第八十五話 行ってくる
一人ひとり軽く挨拶だけして、すぐに作戦会議へと移行した。港ばあちゃんが背後から訝しげな視線を送ってきていることも気にせずに、僕らは円陣を組む形で顔を寄せ合った。
「いいか、作戦チームは五つに分ける」
仕切っていたのは、相変わらず金髪の男だった。上目遣いに全員の顔を窺いながら、少し水分の足りないような声を続けた。
「みんな、事件の概要は泰助からのメールで知ってるな?」
イソギンチャクが口の周りについた触手を内側へ揺らせるように、みんながかぶりを振る。
「チームのうち四つは失踪した先生を捜索する、簡単に分けると東西南北だな。北のチームは主に武美山を重点的に探すようにな」
金髪の男がそういうと同時に「じゃあ、俺は西」「私は東ね」と挙手をするものがでてきた。そのせいであっというまに東西南北のチームは埋まり、それぞれ四人ずつが振り分けられた。さすが探偵団というふうな団結力があるチームわけを目の当たりにしていた僕だけが、あっけに捕らわれてチームに入ることができなかった。泰助はどうやら北チームに入ったようだ。
「僕余りましたけど、五つ目のチームってなんですか?」
僕が訪ねると、金髪の男の代わりに泰助が言った。
「もちろん、野雲さんの家へ行って両親を追い詰めるチームさ」
出遅れした金髪の男が、かぶさるように言う。「ちなみに、それには俺も同行させてもらう。さすがに一人じゃあぶないからな」
野雲さんの家に忍び込む。僕には二度目の行為になるけれど、だからと言って慣れや心の余裕があるわけではなかった。
僕たちは早退という例外であり野雲さんはまだ学校にいるはずだ。だから家には野雲さんの両親しかいない。つまり作戦上は何の問題もないだろう。しかし、野雲さんの知らないところで野雲さんの両親を追い詰めるというのは、何だか罪悪感が絶えなかった。
「それにしても、何で僕なんです? 他にもっと適する人はいると思いますけど」
僕が日の光に目を細めるようにして首をかしげると、金髪の男が肩をすくめて横目で泰助を見た。「この馬鹿の意向さ」
ドキっと胸が鳴った気がした。反射的に泰助のほうを見ると、そこには、少しだけいつもより真面目な顔をしている彼が立っている。機を待っていたような表情で、泰助はやがて口を開いた。
「真実が、見たいんだろ」
太陽に薄く雲がかかり、島全体が少しだけ暗くなった。「見てこい、真実を」
泰助の口調からは、何の感情も伝わってこなかった。あえて、泰助がそういう風に言ったのかもしれない。僕は、理由のよくわからない感動を覚えた気がする。
渦巻いていた不安や煩いは風に飛ぶように消え、心が透き通った気分になる。
「ああ、行ってくる」