その女の子、生きてるのよ
ピンポーン、と鏡花の家のインターホンが鳴った。来た、と思った鏡花は早速キングを迎えに玄関に降りた。
「上がって。私の部屋、2階だから」
二人は部屋に入った。部屋はピンクのような色で統一されている。
「かわいい部屋だね」
「ありがとう。キング、これ見ようよ」
鏡花が差し出して来たのは映画のDVDだった。いかにもホラーですと言わんばかりの表紙だ。
「これ、一人じゃ怖くって…」
「それってホラー…?」
実はホラー苦手ですとは言えず、鏡花の前でいい顔をしていたいキングは恐怖が喉元までせり上がっていたが押し返した。
「鏡花ちゃん。あれは?」
キングが指差したのは写真だった。鏡花と見知らぬ男が仲良さげにピースしている。
「…あ、あれは、…あ、兄よ!私の兄の礼音!」
本当は兄ではなく友達以上恋人未満という間柄だが、そんなこと言えるわけがなく、ごまかした。幸いにもキングはあっさりと鏡花の嘘を信じた。
「そんなのより映画!早く見ようよ」
映画が映し出された。
「鏡花ちゃん、言わなきゃいけないことがある」
「え?何?」
「俺、八千代のところに行く約束してるからこれ見たら帰るね」
何こいつ、仮にも彼女の目の前で他の女と約束あるって言うのかよ。
「駄目」
映画が終わった。震えるキングとつまらなそうな鏡花。
「思ったほど怖くないなぁ」
「え?そうなの?」
ふと時計を見上げると5時だった。
「鏡花ちゃん、俺帰るね!」
慌てて出る準備をすると鏡花が映画よりもっと怖い顔で睨み、ドアの前に立ちはだかった。
「どこ行くの?行かせないよ」
「すぐ帰って来るから!そこを通して!」
「ねえ、私が好きなら八千代さんなんか諦めて私だけを見て!」
鏡花は自分で言っておきながら、身につまされる思いになった。
***
キングはこない。やっぱりこない。公園の遊具ももう飽きた。ベンチでしょんぼりしている八千代のところに誰かの気配がした。もしかして、キング?期待を込めて見上げるとフードを深く被り、みすぼらしいなりをした男がいた。
「キング?」
「誰だそれは?お嬢ちゃん、そこ僕の場所だから譲ってよ」
「ご、ごめんなさい。座っちゃって」
八千代は立ち上がってそこを離れようとしたが、男に腕を掴まれた。見かけによらず力は強かった。
「悪いことをした子にはおしおきが必要だ。そうだろ」
「え?何するんですか」
きょとんとした八千代の体をベンチに押し倒し馬乗りになる男。八千代はようやく自分の立場が分かった。でも逃げようにも男が腕を万力のように締め上げて来るので逃げられなかった。
「きゃあああ!助けて、助けて!」
ありったけの声で叫んだ。誰かの耳に届くことを期待しているがこの辺りにはあまり人はいなかった。
***
「行かないで!」
鏡花はしつこくキングの行く手を阻んだ。すると女の叫び声が聞こえた。どこかで聞いたことがあるような声だった。
「またあの公園か…あそこしょっちゅうレイプ魔が出るんだ」
鏡花がそう言った瞬間、キングは凍りついた。
「それ、どこの公園?!」
「桜公園だけど…って、ちょっと!」
キングにものすごい力で突き飛ばされて鏡花がよろめいた。その隙をついてキングは飛び出した。
(八千代!)
その八千代はというと、口を塞がれて手も動かせないようにされていた。
「大人しくしていろ、すぐ終わる」
どうしよう、このままじゃ…誰か、誰か、助けて!
「こ、こら!け、警察だ!」
誰かの叫び声が聞こえた。誰かが走って来る。男が舌打ちして逃げて行った。八千代はその誰か…キングに抱きついた。
「来るのが遅い!ずっと待ってたんだからね!」
言葉こそ怒っているが今にも泣き出しそうな顔で見つめて来るのでキングはうろたえた。そこでキングはあることに気づいた。
「八千代、ふ、ふ、服が…」
「何?服…きゃっ!」
八千代の服がめくれて肌が露出していた。
***
これで八千代とキングは和解する。私はもう駄目だ。何のためにあの男と恋人になったのかわからない。鏡花が悩んでいるとまたインターホンが鳴った。キングが戻ってきたのかと思ったが、違った。
「梨子姉さん」
「こんばんは…ケーキを買ったんだけど、一人じゃ食べ切れないの」
「やったぁ、私ケーキ大好きです」
「そうだ。もう一つ鏡花ちゃんが喜ぶ情報があるの。これ、見て」
梨子は長髪の女の写真を見せた。鏡花の知らない人だった。
「この子。レオンと同じケーゼロなの。年も同じ。でも一つ困ったことがあるわ」
「え?ドナーが見つかったんですか?」
「その女の子、生きてるのよ」




