第五十五話 絵
さあさあ、謎は深まるばかりですな!
さっそく中身を拝見しようと、泰助はお守りの口を結んだ紐をほどこうとしたのだが、案外にも強く結ばれているようで開けるのに手間が掛かっていた。「んぐぐぐぐ」と歯を食いしばりながら力任せに紐の結び目を引っ張る泰助だったが、逆に結び目は複雑な形になるばかりであった。
「貸してみろよ」
カブを引っこ抜くような姿勢で結び目を引っ張る泰助に、横から冷めた声で助力を促したのだが、意固地になっているのか泰助はしばらくその格好を崩さなかった。それから観念して僕にお守りを渡したのは三分後のことである。
「はい、はずれた」
僕はといた結び目を見せ付けるように泰助へお守りを翳した。こういうのは、力任せにやっても上手くいかないものなのだ。結び目がどこをどう通っているのかを確認して、一つずつ着実にほどくのだ。
泰助は面白くなさそうな顔をしていたが、同時に何か納得している風でもあった。
「んで? 中身は?」
泰助に促された僕は、お守りの袋を傾けて、その中身を机上に滑り落した。乾いた音を立てて出てきたのは小さく折りたたまれた紙である。もともとはA4サイズの紙であるようで、お守りに入るサイズまで折りたたまれているから、かなりの厚さがある。何か御札のたぐいのものだろうかと、僕はそれを手にしてみる。
「開いてみろよ」
泰助が横から二の腕を突いてきた。「わかってるって」と羽虫を払うように手で泰助を押しのけ、僕は紙をゆっくり開いていった。紙が一段階と開かれていくうちに、厚さが減少して微かに紙が透けてきた。幼児が描いたお花のような人間の手が薄く見える。手相がなければ花と勘違いしていただろう。
また一段階、また一段階と紙を開いていく。そして、全てを開きを終えたとき、僕はその光景に目をみはった。
「嘘だろ」
彼女を犯人として推定していた泰助さえも、思わずそんな声を出してしまっていた。僕はその一枚絵を手に持っているのも恐ろしくなり、咄嗟に紙を机上に戻す。
紙には、人間が五人描かれていた。昆虫の標本のように右から五体並べられているのだ。しかし、右から三人目まではリンゴのような果実を持った人間、お金を天に掲げる人間、タバコのようなものを持ち眼鏡を掛けている人間と、案外普通の絵なわけだが、四番目と五番目は異常だった。
もともとは四番目も五番目も同じように立ち絵の人間が描かれていたようで、消した跡が見て取れた。けれど、その消した上からまた絵が描かれていたのだ。
四番目は岩のようなものに、ロープで括りつけられ焚き木で頭をあぶられている絵。五枚目は川へ頭を浸からせて倒れこむ人間の絵だった。本来なら何を描いているのか判別がつかないほどぐちゃぐちゃな絵なのだが、その光景を知っている僕らは、一瞬でそれが何なのかを悟った。
野雲さんが何者なのか。僕には分からなくなっていた。