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第五十二話 私物


 完全下校を知らせるチャイムが校内に響き渡っていたとき、僕と泰助は不本意にも身を寄せ合って息を潜めていた。暗闇のなかで肩やら腕やらを密着させて、教室からクラスメイトがいなくなるのを見計らっていたのだ。


「おい、くっつくなよ」


「俺だって好きでくっついてるわけじゃない」


 ひそひそと戒告し合うも、それはこの窮屈な掃除用具入れの内部にさらなる息苦しさを呼ぶだけだった。足場には誰かの不始末で濡れたままの雑巾が放置されており、足元の感触が悪い。密着しているのが野雲さんならまだしも、どれだけ抗おうがそれは妖怪みたいな男子だった。泰助の吐息が頬に触れるたびに鳥肌が立つように感じられた。


「もういいんじゃないか?」


 僕は用具入れの空気口から小さく切り取られた教室の風景を目にする。もう僕の見える視点からだと誰も見て取れない。傾いた日差しが教室に淡い光を放り込んでいた。


「いや、まだだな。こっちからだとあと一人いるぞ」


 思わず鼻を摘まみたくなるような不潔空間から今にも飛び出しそうな僕を制止するように、泰助が服の上から僕の腹を押さえた。どうやら泰助の角度からだとまだクラスメイトが教室に居座っているようであった。


 よくよく考えたら尾行は如何なものかと今さらながら泰助が喚きだしたので、とりあえず下調べがてらに軽い調査を行おうということになった。よって掃除時間終了直後の下校ムードからくる浮き足立った雰囲気にまぎれて掃除用具入れへと身を潜めたのだった。 


 こうして教室から誰もいなくなったら、こっそり野雲さんの学習机へ忍び寄り、中身を探ろうという作戦だった。もちろん、野雲さんの事だからきっちり教科書を持ち帰っていることも考えられたが、美少女の私物を探るという限りなく意味を取違えた男のロマンを泰助が語るので、しょうがなくその熱意に応じたというわけだった。


 もちろん、野雲さんの机に何かが入っていようと、それが犯人である証拠には繋がらないだろうと泰助も言っていた。けれど、もしも野雲さんに犯人という裏の顔があった場合、いつもの表の顔とは違った、いわゆる裏の顔に面した私物がある可能性もある。


 まあ、僕はそんなもの無いと思っているのだけど。


「お、帰った帰った」


 泰助がはしゃぐように言う。


 僕は半分だけ固まった決心を携え、開かれた世界へ踏み込んだ。


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