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第九十六話 両親


 僕は、絶句した。何も口に出すことができなかった。


『やっほー』


 電話に対応するなり僕の耳に飛び込んできたのは、そんな間抜けな声だった。足元を洋服に囲まれた状態で、僕は棒立ちしたまま声の主が誰なのか考える。普通は高尚探偵団の誰かなのだろうと考えるのだろうが、その線も薄かった。


 なぜなら、僕が電話をポケットから取り出した時、携帯画面には『泰助』の文字が表示されてあったからだ。つまり、現在対応している相手側の携帯は泰助のものということだ。


 全員携帯を持っているはずの団員たちが、なぜわざわざ泰助の携帯を介して僕に電話をくれる必要がある? なにか伝えたいことがあるなら、自分の携帯で連絡をくれればいいはずだ。


『んーっ。前にも来たことあるけど、やっぱりこの場所っていいね。私気に入ったわ』声の主は大きく伸びをして、流暢な様子で喋り続ける。まるで僕のことなどお構いなしだ。


「誰?」


 僕は、あらゆる可能性を考慮して、できるだけ敵意が滲まないように言った。


『ええ? 酷いな。クラスメイトの声を忘れちゃうの? 君ってやつは』


「クラスメイト?」


――まさか。


 気付いたときには、もう向こうから丁寧にも名乗ってくれた。


『野雲明美だよ』


 野雲さん。その名前が脳裏をまじまじと掠める。電話だと声の調子が変わっている気がして彼女であることに気付かなかった。


「なんで……学校は?」


『それは、お互い様でしょう?』


 即答で返された。もっともだ。


「じゃあ、なんで泰助の携帯から掛けてきてるんだ? 一緒にいるのか?」


 自然と、携帯を握る手に力が入る。汗で滑り落ちそうだったのだ。


『その質問に答えるのはやぶさかじゃないけど。その前にこちらからの質問に答えてね?』


 電話から聞こえてくる野雲さんの声音は、どこか楽しそうだった。なんでこの状況で、そんなに楽しそうにしていられるのか、僕には理解できなかった。


『いま、君ってばどこにいる?』


「……っ!」


 どうやら、勘付かれているようだ。もしかすると、どこからか監視されているのではないかと思い、すかさず周囲を見渡してみる。しかし、窓はカーテンが掛かっているし、ドアも閉まっている。もちろん室内にも僕意外誰もいない。監視しているわけではないようだった。


『はあ、正直なことを言うと、ちょっと落胆。君だけは紳士だと思っていたんだけどね』


「あ、あのっ、野雲さん聞いて!」


 こうなったら、話すしかないと思った。僕が不法侵入した理由――野雲さんの両親が一連の事件の犯人で、それを捕らえようとしたこと。


『あはは、どうせ野雲さんの両親が犯人だから――みたいなこと言うんでしょ?』


「えっ?」


『無理に決まってるじゃない。お父さんとお母さんは自分の足では椅子からも立ち上がれないのよ? どうやって人を襲うって言うの?』


 見えない犯人、野雲さんの自宅、二つの人形、どこにもいない父母、両親が座っている椅子、野雲さんがこちらの意図を知っている理由。


 色んなものが、頭のなかで渦巻いて、やがて繋がった。


 僕はその場に崩れ落ちる。


 野雲さんの両親は、存在しない。


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