されてほいほいと鏡花にお金をあげる自分。

全部、嘘だった。あの笑顔はすべて自分ではなく、自分の金に向けられていた。

「まあ、キングに女を見る目はなかったのよ。私じゃなくて恋愛詐欺師の女を選んだんだから…」

キングに嘘八百を並べ立ててまんまとお金を騙し取った鏡花のことを八千代は恋愛詐欺師と揶揄した。

「じゃあ…もしかして、母が病気で治療費のために50万が必要で、ないと故郷に帰らなくちゃいけないから二人のためにも50万ちょうだい、というのも嘘だった、と…」

「50万円?!アンタ頭おかしいって、絶対!そんな大金、いくら彼女でもポンと出すものなの?…まあ高い授業料ね、御愁傷様」

八千代の言うとおりで、キングは何も言い返せなかった。そして、ふと目の前の女が自分に気があることを思い出した。たとえけんかしているといっても、わざわざこんなことを教えるために来るということはまだ自分を好きでいてくれているのでは、と思った。だから抱きついた。

「ちょ、ちょっと!」

案の定八千代がじたばたと抵抗した。

「私はアンタのこと、許してないからね!」

八千代は顔を真っ赤にしてもがいている。

「俺だって、八千代のしたことは許せないけど、鏡花ちゃんのことがつらくて、つい抱きついちゃって、…でも、八千代!嫌なら突き飛ばせよ、いつものように!」

八千代の抵抗がやんだ。力が抜けていくのが分かる。顔を見ると耳まで真っ赤にしている。様子が変で何だか怖くなったキングはこう言った。

「でも、今気づいたんだけどさ!八千代って案外胸あるんだね!」

言った瞬間、彼女から平手打ちされた。


ようやくキングの腕から逃れた八千代はあるものに気づいた。ベッドの下から本が覗いている。

「これ、キングの読んでいる本?」

何気なく手に取った瞬間、キングの顔色が変わった。

「それは!」

八千代の手から本を奪おうとしたキングの努力むなしく、八千代は本をめくった。自分と同じようなポニーテールを黒いリボンでまとめた美少女が、何やらいかがわしいことをしている。

「これは…何かな?」

さらに奥からどんどん出てくる似たような容姿の女の子の同じような本。

「それはなすびが俺にくれて…」

八千代の顔がどんどん汚いものでも見るかのようにひきつっていく。

「まあ、そういう人だよね。キングは。しょうがないよね」

「そんな哀れみの目をこっちに向けるな!」

恥ずかしくなってキングは強気に言い返した。すると、八千代の様子が変わった。しおらしい乙女にでもなったかのように、

「…私がいるのに、そんな本を読むなんて…恥ずかしいけど私でよかったら、今晩一緒に…なんて言うわけないだろこの馬鹿が!」

最後の部分でいつもの八千代が戻ってきた。

「じゃあ俺床で寝るから八千代はベッドで寝たらいいよ」

時間はとっくに午後10時をまわっていた。

八千代はベッドに潜り込んだ。


 目をつぶると先程自分を襲ったレイプ魔のことを思い出して、なかなか眠れない。そっとキングの方を見た。どうやらまだ眠ってないらしい。同じ変態でもこちらの方が幾分ましか、いや同じか。八千代はそっとベッドから抜け出した。ひたひたとキングに近づいて耳元で囁いた。

「あ、あのさぁ…私、さっきのこと思い出して怖くて眠れなくて、その…一緒に寝てもいい?」

キングは目をぱちくりさせた。

「さっきは言うわけないって言ってたのに?」

「だって、あのレイプ魔のことを思い出して怖いもん!キングだってお化け怖いでしょ!それと同じだもん!」

「床、寝心地悪いよ?」

「ならベッドで寝よう!ね!」

キングがむくりと起き上がった。

「狭いんじゃないか?」

「…」

八千代がそれでもいいと言わんばかりにキングの隣に潜り込んできた。一人で寝ていたらあのレイプ魔を思い出してしまう。人の温もりが欲しい。

「一緒に寝るのはいいけどさ、俺が狼になったらどうするの?」

「…え?」

「襲ってもいい?」

やっと真の意味に気づいた八千代はどうしようと悩みはじめた。あんなことがあったのによくもまあそんなこと言えるな、という憤りやら、されてもいいかも、という思いやらで八千代は混乱した。そして決心した。


「ねえ!よく聞いて、キング!と、途中までならいい!」


***


 翌日、八千代は何故か昼に登校してきた。そして泣き続けている。何があったのだ、とアンナは不思議に思った。

「八千代。なんで泣いてんの?なんかあったの?」

尋ねてもうつむいて何も言わない。

「そういえば日曜日にキングと会えたの?」

「キング…会えたわ…けど、でも、やっぱりこんなの…私があんなこと言うから…」

意味が分からない。ようやく八千代が昨日起こった事を説明してくれた。


「しちゃったの?よかったね」

「よくない!あんなのよくない!後ね、最後まではやらせてないから!本当に!こういうことは、順序を追ってやるべきなのに、こんなことってないよ…まあ私があんなこと言うからだけど…」

八千代は机を叩いてまくしたてる。

「…まんざらでもなかったでしょう?」

「やだ!違う!あの時の私はおかしかったの!」

「幸せでいいねお二人さんは」

アンナはこないだミーシャに迫った時のことを思い出した。

「アンナはミーシャとしないの?」

「しないわ。健全な高校生だもの。それにミーシャはそういうこと全くできないし」

「え、それって…ミーシャってもしかしてホモとか?」

「違う!なんでそうなるの!」

その時、八千代がアンナの首にぶら下がるネックレスに気づいた。

「それ何?」

「これは発信器よ。万が一に備えて、何かあったら八千代となすびに私の場所が分かるようにしてあるの」

八千代はそれを聞いて、なぜミーシャではなく私となすびなのだろうか、と思った。万が一の緊急事態なら彼氏であるミーシャに真っ先に連絡するのが筋ではないか。それに、万が一って何なんだ?


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