第百二話 復讐
あと二話ぐらい、野雲さんの過去が続きます。
あの夜以降、私は家の敷地から踏み出ることはなくなった。それおろか、自室のベットから起きない日すら度々あった。この世のすべてが嘘くさく思え、信じられるのは自分だけになった。
あの夜、私が男らの犯されていた頃、父は公園のトイレで気絶しているところを団地の管理人に発見された。それから私の姿が見えないことに気付き、買い物袋を放置したまま住宅街を駆け回った。
ようやく私を見つけ出したころには、男らの面影はなく、地面でうずくまってすすり泣く私の姿だけがあった。服を破かれ半裸の姿となった私をみて父はいきさつを察し、その場で怒りの咆哮をあげた。
私を家へ連れ帰ったあとも、父はクマのように家中を往来し、血走った目で床をみつめていた。私の意向で警察には通報せず、私が悪漢に襲われたことを表ざたにしないことを優先させた。ただ、愛娘に手を出した男らが悠々と生活を続けていることに、父は狂わしいほどの怒りを顕にしていた。
潮が満ちる前の浜辺で気絶している男が発見されたのは、それから間もないころだった。縄で逃げられないように縛っていることから事件だと警察は調査をすすめたが、犯人の足は捕まえることができなかった。
それから、さまざまな男らが死亡寸前で放置される事件が頻発した。ベランダから吊るされていた男は、その恐怖から精神異常をきたし、それ以降何かに怯えるように過ごした。中には助けが及ばず死に至った男もいた。
部屋で閉じこもっていた私がその事件を知ったのは、すでに五人目の被害者がでたあとだった。ちまたでは『男』だということ意外、被害者に共通点はみつからなかった。しかし、私にはそれがある条件に基づいて行われていると知った。
彼らは、私を散々に犯した男らだった。
五人のうち、死者は二名。二名は精神異常をきたし、背後に誰かが立つだけで酷くおびえた。残り一名は右足が焼け焦げ車椅子の生活となった。
言わずもがな、犯人は父だった。
「すまん。どうしても、許せなかった」
自室に父を呼び出したとき、すでの父は腹をくくっていて、私から何か質問をされる前にそういった。
「明美。オマエがトラウマから立ち直り、立派な大人になったとき、私は自首することにする。それまでは私が絶対に守ってあげるから、安心しなさい」
父は、唯一信頼できる男性だった。
その時の私の精神状態では、殺人まで犯した父を侮蔑するどころか、心から感謝した。そして、まるで自分の手で男らに復讐を果たしたような気分があり、清々しかった。
それから、男たちに汚された身体を綺麗にしたいのだと父に頼み込み、私は実の父親と愛し合った。父は腑に落ちない様子だったが、結局は私の願いを何でも聞き入れた。
そうして、私は学校に復帰することができた。
私が大人になるまでは、父が守ってくれる。そう思うと、私は鋼鉄の鎧でも装着した気分になって、外を歩くのも平気だった。
けれど、高校二年の冬。父はもう私を守ることが叶わなくなった。
交通事故で、他界したのだった。