第六話 茂みの中
何か、またすごいキャラになった気がする。
泰助が暴走しないように、うまく主人公を駆使せねば。
「お母さん? 荷物こっちに積んどいたけど」
僕と泰助の言い合いが終わると同時に、自宅の中から女の声が響いた。どうやら、例の美少女で間違いない。もう一度「お母さんってばあ」と声が聞こえたかと思うと、一階の窓の前を美少女らしき影が通った。胸がどくん、と鳴る。
「髪はロングだな。横顔のラインが綺麗。身長は百六十ぐらいかな?」
隣で卑猥に品定めするような泰助の声が聞こえてくる。一瞬カーテンの前を過ぎただけなのに、そこまで解析できるところは探偵らしいというより変態らしいというべきだ。
「オマエな、あまり目的を踏み誤るなよ。これじゃあまるで、あまりに代わり映えしない島の女子たちに飽き飽きしていたところに美少女が引越ししてきて、やっと訪れた好機であるから他の男子よりも先に関係を持っておこうなどと躍起になったあまりに、脈絡もなく自宅前までやって来てしまった変質者ではないか」
「え? 何が違うんだ?」
泰助が純粋に訊ねてくる。
「いいか。僕たちはあまりに代わり映えしない島の女子たちに飽き飽きしていたところに美少女が引越ししてきて、やっと訪れた好機であるから他の男子よりも先に関係を持っておこうなどと躍起になったあまりに、脈絡もなく自宅前までやって来てしまった健全な高校生なんだ。そこを間違えるな」
僕は『健全な高校生』を強調して言ったが、泰助は「いいや」と首を振った。
「だって俺ら、今から不法侵入するんだぜ? 十分変質者だろう」
「は?」
よくよく考えれば、あいさつに来たというのに茂みに隠れているのは可笑しな話だ。では、なにゆえ茂みに身を潜めているのか。その理由が不法侵入であるというのか。
「じゃあ、ひと段落ついたし、今日はここまで! そろそろ寝るね!」
困惑しているなか、自宅の一階からはそう聞こえてくる。またカーテンの前を人影が通ったかと思うと、一階の電燈は消され、階段を上る足音や、ドアを開ける音が続く。しばらくすると、二階の電燈も消された。
「美少女の寝顔にあいさつしに行こうぜ」
闇の中でそう言った泰助は、低俗探偵団の団長にふさわしいと言える。彼の興奮を表すように、茂み全体がガサガサと震えた。
「そういうことか」
納得できてないくせに、納得した気になってみた。