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第八話 配水管

七話は少し適当すぎたかな、と反省中。ひどく反省中。


ただし、八話にその反省が表れているかと訊かれれば、肯定はできまい。

 数年間に亘り放置されてきた境界は、悪魔の住む深山もかくやと草木が怪物のように生い茂り、さっさと手入れをしろと他人事ながら思ってしまう。さすがに引っ越してきたばかりでは手の施しようがなかったらしい。


 どこかの家庭で火災が発生すれば、隣家に飛び火し、さらに周囲の住宅にも被害をもたらし、最終的には島全体の住宅が火災で壊滅的になるだろうと危惧されるほど木造建築が普遍的な住宅街なのだ、もちろんコンクリート住宅は珍しく、ひっそりと月明かりに照らされ佇むコンクリートの塊は、確かに異様な空気を放っていた。


「よし。仕方がないから、君が先でいいよ。俺は誰か来ないか見守っておいてやる」泰助はそう言いながら僕を促し、背中を押した。


 僕は力なく、押されるままに敷地へ足を踏み入れたが、「君が先でいいよ」と言われて「ありがとう」と頷けるほど軽い内容ではない。家族間で譲り合われる風呂に入る順番じゃないんだから。


 壁に取り付けられた配水管は、地面から壁を伝うように真っ直ぐと伸び、二階の窓の脇を通ってから屋根へと到達している。管を壁と固定する金具が月明かりに反照して刃物のように輝いていた。


「おいおい、本当にやるのか?」


 二の足を踏んだ僕は振り返って門前に警備員のごとく仁王立ちする泰助の背中に声を投げかけた。泰助はこちらに振り向くこともなく「当たり前だろ」と鼻を鳴らす。


 見知らぬ子供たちが戯れる公園にて「ほら、あんたも混じってきなさい」と母親から突き放された息子のような気分であった。他の子供たちと遊びたい気持ちはあるのだが、親と手を繋いで行動してきた息子としては、空っぽの右手が孤独心をあおって、見知らぬ子供たちと上手くやっていけるのだろうか? 白眼視されないだろうか? と不安になる。


 しかし、やっぱりだめだと母のところへ戻ろうとしても、その母は他の子供の母親と会話を始めてこちらに気も向けない。楽しく戯れる子供たちと、息子には介入できない世間話に花を咲かせている母親らの境目であたふたと二の足を踏む。どうしたらいいのか分からなくなる。そんな気分だった。


「…………」


 だいたい、何で美少女の寝顔を見るために、犯罪に手を染めようとしているのか。もしも、この所業が島中に知れ渡ったら僕は縄でぐるぐる巻きにされて箱に入れられ、『ナマモノ注意』のレッテルを貼られた後にフェリーへ投げ込まれることであろう。もはや、誰からも見送られずに島を追い出されるに違いない。


 絶望的な己の未来を勝手に想像して絶句した。というか、そもそも「君が先でいいよ」って単に危険だらけの茨道で先陣をきらされているだけじゃないか。配水管は壊れていないか、美少女は本当に眠っているのか、その他もろもろ危険はないかを僕で試しているだけだ。「君から先に寝顔を見させてあげる」とでも言いたいように恩着せがましく発言したわりには、さすが低俗探偵の団長というべきか。


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