第八十四話 個性
島ではみたことすらない金髪、人工的に焼いた黒い肌、コンビニ店員の制服、ゴージャスなイヤリング、首に掛けた大きなヘッドホン、パンダのイラストがプリントされたTシャツ、手に提げた紙袋の中のアニメのポスター、火のついていない咥えタバコなど、前期高尚探偵団の集団のなかで色々なものが陽光に映えている。
「富岡先輩! 千治さんも!」
僕は興奮してしまい、子どもみたいに跳びはねた。他にも、中学生時代に関わっていた先輩が何人もいて、昔に戻った気分だった。
「前期ってまとめるなよ。俺は第九期高尚探偵団団員ナンバー5だ泰助」
代表するかのように集団から一歩踏み出した金髪の男――顔は知っているけど、関わりはなかった先輩――がネコのようにじりっと僕らを見ながら言う。口もとは微かに揺るんでいて、なんとなく再開を照れているようにも見えた。
「それにしても、久しぶりだなあ」「いやあ、この島は変わらないね」「でも、みんなはそれぞれ代わり映えしたね」「こうして集合するのは何年ぶりだっけ?」
団体旅行客のように、みんなは島中を見渡している。僕らは見慣れているから分からないけれど、やはりこの島の景色というのは舌を巻くものがあるらしい。数年間本土に身を置いていた先輩たちは、あらためてここの美しさに息を呑んでいる。
背後で、フェリーが出航を始めた。波が海岸に押し寄せる音と共に船のエンジン音が冬の大気を振るわせる。
「なんで先輩たちがいるの? というか、前期ってなんだよ前期って!」
先輩たちの顔を久しぶりに見て上機嫌になっているせいか、僕は笑みながら泰助の肩をどついた。
「呼んだのは、もちろん荻江先生の捜索と犯人逮捕の協力だ。何といっても相手は大人だったんだからな」
昨日、メールから垣間見た多忙な泰助は、どうやら本物だったらしい。おそらく、先輩たちに呼びかけをしていたのだ。泰助は続ける。
「で、言ってなかったけど、高尚探偵団っていうのは一種の伝統みたいなもんで、結構昔からあるんだ。高校入学のとき、当時の団長からたまたま俺に声が掛かって第十三期団長を俺が引き受けたわけだけど、他のクラスメイトは誰も入ってくれなくてさ。唯一勧誘に応じたのがオマエってわけだ」
団員がひとりなんて泰助の代が初めてだからな、そいつは面汚しだぜ、とパンダのTシャツを着た図体の良い男が言う。そして高らかに笑ったかと思うと、すこし真面目な面持ちになった。「しょうがねえから、第七期団長が力添えしてやるよ」
「いやあ、ごめんね泰助君。私も何人か当たってみたんだけど、やっぱりこの人数が限界よ。みんな仕事とかで忙しいみたい」
パンダの男の脇から富岡先輩が白い腕を振った。ロングだった髪がショートに変わり、イメージがぱっと変わっている。富岡先輩はちょうど去年卒業した女の先輩だ。まさか、高尚探偵団だったなんて知りもしない。
「そんな、前期高尚探偵団なんて聞いたこともないぞ……」
僕が呆れたように言うと、富岡先輩は丁寧に答えてくれた。
「まあ、事件なんて何一つ起こらなかったし、誰も知らないのが普通よね!」
なるほど。
確かに、いまのクラスの生徒に僕らが高尚探偵団をしていると知っている人間が何人いることか……。それを考えたら、なんとなく当たり前な気もした。
「僕チンの貸した携帯は役に立ったかなあ?」
ごもごもした青いセーターとジーパンという出で立ちで紙袋を提げた男が、ニヤニヤしながら前へ踏み出してきた。顔を隠すようなメガネのレンズが空の青色を帯びて光っている。紙袋からはアニメのポスター数本と、DVDボックスの表面が見えていた。
「あ、役に立ったよ。助かったっす――でも、もうちょっと借りといてもいいっすか?」
どうやら、今僕のポケットに入っている携帯は目前のアニメ専門家のものらしい。アニメ専門家は薄笑いをやめずに、むしろ一層強めてポケットを探ると、三つの携帯を取り出した。「いいよ、まだまだ代えはあるんだ」
個性の強いメンバーがこうも集まるとは、驚くしかない。
「じゃ、時間もないことだし、同窓会気分は置いといて。さっそく捜査しますか団長」
またもや、金髪男が前へ踏み出した。