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第九十七話 防衛

もう終わりますけど、よかったら感想くださいっ☆


「そこに、泰助がいるんだな?」


 僕は、全てを把握したうえで張り詰めた声を電話に向けた。威嚇するように息を荒くして対応する。けれど、野雲さんはどこ吹く風だった。


『うん。いるよー? 君が私の家に忍びこんでることも、丁寧に教えてくれたわ。山のふもとで偶然出くわした振りをしたら、話がある、なんて真剣な顔つきで言うの。なんだろうと思って付いていくと『君の両親は一連の事件の犯人だ』なんていうものだから驚いたわ』


 そう言って、彼女は楽しそうにあはは、と笑う。すぐ近くにいるはずの泰助はうんともすんとも言わない。意識がないのかもしれなかった。


 武美山のふもとで泰助を待ち伏せしていた野雲さんは、偶然会った振りをして「自分も荻江先生を探していた」と嘘をついた。一緒に捜索を手伝うといって泰助についていくと、泰助は事件の概要を説明したらしい。泰助自身、もう彼女に猜疑をかけていなかったから、まさかこんな事態になるとは思ってもみなかったのだろう。


 まさか、犯人が野雲さんだったなんて。思いも寄らなかったのだ。それゆえに、おそらく泰助は襲われた。なぜなら、リンゴが好きな少年というのは泰助なのだから。「荻江先生を探していた」というのは全くの嘘で、野雲さんは泰助を襲うために待ち伏せしていたのだ。僕らが学校から抜け出したところから、おそらく野雲さんは付けてきていたのだろう。


「野雲さん、自分がしたこと、分かってるよね?」


『分かってる』


 一応訊いてみたけど、どうやら正気のようだった。つまり、武美山で縛られた竹内も、小川で溺れさせようとしたのも、全て野雲さんが犯人だ。


「何で野雲さんが、そんな馬鹿なことを?」


 僕が尋問するように訊くと、野雲さんは電話越しに深い深い溜息をついた。初めは、呆れからきている種の溜息だったが、やがて溜息のなかに笑いが混じり、やがてその笑い声は溜息を掻き消すように大きくなった。


『あははは! その訊き方じゃあ、まるで私が悪いみたいじゃない。事情聴取を受けてる気分よ。君の発想ってば面白い!』


 野雲さんの声は、こん状況に全く似つかず明るい調子で、見方を変えればそれは狂気的でもあった。


 僕は気が悪くなって「オマエが悪いだろ!」と怒鳴り上げようとした。けれど、それを遮るようにして、『君こそ、事の詳細をわかってるの?』という野雲さんの声があった。


「事の詳細?」


『そうよ。確かに、私がやったことは過剰防衛だけど。やっぱりそれは防衛なのよ』


「ぼ、防衛?」


 初耳だった。防衛ってことは、自分を守ったってことだ。守ったってことは、何かの脅威にさらされたってことだ。脅威の対象は……竹内や産田?


『うん、じゃあ問題。あのヒトたちが私に何をしようとしたと思いますか? 竹内と産田にそれぞれ当てはめなさい』


 そういった彼女は、丁寧にも選択肢を述べた。


『その一、無理やりキスしようとした。その二、いきなり抱きついてこようとした』


 言ってることと裏腹に、野雲さんの声音は明るいままだった。『さあ、どっちが何をしようとしたのかな? うまく考えて当てはめてね?』


 僕には、電話からの声がどんどん遠くなっていくように感じられた。いや、実際に僕は電話を耳から離していたのだ。


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