第十七話 冬
やはり、これだけ短い文章とすぐに更新ができる。
これは怠惰な作者にとっては革命的な発見なのである。
「じゃあ、野雲さん、そろそろ行こうか。二人の邪魔しちゃいけないし、まだまだ見せたい場所があるんだ」
先ほどから吹き付ける風によりワックスで固めた髪形が崩れるんではないかと不安そうな竹内は、僕たちと野雲さんの清く正しい邂逅を手早に済まそうと横から急かす。
「竹内、学校案内してんの?」
僕は訊いた。
「ああ、野雲さんから直々に頼まれてさ」
どこか自慢気な竹内は鼻の下を親指でぬぐってから、「さ、行こう」と野雲さんを促した。私服で構わないにも関わらず、引っ越し以前の学校での制服に身を包む野雲さんは、スカートと黒のハイソックスの間で露出した太ももを擦り合わせながら「そ、そうだね」と寒そうに返事をした。
僕は空になった弁当箱を閉じて、二人を見送った。
泰助が最後のカツサンドを食べ終わり、両脚を投げ出して椅子に深くもたれかかった。そして、四肢の間接を引き伸ばすように両手を上げて背伸びをしながら言う。
「本当に可愛いなあ。ファーストコンタクトを竹内に取られちまったのは残念だが」実はファーストコンタクトの相手は僕なのだが、いまさら掘り返すことでもないし、掘り返したくもないし、掘り返すと大変なことになりかねないので、そのまま埋めておくことにした。
「まあ、竹内は確かにこの高校のなかでは一番の美男子だからな。あの二人が校内を歩いても何ら不思議がるやつはいないだろうな。悔しがるやつは数多だろうが」
僕は、悔しがるやつを横目で見つめてやりながら言う。
「竹内は男子の中では一番の容姿だろうが、それでも野雲さんとは釣り合わない。というか、竹内って自分のこと格好いいと思ってるからさ、どんな女と付き合っても自分が上の立場に居ようとするぜ。そういうやつは、すぐフラれるさ」
泰助が負け惜しみを言う。言っていることは間違っていないのだが。
「まあ、高尚探偵団とかいう意味不明珍妙集団に在籍してるような輩よりは竹内の方が幾分かマシだろうよ」皮肉を言うと泰助が本気で睨み付けてきた。団長は団長なりにプライドがあるのだろうか。
とりあえず、気まずくなるのは避けようと僕は席を立った。
「寒いし、教室に戻ろうぜ」
おそらく、モッズコートに身を包む僕より、リンゴの絵がプリントされた長袖シャツに紺色の七分丈のズボンである泰助のほうがよっぽど凍えていたのであろう。泰助は間を置かずに頷き、つられて立ち上がった。
「もうすぐ冬か」
泰助がそんなことを呟く。もうすっかり冬と言えるのだろうが、例によった服装で年を越さんとする泰助にとってはこれからが正念場なのであろう。
僕らを教室へ促すように、追い風がピュルルと吹いた。