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第五十六 脇野


「産田のことは教室で話題にもなったし野雲さんが知っていても不思議じゃないけど、竹内がどういう格好で放置されていたかなんて野雲さんは知らないはず」


 僕は、微かに首をかしげた。「なのに、何で俺たちしか知らないはずの光景が、ここに描かれているんだ?」


 このままいけばフクロウみたいに首が百八十度傾げてしまいそうなほど、謎だった。もしも竹内がこのような格好で放置されていたことを野雲さんが知り得たとする。だとしても、それをこういう風に形として残すというのは狂気の沙汰だ。しかも、その絵が妙に子ども染みているだけに、さらに残酷さがある。


――今事件の犯人は、そうとう狂った頭の持ち主だぞ。


 いつか、泰助がそう言っていたのを思い出す。確かに、こうやってデスゲームの結果を描いているのであれば、そうとうな凶悪犯だ。そして、かなり狂っている。だからこそ、野雲さんがその犯人だとは思えないのだけれど。


「ん、ちょっと待て」


 じっと紙に描かれた絵を見つめていた泰助がぼそりと呟いた。彼は五番目。四番目の竹内と産田の絵をなぞるようにして、「これが被害者だろ?」と僕に尋ねてきた。僕がうなずいてみせると、彼は一番目と二番目と三番目を指で囲み「じゃあ、この人たちはなんだ?」と深刻な顔で僕に向きなおった。


「次の被害者候補……?」


「だろうな」


 あっさり肯定すると、泰助は二番目の金を掲げた人間を指差した。一番目のリンゴを持った人と、三番目のタバコを持って眼鏡を掛けている人は検討も付かないけれど、とりあえず僕も二番目の人間は誰だか分かっていた。


「脇野正志だな」 


「だな」


 やはり、答えは一致していた。


 脇野は島では珍しい金持ちだった。本土に勤務している父親が社長であり、そのお金で母親と二人で暮らしているのだ。島の東海岸沿いに大きな豪邸があり、そこが脇野家であった。


 どこまでも傲慢なやつで、妙に物知り気取りになっている。読んでいるところは見たことないが、難しい哲学書をいつも持ち歩いていて、「これは興味深い本だ」と言いふらしているのだった。どんな内容か詳しく教えてくれと意地悪に頼んだことがあったが、「僕の勝手な見解では言えないんだ」とはぐらかされた。まあ、読んでないのだろう。


 好きな子への告白のため、よきつ屋の主人の力も借りたことがあると聞いた。どうやらよきつ屋の移動販売車に乗り込んで、好きな子が買いに来たら、自分の書いたラブレターを見せ付けて「買ってくれる?」と落しに掛かったのである。しかし、そこまでは良かったものの、その好きな子から本当にラブレター代をせびろうとしたらしく、彼は当然のようにフラれた。


 確かに、恨まれそうな奴ではあるけれど。


 まさか、狙われているのか。


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