第三十四話 嘘
少し、気分が暗い状態なので、推敲もままならず。
「そう、それは死ぬか生きるかのギリギリの境目で犯行を中断しているということだ。たとえば、半裸で砂浜に気絶していた男は、もし誰にも見つけられなかったら潮が満ちて溺死していただろうし、ベランダから身を乗り出して気絶していた男は、むやみに暴れるとロープの結び目が解けて転落死していた。凍死寸前で気絶していた男は、警備員に発見されるかされないかで生死が決まっていた。竹内もそうだ。火で煙が上がり、それをみた住人が助けに来なかったら焼死だ。まあ、あの時は高尚探偵団の活躍により助かったが」
泰助は少し自慢げに眉を上げる。そしてすぐに真顔に戻り、続けた。
「つまり、今事件の犯人はそうとう狂ってる頭の持ち主だ。生きるか死ぬかのデスゲームを自ら主催して楽しんでんだ。竹内のことも、どこかの陰から成り行きを見てたに違いない」
泰助があまりにも饒舌に言うので、突っ込む暇がなかったが、さすがに僕は限界を感じた。
「待てよ。本土でも同じ事件が起こってたってことは、つまり、今回の犯人は本土からやってきたってことか?」
「そうだけど?」
「だ、だとすると!」
僕は上滑りしそうになる声を一度呑み込んでから、続けた。
「一番に怪しいのは、野雲さん本人じゃないか!」
「そうだけど?」
なんてことだ。こいつ、もう気付いていたっていうのか。
僕はこの島にいつ誰が観光しに来たかなんて把握していないけれど、引っ越してきたのは野雲さんだけだ。だとしたら、真っ先に猜疑を掛けるべきは野雲さんだったんだ。そうだ、僕だって思っていたじゃないか、「この島に黒フードの男なんていない」って。つまり、黒フードの男の存在は野雲さんの嘘。野雲さんと竹内の事件内容に誤差が生じていたのはこのためか。犯人と被害者だから、犯人は自分に都合の良い言葉を連ねるし、被害者だって自分に都合の良い――ん?
そういえば、竹内の言い分のなかには、野雲さんのではない視線の主が登場していた。それに、野雲さんを無理やり下山させ、その直後に襲われているのだ。つまり、野雲さんに犯行は不可能か。
頭がこんがらがってきた。
「竹内の事件内容では、野雲さんは犯人じゃないことになるぞ?」
「そうだけど?」
……おい。
僕が不満げに睨んでやると、泰助は少しだけ吹き出して、笑った。
「まあ、つまりは、竹内は証言の中に何らかの嘘をついてるってことだよ。だから、その嘘が混じっているまま、事件内容を広めるわけにはいかなかったんだ」
医者やクラスメイトに事件内容を話さなかったのは、そのためか。竹内が嘘の証言を広めると、周囲はその証言を信じ込み、あとで反復するのが難しくなるから。新事実が浮上しても、受け入れてもらえないかもしれないから。
「一応だけど、行っときたい場所があるんだ」
泰助は立ち上がると、反応をうかがうように僕の顔を見た。
「どこにだよ」
「港」
ああ、なるほど。