第二十六話 痛み
今日は三話ぐらい連続で投稿すると思います!
突き進むにつれて、少しずつ足元がぬかるんできた。けれども、もはやこけても構わないというふうに、僕は悲鳴のしたほうへ走っていた。大樹が目の前に立ちはだかれば、舌打ちをしながら身体をひねって回避する。細い枝が視界を邪魔すれば、躊躇なくへし折りながら駆け抜けていく。そして、僕の体のラインに切り取られた木々の隙間をぬうように、泰助が後に続く。
気付けば、頬やら足やらは傷だらけであった。しかし、止まるわけにはいかない。もしも、さきほどの悲鳴が竹内のものであったなら、きっと今は彼のほうが痛い目に遭っているはずだ。
さすがに、足を取られる土のうえだと、アスファルトとは違って疲れがたまりやすい。しかも若干坂道だ。泰助も事の重大さが分かっているようで泣き言一つ口にしないが、もしかすると、彼が泣き言を言ったところで僕には聴こえていないのかもしれない。それほどまでに距離があいているのだ。もはや泰助を気遣うほど猶予はない。
やがて、前方から水の流れる音が鼓膜を撫でた。源流である。細い木々もなくなり、巨大建築物の骨組みのごとく大樹がいくつも天に伸びている。夜にしては辺りがよく見えるものだと思ったが、どうやら雲が薄くなり、月が顔を出していた。月光は大樹にある程度遮られながらも、僕の足元まで届いている。スポンジのようなやわらかい土がいつの間にか、敷詰められた岩に変わった。湿っていて、さらに滑りやすくなった。
傷口が、風にさらされて痛い。激しい運動にともなう身体の動きにより、傷口は引き伸ばされて、パンツの布が破れるように裂け広がり、無理に収縮され血を溢れさせる。身体のしくみはよく知らないけれど、もしかして人間は細い繊維のようなもので構成されているんじゃないかと思った。そして、今は足のそれが千切れてしまうのではないかと感じていた。
ふいに、踏み込んで前へ蹴り上げようとした足が、岩と岩の間に挟まって突っかかった。前のめりに一瞬だけ宙へ浮き、受身を取ろうとして肩を強打した。
言葉にならない激痛が、体中を駆け巡る。肩を打ったというのに、つま先まで痺れているのが不思議だった。人間が痛みに堪えるとき、同じく痛みで紛らわすというのはあながち間違ってはいないようで、なぜか僕は左のふとももを思いっきりつまんでいた。
歯を食いしばりながら、僕に激痛を与えた岩を支えにして立ち上がる。遥か後方から僕の異変に気付いた泰助の大丈夫か、という問いかけがあったが、後ろを振り返ることもなく、また走りだす。
駆ける足が地面を踏み込むたびに、振動で肩を痺れさせた。明日には大きな青痣が拝見できるだろうなと心の中で苦笑しながら、満身創痍の身体を無理やり走らせる。その甲斐あってか、源流には速やかに到着できた。
そして、そこで僕はありえない光景を見た。