第二十七話 炎
グロい。の定義がよく分からなかった。今回の表現はグロいものなのか。しかしながら、「あー、あたしグロいの無理! 無理無理! もう読むのやーめよっと」とページをバックしようとしている諸君は早まることなかれ。グロいのはあくまで表現であって、作品にグロい情景はでてこない! はず!
……って、いうか。なんで私はこんな必死に読者を引き止めているのだ! 逆に怪しいではないか!
痛む肩を手で押さえ、無残な格好の竹内を中央に視界を固定する。
炎が、揺れていた。隕石みたいに巨大な岩の前、自然発火とかでなく、確実に故意に誰かが点けた焚き木が、風に煽られ燃え盛っていた。そして、その揺らぐ炎の先端のすぐ先に、竹内の後頭部があった。
「だ、だれか居るのか」
竹内は息も絶え絶えにそう言った。
僕は、ありえない情景に身動きができず、声も発せなかった。ただ、その現状を把握するために脳を酷使するばかりだった。
巨大な岩には大きな鉄の杭が二本打ち込まれていて、それぞれロープが括られていた。右側の杭は竹内の右足を、左側の杭は竹内の左足を捕まえて縛っている。ちょうど竹内は岩に逆さまで腹ばいになるよう固定されていた。
「おい、こんなことするなよ! 今なら警察には言わないからさ! ほら、何か俺に恨みがあるんだろ? なら、話は聞くし、ちゃんと謝るよ! だからさ! 助けてくれよ!」
そう言って、竹内の身体はじたばたと波打つ。僕を犯人だと思っているのか、話し方は諭すようだが、身体はもう限界なのだろう。
「なあ! 熱いよ! 熱いって! 顔が焼けるようなんだ! 何でもするからさ、助けてくれ! ほんと謝るからさ! ほんと……」
火が盛るすぐ上だからか、呼吸もまともにできないのだろう。竹内は苦しそうに言葉を呑んだ。言わばサウナに入っているときのようなものだ。もしくは、それよりもっとキツい。
僕は、何か言わないといけないのに、今すぐにでも竹内を助けないといけないのに、立ちすくんでいた。このままでは竹内が死んでしまう。それは分かっているのに、身体は完全燃焼でもしたかのごとく、動いてくれない。
僕は、これほどまでに、自分の背中を自分で蹴ってやりたくなったことがあっただろうか。これほどまでに、もどかしいことがあっただろうか。
すぐ、本当にすぐそこに、助けるべき相手がいるというのに。
「俺の……顔が、焼ける……これじゃ、俳優なんて……」
――俺、俳優になりたいんだ。
記憶の海の奥底から、突如として気泡のごとくその台詞が浮上してきた。
その瞬間、僕の足はスイッチが切り替わったように動き出し、同時に「竹内!」と声も上げていた。
「え、お、誰だ?」
拍子抜けしたように竹内が声を発する。
僕はそれには応えずに、杭を抜こうと岩に飛び掛る。杭は岩の頂上近くに打ち込まれており、よじ登らなければ届かない。幸いにも岩には窪みが多々みられ、それに手足を引っ掛けて登ればすぐに杭へ届くことができた。ここは子供の頃あまり近づかなかった場所ではあるのだが、親と遊びに来たことはあって、そのときも同様岩によじ登って遊んでいた。つまり、このロッククライミングは経験済みだったのである。
しかし、問題は登ってからであった。