第百九話 ゲーム
スポットライトに当てられたように、視界が一瞬だけ真っ白になり、僕はそのショックで後ろへ尻餅をついた。全身が痺れていて、今もなお電流を流し続けられているのではないかとすら、疑うほどだった。まるで眼球の表面に白色を貼り付けられたように視界は真っ白で、後ろについた手から伝わる川辺の石の感触だけが、現実と僕を繋いでいた。
「このスタンガン、改造されてるから出力が強いの」
砂利を踏みしめる足音が、遠くから近づいてくる。僕は何度か目をしばたたかせてから、声のする方へ向きなおった。
「でも、気絶はしなかったんだ。すごいすごい」
小刻みに震える視界の中に、悠々と歩いてくる野雲さんがいた。彼女は微笑んでいたが、半開きになった瞼から覗く黒目は僕を見下すそれだった。
「せっかく助けにきたのに、残念だったわね」
野雲さんは片手に持ったスタンガンを僕に見せびらかすようにしながら、にこりと笑った。
「野雲さんの過去が、いろいろ辛かったのは、分かった」
それだけ言うにも、僕の身体は疲労を要した。唇を動かしただけで、頬がひりひりと痛んだ。「でも、今やってることは、間違ってる」
「そんなことは、もうわかってるのよ」
スタンガンに流れる青い電流が、かすかに僕の恐怖感を煽った。野雲さんの表情には、いつのまにか残酷なにかが混じり始めていて、そこには殺意のようなものも確かにあった。
「はあ、もうどちらにしても駄目ね。私はこのあと警察に捕まるわ」
今までとは違い、彼女は事を大きくしすぎた。もしも裁判になったとしても過剰防衛として扱われるだろう。これまでのようにはいかない。
「だから、これが最後のゲームなの」
ようやく、僕の身体から痺れがぬけ始め、視界が明瞭になった。「私を殺して。でないと、空島泰助が死ぬわよ」
野雲さんはそう言うと、すかざず状態を前へ倒し、スタンガンを所持した手を真っ直ぐ僕へ伸ばしてきた。僕はぎょっとしてそれを寸前で交わすと、転がるように川の脇の茂みへと逃避した。
導火線のように辿っている炎が泰助の元にたどりつくまでに、あと十分ほどある。それまでに、野雲さんをどうにか対処し、泰助を助け出さなければならない。しかし、彼女はスタンガンを持っていて、隙が無い。それに、もし一発でも直に電撃を食らえば、泰助を助けるどころか自分まで危機にさらされることになる。
「男のくせに、隠れるんだー? かっこわるーい」
僕は茂みを奥へ奥へと進みながら、背中にそんな声を聞いた。彼女は、やはり男を凌駕することに快感をもってしまっている。ずっと弱い立場でいたため、自分が男という強い存在に勝っていることが嬉しいのだ。
走ると腕を振るたびに草木がすれるような茂みのなかを進み、なにか彼女に対抗できる武器はないかと探し回った。せめて、頑丈な木の棒でもあれば、スタンガン相手にでも戦える。スタンガンは強力だが攻撃範囲は狭い。その範囲に入らずに戦えれば、何とかなるかもしれなかった。
時間は無いが、猶予はあった。それは、野雲さんが追ってこないという確信があったからだ。もしも僕を探しにいっている間に僕がすれ違いで泰助のもとへ助けにいけてしまったら、ゲームに負けてしまうからだ。この辺は、缶ケリのルールのようで、本当にゲームかなにかに思えた。
そうして、しばらく探し回っているうちに、ちょうど僕の腕ほどある太い枝を見つけた