第四十六話 エプロン
昨日、投稿し忘れていました(汗)
島では珍しいコンクリート住宅とはいえ、リビングの内装はごく普通だった。リビングだけでなく、玄関や廊下、おそらくトイレや二階の部屋だってあまり奇抜とはいえないだろう。
リビングはダイニングキッチンと隣接していて、合わせて十二畳ほどのフローリングされた空間だった。トルコ石のような色をしたソファがテレビと向かい合うように設置され、その間にはガラス作りのテーブルがある。薄黄色の遮光カーテンは閉ざされていたが、微かに残照を漏らしている。その光に当てられて、木造のラックに置かれた外国の風景を捉えた絵画や、丸っこい置時計、小さな鉢から生える観葉植物などがオレンジ色に映えていた。
しかし、その淡いオレンジ色も野雲さんが室内の電気をつけることで、電燈の白い光に塗りつぶされてしまう。それと同時に目に入ったのが、ダイニングのほうに置かれたダンボールの数々であった。丸まった野雲さんがすっぽり収まりそうな大きさのダンボールがいくつか積み上げられている。ソファの端には巨大な人形が偉そうに腰を据えていて、もっと生活に必需なものから整理しろと思うが、どうやらアトランダムに思い立ったものを徐々に引き出しているらしかった。
「どうぞ、座って」
僕は促されて巨大人形と肩を並べてソファに座った。人形はほぼ等身大であったので、横目に見ても十分存在感がある。材質は毛糸だがフランス人形のような出で立ちだった。黄色い毛糸を紡いだ金髪で、赤いドレスを着ている。だいぶ年季が入っているようで廃れていたが、それでもその細密さに感心してしまう。
ふと、人形の目が光ったと思ったら、それは目の部分に取り付けられた黒いボタンが電燈の明かりに反照しているのだった。しょせん人形だとは思ったが、僕はその肌に触れることすらできない。『むやみに女性の体に触れるべからず』という僕の紳士的心得がこの人形にも通用したということである。それほどまでに、この人形には生命のオーラがあったのだ。
「おなかすいた?」
僕が人形に気を取られていると、反対側から野雲さんの声が掛かった。制服のそでをめくって、白い腕を出している。
「いや、今はそんなに」
僕が小さく首を振ると、彼女のそでを捲る仕草がピタリととまった。しかし、すぐにまた動きだし、また笑顔で訊ねてきた。
「おなかすいた?」
「え? いや、だから……」
「おなかすいた?」
「…………はい」
「よし、では腕を振るっちゃおうかな」
そう言って腕をぐるぐる回した野雲さんは「しょうがないなー、食べ盛りの男子は」と呟きながら、やたら嬉しそうにキッチンのほうへ歩いていった。彼女はダイニングを過ぎるときに、ダイニングテーブルの背もたれに掛けられていたエプロンを取り、オープンキッチンへ辿りつく頃にはそれを着こなしていた。赤いエプロンが彼女を制服ごと包む。