第十三話 チュパカブラ
うーん、時間がなかったので、微妙なところで切ります。
「悪いが寝顔は見ていない」
とりあえず「は」を強調して言ったが、泰助はそんな配慮にも気付かずに「駄目だったかあ」と落胆している。説明するのも面倒であるから、今夜における美少女との邂逅のことは伏せておくことにした。
「そろそろ帰るから、ジャージを返せ」
雨に体温を奪われたせいか、泰助の鼻の下には明け方の草の表面に見られる露のごとく鼻水が閃いていた。その各地の名だたる病原体を全て凝縮させたような汚水を今にも泰助が腕でぬぐってしまいそうで怖い。
「まあまあ、着替えると寒いし、もうちょっとこのままで居ようや」
「僕は帰らないと親に怒られるから」
本当にランニングをしていたなら、そろそろ帰宅してもいい時間だ。くずくずしていると親に何をしていたのかと怪しまれる可能性がある。そして、怪しまれたまま『昨晩、新住居者の自宅に誰かが忍び込もうとした』なんて噂が立てば、気泡のごとく僕の名が浮上してくるだろう。
「なんか言い訳つければいいだろう」
「たとえば?」
「チュパカブラを見たとか」
泰助はこちらに振り向くと、こめかみにやんわりと拳を当てて言った。
「……もういい、ジャージを返せ。あとそれは招き猫のポーズな」
僕が指摘してやると、泰助はけらけら笑ってからジャージを脱ぎ始めた。僕もゆっくりと起き上がり、イライラ棒ゲームでもするような慎重さで泰助の服を脱いだ。膝の上に僕のジャージが放られ、お返しに泰助の服もキーボードの上にシュートする。濡れたジャージを渋々と着衣すると、肩がひんやりと冷たくて肩が勝手に震えた。泰助も同様で、「おお、さむっ」と呻いている。
なんだかんだ、表情が明るいのはミロス君だけであった。