第七十七話 寂しい
おお、77話ですよ。七ぞろいですよ!
ラッキーですね。幸運だ!
え? 内容はどうかって?
え、なんというか、すごい…………暗いです。
「ホント、もう誰も信じらんねえって感じだよな」
あくびをするような暢気さで、横を歩く泰助は言った。しかし、その言葉の奥には、やはり何かを警戒しているような意思がこもっている。そして、それは僕も同様だった。あの荻江先生が僕らの知らぬところで、あんな行為に及んでいたのだ。もう誰がどんな裏面を持っていようが驚かない。
あれから僕たちは狂気をまとった荻江先生から逃げるように校舎を離れ、もう一度帰路についたのだった。夕闇に押しつぶれそうな町並みを眺めて、黙々それぞれの家へと足を向けていく。
「あの様子だと、荻江先生が犯人ってことはないのかな。野雲さんに対してあれだけ狂った愛情を向けているんだ。もしかしたら、野雲さんの周囲にいる男子を片っ端から潰していっているのかもしれない」
僕は思いつきを泰助に話してみた。しかし、泰助はどうやらもっと前にその線を考えていたようで、「それはない」と断言した。
「産田が襲われた日は職員会議で、アリバイがある」
「……そうなのか」
やはり、コイツはただものではないような気がした。普段はだらしがないくせに、こういう時だけはやけに周到で、抜かりがない。職員会議の日など、よくも覚えていられるものだ。
やがて、僕らは分かれ道にさしかかった。僕と泰助はそれぞれ家の方向が違うため、僕は右へ、泰助は左へ曲がる。学校から二人で帰るときも、いつもこの分かれ道でさよならをした。中学校の頃はお互いまだガキで、さよならの代わりに「馬鹿」とか「阿呆」とかで罵りあっていた。もう僕たちの間柄だけで通用する社交辞令のようなものだったかもしれない。
「んじゃ、またな」
先に手を上げたのは泰助だった。道が二つに分かれている裂け目のところがゴミ捨て場になっていて、ちょうどその前での別れだった。ゴミ捨て場の横に屹立したカーブミラーに歪んだ顔の僕らが映っている。
「おう」
僕も続けて手を上げた。僕は久しぶりに意味もなく泰助を罵ってやろうかとも考えたが、やはりそんな心持にはなれそうもなかった。最近の泰助は、口数も減り、おどけてみせることもなく、ただただ俯いて何かを考えているようになった。何だか、その姿が僕を置き去りに大人の階段を昇っていっているように思え、なんとなく寂しかった。しかし、この寂しさを言葉に出すことはできず、ただ、僕らの距離が広がっていくのを黙ってみているしかない。
今の泰助に罵倒をしたところで、罵倒が返ってくるだろうか。
いいや、たぶん「どうした?」と首を傾げられておしまいだ。
僕は開こうとしていた口を硬く結び、上げていた手をゆっくり下ろした。
「じゃあな」