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第九十四話 大声


 僕の携帯番号を知っているのは、泰助だけだ。しかし、よくよく考えてもみれば、僕が所持している携帯電話はアニメ専門家というかオタクの男からの借り物で、

彼を介してなら前期高尚探偵団の誰が連絡してこようとおかしくはない。ただ、僕の電話帳に泰助の名前しか入っていないというだけなのだ。


 ポケットのなかで不貞腐れたように小さな音を立てていた携帯も、ポケットから出してみると、くぐもっていた音が空間に響いた。神経をすり減らしていくような甲高いメロディが延々と鳴り響く。携帯を開いて画面を見ると、そこには見覚えのない数列が並んでいた。探偵団の誰かの携帯番号だろう。


「はい、もしもし?」


 耳をあてがって慎重な口ぶりで訪ねてみる。携帯電話というのは、回線電話と違って掛かってくるときは絶対に自分に対して誰かが用を持ちかけてくるときだ。家で電話を取る時は両親宛のことが多いためさして緊張もしないが、携帯は自分宛であることが決まっているため何となく緊張してしまう。


 耳元から伝わるのは、風が流れる外界の気配と、穏やかな潮騒だ。よく澄まして聴くと、どうやらそれだけでなく、数人の男女が喚きあっている声も遠くに聞こえる。


「おう、こちら星浦……っと分からないか。まあ、探偵団の一員だ。とりあえず現状報告するぞ? 聞こえてるか?」


「あ、はい!」


 電話越しだというのに、意味もなくアタマを下げてしまう。これでは会社の下っ端社員みたいだ。いや、団内では確かに一番の下っ端になるのだから、間違ってはいないか。


 電話越しの星浦は、何かに気を取られながら話しているように投げやりな喋り方だった。無駄に大声なところを察すると、周囲の雑音に負けないように喋っているようだった。


「ええとな、南海岸でお前らの先生を見つけた。正確に言うなら、南海岸から少し離れた浮島の上にぐったり倒れてるところを発見した! たぶん犯人は潮が満ちる前に運んだんだろうが、すっかり潮が満ちて助けにいこうにも海に邪魔されてる。今、近くの家で誰が船を貸してくれるところがないか探してるとこ!」


「あ、了解です! 人手は足りてますか?」


 釣られて大きくなった僕の声が、静かな書斎に響く。


「ああ、大丈夫だ。もうすぐ探偵団全員がここに集合するから。東チームの西チームはもう揃ってるぜ? 北チームは山を捜索してたみたいだから、もう少し時間が掛かるかもな」


「分かりました。こっちもすぐに向かいます」


 僕がそう言うと有無を言わずにむこうから通話は切れた。


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