第四話 移住者
こんな細かいと、百話とかいくんだろうか……。
あ、寒気だ。さっきまで何ともなかったのに、寒気がする。
「しょうがないな、俺も暇じゃないから。そろそろ言おう」
泰助はガラクタの山から起き上がると、ようやく用件を言い始めた。
「実は今日、島に引っ越してきたやつがいるんだよ」
泰助はそう言うと同時に風船を放した。ブブブブブッと唾を飛ばすような音をたてながら青色の球体がゆっくりと部屋を旋回する。
衝撃だった。
日本の太平洋側に位置する浦井島は、成人していない若者は百人にも満たない一方、住人のほとんどが高齢者である。この島の人口ピラミッドは先々代から逆三角という不安定な形を崩さない。そのうえ最近では今後浦井島の未来を負っていくであろうと思われた新成人たちも悔いの涙すら見せずに、もはやウキウキしながら「夢追ってくるわ」と離島していった。
そのせいか、両親から「本土にだけは行くな」と釘を刺されているクラスメイトも少なくはない。数学に疎い島民の言うことだから過信してはいけないけど、このまま行けば十年後には浦井島から子供がいなくなると計算されている。ピーターパンに出てくるネバーランドとは親と離ればなれになった子供たちの島だが、このままでは立場逆転した爺婆だらけの似非ネバーランドの誕生が懸念されるのも無理からぬ話だ。
若い者が次々と島を旅立つなか、本土から移住者が訪れることはなかった。観光しに浦井島の地に踏み込む者はいるのだが、最先端を行く本土からすれば自給自足という言葉が現実味を伴って健在している島というのはいささか住み難いのであろう。
しかし、目前で子泣きじじいのような顔をした泰助が言っていることが本当であるならば、その理念はくつがえされることになるだろう。
「男か? それとも……お、女?」息を呑むように訊ねる。
空中で低い音を立てていた風船はだんだんと小さくなっていき、最後の力を振り絞るように速度が上がったかと思うと、ガラクタの海の中へ墜落した。
「とびきりの美少女だ」
憚るも、鼻孔がぶわっと広がるのを感じた。腹の奥底でどんどんと太鼓の演奏が始まる。露骨なリアクションをとった僕を見て泰助が「思い通り」とでも言いたげな笑みを浮かべているのは甚だ面白くないが、そんなところではない。
「それは事件だな」
僕はあっさりと肯定して、泰助の返答を待った。もちろん、高尚と書いて低俗と読む探偵団としては、このままで終わらせるつもりなどないのであろう。
「でもさ、この島に越してくるっていうなら、まず高尚探偵団にあいさつをするのが筋ってもんだよな」
裏井島の存在を本土の人間が知っていたというだけでも感激ものであるというのに、島の人間ですらしらないような探偵団の存在をどう知れというのだ。それに、あいさつをするのが筋とは何様になったつもりか。ただ、あえて突っ込まずに聞き流す。
「まあ、おおかた引越し作業が忙しいんだろうな。……そこで、高尚な団員としてこちらから直々にあいさつに行こうじゃないかと思う」
「それはいいな。すごく良い」
僕は握り拳を作ると、小さくガッツポーズをした。