表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/112

第六十七話 臆病


「なにがっす?」


 大粒の飴玉を思わずゴクリと呑み込んでしまったかのように、産田の表情は強張っていた。反応としてはまさに竹内と同様で、やはり何か裏があるように思えた。


「今日、オマエをここに連れた理由だよ」


 僕は構わずに言った。「野雲さんのことで訊きたいことがある」


 かすかに、産田の腰が持ち上がる。


「な、なんすか。訊きたい事って」


 やはり、おかしい。野雲さんが犯人であるのなら、竹内や産田がなぜこうも臆病な反応をとるのだろうか。もしも彼女が犯人であることを二人が知っていたとしても、それを庇う必要がどこにあるというのか。それに、どちらかというのなら、彼らは野雲さんではなく、自分を守っているようにすら、見えるのだった。


「単刀直入にいうけど、産田は野雲さんにやられたのか?」


 まるで、僕がそういうことを事前に察知していたかのように、産田は「そんなわけないっしょ!」とあごの贅肉をぷるぷる振るわせた。


「誰に襲われたのか、本当に心当たりがないのか?」


 弁当のおかずを品定めするように眺めていた泰助が、一瞥をくれることもなく横から訊いた。「だいたい、あんな物静かな草原で、襲われたのに犯人の顔を見ていないなんてありえるのか? 後ろから誰かが歩み寄ってきたら嫌でも気付くだろう。ましてや犯人には隠れる物陰すらないんだからな」


 泰助の言うことはもっともだった。何もない平原に一匹の牛がいたとして、それを食料とするライオンが背後から近づいていたとする。草木が覆い茂る草原であったならば、藪に身を潜めながらライオンは着々と距離を詰めるだろう。しかし、もしも舞台が隠れる場所さえない平原であったなら、獲物はさすがに気付き一目散に逃げていくだろう。


 泰助がいいたいのは、そういうことだった。


「いや、あの……俺は」


 突然、産田はもじもじし始めたかと思うと口をつぐんでしまった。泰助の指摘に返す言葉がないのだろう。


「正直に言ってくれよ」


 僕はとどめを刺すように、悟らせるような声でいった。


 すると、産田は一瞬何かを言おうと口を開き、やめた。結局はためらってしまったようだった。


「なんなんだよ」


 僕は急かすように産田を促してみたが、それでも駄目だった。まだ何か口を割らせる手はないかと策を練っていたが、その眼前で産田は立ち上がった。


 じっと僕を見る産田の瞳には、いつもの生意気な雰囲気はなかった。臆病な小動物のようで、まるで産田ではない。


「できれば、もうこの事件には探りを入れないでくださいよ。そのほうが、みんな幸せですって。俺も、竹内も、彼女も、そして、多分先輩たちも」


 大量に食べ残した弁当を抱え、逃げるように産田は屋上を去っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ