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第十話 ドブネズミ

いやあ、すみませんねえ。こんなちょびちょびと酒を飲むような更新の仕方で(未成年により、お酒飲んだことないですが) 展開遅いですよね。

 ヤモリのように指の腹をピタっと窓にひっつけて、ゆっくりとスライドする。その間には自らの体重を片手で支えなければいけないので、配水管を抱きかかえるようにして、しっかり固定した。


 手汗のせいか、はじめはガラス表面で指が滑るばかりだったが、少し力を入れてやるとスーッと音もなく開いた。その瞬間、僕は思わず息を呑む。


 外界と室内の空気が繋がった。視界を遮るのは薄っぺらいカーテンだけで、風が吹けばそれだけで僕と美少女の居る空間は合わさる。なんとなく、背中の筋肉がこわばっている気がした。


 たとえば、僕らが食い捨てられた果実を見つけては種に付着する果肉を突っつく下種で卑劣ではしたないドブネズミだったとしよう(いや、泰助の場合はドブネズミの方がまともな生物かもしれない)。そして、対するが巨万の富をなす夫婦の間に生まれた娘の飼っているハムスターだ。それはもう白くてふわふわで、まん丸の潤んだ瞳がたまらないような高貴なハムスターだ。


 もちろん、僕らドブネズミは異種だろうがお構いなしに懇ろになろうとするだろう。「身体のつくりや生態はおしなべて似ているというのに、なにゆえ我々は蔑まされなければならないのだ! 同じネズミ科ではないか! だいたい名前に『ドブ』を付ける時点でなめられている! 違ってハムスターなんて美しすぎるではないか! 我々にはそのような待遇はないのか! 不当だ! もっと愛でられたい!」と抗議に乗り出すかもしれない。


 しかし、ある日いきなり例のハムスターと同じ箱に入れられたとしたら、どうなるだろうか。同じ空気を吸って過ごせと命じられたら、どうなるであろうか。そう、安直に首肯はできまい。


 軽蔑されるだろうという憶測からの恐怖。致死量の興奮、それに伴った鼻血による出血多量死のおそれ。清らかな空間を自分の存在が汚染しているという後ろめたさ。自分の欲に逆らわず爛れた生活へと堕していくこと厭わなくなる背徳感。


 こういった色々なことが脳裏で交差し葛藤を呼ぶはずである。


 まあ、現時点における僕の脳内情報は大方そんなものだ。


「こんな阿呆なこと……」


 成功すれば友人間での武勇伝、失敗すれば島全体での恥さらし。


 目の前のカーテンがかすかに風で揺らいでいる。まるで僕の薄っぺらい決心のように、ゆらゆらと白と青のストライプが小さく波打つ。


 泰助に声を掛けようにも、残念ながらその声は美少女の枕元まで届いてしまう可能性がある。彼の後頭部を強く睨むことで、じりじりと煙を立ち昇らせて髪を焦がし尽くせたりはしないものか。いや、できるものなら、こういう緊急時の前に普段、所余すことなく全ての場面で使用しているに違いないが。


 しばらく無駄なことを考えていたが、気付くと手がしびれ始めていた。さすがに、体重を支え続けるには腕一本は厳しいらしい(一応、脚も使って支えているが)。湖の白鳥は優雅に水面を滑っているように見えて水中では必死に足を動かしているというが、なまけものだって何食わぬ顔して実は必死にしがみ付いているのだと同情した。


――もういい、限界だ。


 心の中で呟いたのか、実際に口を開いて囁いたのか自分でも分からない。ただ、とにかくやってやろうとカーテンの端を掴んだのは、紛れもなく僕の熱意たぎる愚行だったと思う。


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